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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
最終幕 魔法少女の再会
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あなたなしでは生きられない

 運命という言葉がある。

 それは、昨日も、今日も、明日も……その全てが決まっているということで。

 あの日に起きた出来事も、起こるべくして起きたものだということ。


 その言葉の通りなのだとしたら、僕と彼女の出会いも別れも必然だったということだろう。


 それならきっと、この再会もまた運命なのかもしれない。


『僕はね、旅に出たんだ』


 目の前にいて僕を見据える彼女に、今までのことを話し始める。


 僕が旅に出た理由。それはキミを探すためだ。


 以前、身体を失ったキミは遠い街で目が醒めた。

 それと同じように、今回だってどこかにキミがいるんじゃないかと思ったんだ。


 キミを見ることのできる人はそんなにいない。

 だから、僕が直接見つけに行く他なかった。


 旅をする中で、困難なこともあったし、色々な出会いや別れがあった。

 けれど、キミを見つけたいという思いはずっと変わらないままだった。


『そうして、あの街にたどり着いた』


 僕が旅に出て、もう五年が過ぎようとしていた頃のこと。

 立ち寄った街にはサクラという木が花を咲かせていた。

 なんとなく、キミが昔話していた街を思い出させる景色。

 その街の中に、小さな花屋を見つけた。


『そこの店長さんね、僕を見て「おかえり」って言ったんだよ』


 そこはキミが十年間もお世話になっていた花屋だった。

 店長さんはキミのことを憶えていて、いつか帰ってくるんじゃないかと思っていたらしい。


 僕はあの日の出来事からキミの身体を使っている。

 けれど、僕は僕であって、キミじゃない。

 それを店長さんにしっかりと告げた。


『なら、ちょっとここに住んでみない? ほら、お菓子もあげちゃうから』


 キミに聞いていたよりもずっと強引な人ですごく困った。

 その後、キミについての話で盛り上がって意気投合して、僕はその街で一年間過ごした。


 その間に興味深いことを聞いたよ。


『花が好きだったから、そこから名前をつけてあげたんだ』


 キミの名前は、その店長がつけてくれたものだった。

 よくよく考えてみれば、記憶喪失だったのだから名前を憶えているはずがない。


 薄紫のかわいらしい小さな花。プリムローズとも呼ばれるその花が、彼女に似ているように見えて、そう呼ぶようになったらしい。

 後で確認をとったけど、ニンフェアというのが親からもらった本来の名前だそうだ。


 時間をかけても僕は結局、その街でキミを見つけることはできなかった。

 けれど、その人にヒントをもらったんだ。


『あの子はもしかしたら、貴方のその小さな胸の中にいるんじゃないのかな』


 それから僕は旅で出会った色々な人に協力してもらって、キミを救い出す方法を探した。

 誰も気づいていないだけで、それを上手くつなぎ合わせることができれば、できないことはないって、思ったから。


 その方法が確立できるまでに、さらに十年近くかかった。

 けれど、これなら成功すると確信をもてた。


 魔女の森に戻ると、リーフィさんとミストさんのおかげで街ができていた。

 すっかり発展してしまったな、と思いつつも魔女の庵に行くと、そこではみんなが前と同じように、僕を迎え入れてくれたんだ。


 僕は事情を説明して、その方法……特別な魔術を行った。

 世界中の様々な魔法を繋ぎ合わせて作った、このためだけの魔術。

 父さんもローゼも巻き込んで、神の座に残るキミの精神をこの身体に戻すことができた。


「ならどうして私の記憶は忘れたままで、あなたは消えていたの?」


 彼女がそう聞いてくる。

 それが気になるのは仕方のないことだ。

 わざわざ手間をかけることなく、すぐに僕が全部を話すことができればよかったんだけど。


『キミの身体は二人分の心を宿すことはできなかったんだよ』


 本来の僕の身体がふたりで同居できたのは神の器だったからだ。

 けれど、それは特別なもので、誰もがそれができるわけじゃない。


 キミの記憶と、僕の魂を一度に入れてしまうと身体が耐えきれない。

 だから、まず記憶のないキミの魂が器に入れて、少しずつ記憶を戻していった。

 キミが自分を受け入れることができるようになるまで、僕は静かにしていた。


 途中、錬金術で作った薬にも頼ったし、周りの人にもキミに直接全てのことを話さないように協力してもらった。

 なんだかんだで一年もかかってしまったけれど、どうにか一件落着、かな。


「ずっと見てたの?」


『うん。そうだね』


 ずっと……ずっと傍で見守っていた。

 キミが僕を見ることができないとわかっていても、話しかけたこともある。

 結局、声は届かなかったけど。


 それでもいつか、こうやって話せる日を楽しみにしていた。

 その夢が、ようやく叶ったんだ。


「どうしてこんなことをしたの! 私のことなんて気にしないで、放っておいてくれればよかったのに!」


 彼女は僕を睨んでいる。

 その瞳が涙ぐんでいるのがよくわかる。


『僕もあの日、同じ事を思ったよ』


 僕と彼女は似ているのかもしれない。

 自分のために何かをするのが苦手で、他人のためにがんばってしまう。

 けれど、それが他の人にどんな思いをさせるか気づかない。


 きっと、僕らはひとりじゃ生きていけない。

 傍に誰かがいないといけない。

 それも、とても大切な誰かが。


『その花の花言葉……知ってる?』


 僕は彼女の足下に咲いているかわいらしい花を見ながら言う。


 花には花言葉というものがある。

 それは花の印象から呼ばれるものもあれば、花にまつわる様々な逸話からのものもある。


 その花の花言葉は、信頼、青春のはじまりと悲しみ、無言の愛、運命を開く。その他にも幾つかあって憶えきるのは難しい。


 ただ、その中のひとつだけ。

 僕らの心を代弁する言葉があることを僕は知っている。


『あなたなしでは生きられない』


 その言葉を言うと、彼女の怒りは静まる。

 僕は彼女に近づいて、そっと手を指し出す。


「どうして私なんか……」


 キミと僕が傍にいた時間は、僕が生きてきたこの三十年と比べたら、ほんのわずかの時間かもしれない。

 けれど、僕がキミのことを思い続けた十五年は、そのうちの半分を占めているんだ。


 僕の人生の半分はキミのことでできている。

 今はそれをようやく取り戻したってだけだ。


 そんな今だから、今度こそちゃんと自分の気持ちを言うよ。。


『僕はキミと、ずっと一緒にいたい……それじゃ駄目かな』


 本来なら魔法使いの寿命は長い。

 神樹様のせいで短くなってしまっていた僕らも、結界がなくなった今ならこれから先まだまだ長く生きることだろう。


 けれど、キミがいない人生なんて考えられない。

 僕はひとりじゃきっと駄目だから。


 キミと一緒なら、どこにいたって、なにをしていたって、きっと、かけがえのない日々になっていくから。


「本当。あなたは……」


 彼女は、涙を流しながらも、僕の手をとる。

 僕はその手を引いて、彼女を抱き寄せた。



 僕らを巡り合わせた数奇な運命は、こうして終わりになる。


 もしかしたらこれは、振り出し戻っただけなのかもしれない。

 僕らの身体はまだふたりでひとつのままだ。


 けれど、そんなの構わない。

 たくさんの苦労があっても、僕らはこれから先の未来を、望んだ形で描くことができるのだから。


 だから今は、そんな苦難な日々の終わりと、幸せな日々の始まりを歓迎したい。


『これからもよろしくね』


「そっちこそ」

シア「遅かったじゃないか。もうパーティの準備は整っているぞ」

プリムラ「パーティ? なにそれ」

メグ「レンくんに頼まれてね。みんなでパーティをやろうってことになったの」

プリムラ「レン……最近私の記憶が飛んでるのって」

レン『あはは……キミを驚かせたくてみんなに手伝ってもらうために、ちょこっと、ね』

プリムラ「あとでお仕置きが必要みたいね」

リンネ「センパーイ! お酒もありますよ、お酒! 祝杯をあげましょうよ!」

プリムラ「鬱陶しい……私はレンじゃないの、わかってるわよね」

カリン「そうですよ。貴方はとっとと引っ込んで、お姉様を出してください」

プリムラ「なにこれ面倒くさい。また尻尾引っ張ってほしいの」

レン『楽しそうだね』

プリムラ「どこが!」

シグネ「ようやく仕事が終わったわ!……って、これは一体なんの騒ぎかしら?」

シア「皆の再会を祝ってのパーティだ」

シグネ「そうなの。素敵ね。そうそう……この新作のタイトル、これでいいかしら」

シア「魔法少年は今日少女に逆らえない……か。わたくしは本を読まないが、いいんじゃないか」

シグネ「なら決まりね。さて、今日は私もパーっといこうかしら」

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