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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第五幕 魔法少女の決断
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神のお告げ

 目が醒めると僕は見慣れた自室のベッドの上だった。

 意識が曖昧な中、目をこすりながら窓の外を眺める。

 暗い……まだ夜みたいだ。


 両手を頭の上に挙げて伸びをしようとしたところで、右腕が挙がらないことに気づく。

 僕の右手をしっかりと握っている人がいたからだ。


 その子を揺すってあげると、一度目をぱちくりさせてから、僕と視線を合わした。


「おはよう、プリムラ」


 と言ってもまだ夜みたいだけど。

 なんて冗談を言おうとしたらプリムラは僕にがっちり抱きついてきた。

 ちょっと、首が絞まってるって!


『よかった! ちゃんと目覚めて』


 えっ、なに、どういうこと。

 プリムラが泣きそうな顔で僕の身体をペタペタと触っている姿を見て、なんとなくただ事じゃない雰囲気を読み取った。


「おお、目覚めたようだな」


 プリムラに詳しく聞こうとしたところで、部屋の扉を開けてサイ兄が入ってきた。

 手に持っているのは、いつも薬を入れている袋?

 床にも薬品用のケースが転がっていた。


 看病してくれていたってことなのかな。


「お前は十日間も眠り続けていたんだ」


「十日も!?」


 記憶の通りなら父さんと戦った後、眠りについた。

 その後目覚めることなく、ずっと眠り続けていたってこと?

 そんなに寝てたら、プリムラだって心配するよ。


 むしろ、よく起きられたと思う。

 よく見るとサイ兄の目の下に隈ができてる。

 きっと看病のために調薬で何度も徹夜したんだ。


「ありがとう」


 サイ兄に感謝すると「いいさ、いいさ」と顔を反らした。

 そうだよね。サイ兄は褒められてないからこういう顔をする。

 それが面白くて僕はちょっと笑った。


「ところで……お前、あの魔法少女だよな」


「………はっ!?」


 僕は自分の腕や髪に触れる。

 それは本来の僕のものではなく、魔法少女の姿……ニンフェアのものだった。

 何? 僕この姿のままここで眠っていたの?

 まさかバレてないよね? バレてないと信じたい。


「頼む。結婚してくれ!」


『は?』


 いつになく低い声で反応したのは僕じゃなくてプリムラだ。

 僕はあまりにも唐突に言われたことなので反応できなかった。


「お前の魔法なら植物を成長できるんだろう。ならオレと一緒になれば最高の薬師になれるはずだ!」


 なんかサイ兄が変な野望を抱いてる!

 前に魔法少女として村の子供達に魔法を披露したことがあった時のを見られてたみたいだ。

 それにしたって結婚って……いきなり過ぎない?

 前にプリムラと婚約するはずだったという話は聞いていたけどさ。


「嫌に決まってるでしょうが!」


 僕の身体がプリムラにより勝手に動かされ、サイ兄の頬を殴った。

 サイ兄はそのまま吹き飛ばされて壁に激突する。

 大丈夫かなと思ったけど、サイ兄は薬師だし自分で治せるでしょ、たぶん。


「話し声がすると思ったら……起きたんだな」


 次に部屋に入ってきたのは父さんだった。

 僕の姿を確認すると、壁に倒れているサイ兄に話しかける。


「サイ君。少し席を外してもらってもいいか」


「レイルさんがそう言うなら」


 よろめきながら立ち上がったサイ兄は部屋を出て行く。

 父さんは『狩人』だからその意志に背くことはできないと村の掟で決まっている。

 そうでなくても、父さんの言うことなら誰でも聞く。それだけ頼れる人なんだ。


「レン……と呼んでも問題ないか?」


「うん。僕もそうしてくれると有り難い」


 父さんは若干よそよそしい。確かに、息子が魔法少女をやっていたなんて事実、なかなか受け入れられないだろうし、そうなってしまう気持ちもわかる。

 けど、僕は僕の心のままだから、父さんにはちゃんと自分の名前で呼んでもらいたい。


「レン。お前は魔女狩りを止めるように言ったな」


「うん」


 十日間眠っていたとはいえ、父さんならきっとその約束を護ってくれるはずだ。そういう信頼はある。


「だったら、お前に魔女狩りについて話しておかなければならないだろう」


 そういう切り口で、父さんは語り始めた。

 この村で行われている魔女狩り。その本来の目的を。


「あれは俺たちが生きるため、そして神樹様を癒やすためにやっていることだ」


 この森に伝えられる神、神樹様。

 何百年も昔、神樹様は帝国の前身となった小さな国にその力を狙われた。

 その際に襲ってきた神や魔女たちに立ち向かったのが神樹様より力を授けられた『守人』と『狩人』のふたり。


 どうにか戦争で勝利をおさめたけど、神樹様は大きく傷ついてしまい眠りについてしまった。

 そんな神樹様を癒やすには膨大な魔力が必要で、そのために『守人』も『狩人』も魔力を吸われ、非常に短命になってしまう。


 そこで考えついた方法が、森の外から魔力を集めるということだった。

 村に魔法使いを滞在させて、魔力を提供してもらう。

 魔物の氾濫をこの森の中で処理することで魔物の魔力を吸い取ること。


 これらを利用して神樹様を復活させることが『守人』と『狩人』……いや、この森全体の目的だった。


「だが、帝国が力をつけてしまった」


 ここ十数年で力をつけた国、帝国。

 その国を統治する神は過去に神樹様の力を狙った神が転生した存在。

 それは未だに神樹様の力を狙っているけど、この森に張られた結界のおかげでなんとかなっているらしい。


 帝国が圧力をかけてくるため、こちらに敵意はないことを示すためにも始まったのが魔女狩りという芝居。

 村にやってきた魔女を『狩人』の魔法で一時的に気絶させ、殺したように見せかける。

 こうすることで帝国と同じ思想であることをアピールした。

 そのおかげで嫌がらせは減ったそうだ。


 そして魔女は商人……つまりメグ姉の家族によって森の外に連れ出される。

 森の中にいつまでもいると僕らと同じように寿命が減ってしまうからだ。

 特に幼い子供は影響が大きいから、村に滞在させずにすぐに外に出すらしい。

 僕があの時父さんに銃を向けられたのはそれが理由だった。


「神樹様はまだ目覚めないの?」


 神樹様は傷を癒やすだけならそんなにかからないと思うんだ。

 だって、帝国の神様は転生するほどの時間が過ぎたんでしょう。

 僕の質問に父さんは首を振った。


「理由はわからない。大体は『狩人』に伝えられているだけのものだからな」


 父さんもまた父親から教わったもの。

 それが父さんの口から僕に伝わっただけ。


 うん、そうだね。

 これをどう解釈するのかは次の『狩人』の僕が決めることだ。


「わかった。まさか、魔女狩りにそんな理由があったんだなんてね」


 村に永住することを決めた大人達はこの事実を知っているらしい。

 子供に教えないのは、それを村の外に漏らすかもしれないから。

 元々、僕には『狩人』を引き継ぐ時に伝える予定だったらしい。


 ただ、これではっきりした。

 父さんも村の人も誰も魔女を殺してなんていなかった。

 これだけで僕はかなり嬉しい。信じていてよかった。


「それとだ。お前が知らせなければいけないことがある」


 そう言った父さんは扉を開けた。

 ついてこいってことだろう。ベッドから下りて、プリムラと一緒に父さんの後をつける。


 家から出ても外は暗い。

 夜だし、仕方ないと思って空を見上げると、星が瞬いている。


 でも、なんか変だ。

 星が幾つも点いたり消えたりしている。

 流れ星ってことじゃないだろうしと思って目をこらしてみると、消えている星は何かの影になって隠れてしまっているように見えた。


「あっ、レイルさん。それにニンちゃんも。無事起きられたんだね」


 村の中を歩いているとリーフィさんがやってきた。

 えっ、なんで普通に村の中にいるの?

 それになんだか父さんのことを親しげに呼んでるし。


「状況はどうだ」


「あんまり良いとは言えないかな。すぐには悪くならないけど、これからもっと酷くなっていくのは確か」


 なんだか二人してよくわからない話をしている。

 隣を見るとプリムラが来るように言ってきたから、後を追って建物の上に乗る。


「なに……これ」


 高い位置から見た景色。

 いつもなら夜の暗闇で遠くまでは見えないはずなのに、今日は地平線がはっきりと見える。 うぅん、違う。森の外だけが明るくて、ここだけが暗いんだ。


 それを踏まえてもう一度空を眺める。

 夜の空だと思っていたのは、よく見ると太い枝と葉。

 確かに流れ星は神樹様の木の実と聞いていた。

 だけど、まさかそんなことって。


 この森全てが神樹様の枝葉に覆われて、明けない夜を過ごしていた。

 僕らの日々が崩れ去る、その時間がついにやってこようとしていたんだ。

リーフィ「サイくんにはちゃんとお礼言ったの?」

ニンフェア「えぇ、まあ……あつい一発をあげました」

リーフィ「彼、キミのために薬作り励んでたからね」

サイ「師匠!」

ニンフェア「師匠?」

リーフィ「彼、飲み込み早いね。錬金術教えたらすぐにできるようになったよ」

ニンフェア「サイ兄にそんな才能があったなんて」

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