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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第四幕 魔法少女の真実
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私の不安を和らげて

 いつものように魔女の庵でミストさんの授業を受けた後、ちょうどやってきていたメグ姉に拘束されて、僕は椅子に座らされていた。

 等身大の着せ替え人形のおかげで、僕が色々な服を着回すことはなくなったんだけど、その代わりなのか、メグ姉は僕の髪を弄っている。


 髪型には詳しくないんだけど、長い髪だから色々な形にできて、メグ姉はけっこう楽しそうだ。


「悩み事?」


「わかるの?」


「悩みがあると頭の筋肉が強張るんだよ?」


 そういうものなんだ。

 幼なじみだし僕の考えてることぐらいわかってもおかしくないか。


 メグ姉に言われた通り、僕には悩みがある。

 最近、プリムラがなんだか変なんだ。


 ぼーと空を眺めているし、たまに見ると目が合って、その後すぐに目をそらす。

 なんというか挙動不審だ。


 でも理由を聞いても教えてくれない。

 最近授業もあって話をする時間も短くなってるし、プリムラのことがよくわからなくなってる気がする。


「友達の気持ちがわからなくて」


 プリムラのことはまだ誰にも話していない。

 僕だけにしか見えないし、声も聞こえないからそれで困ることもないし。

 むしろ、そんなことを話したら僕が変な人だと思われるかもしれない。


 だから黙っておくことにしている。

 プリムラにそうするよう言われたわけじゃないけど、一応ちゃんと秘密にしている。


「その子は女の子?」


 メグ姉が髪留めで僕の髪を挟み込みながら聞いてくる。


「うん、そうだね」


 最初は魔女としか認識していなかったけど、今は普通の同い年ぐらいの女の子だと思っている。

 メグ姉は年上だったし、同い年で対等な関係っていうのは初めてだ。


「そっかぁ。妬いちゃうなぁ」


「えっ、どうして?」


「レンくん、私が婚約者だって忘れてない?」


 あっ……。


「ごめん。最近色々あったから」


「それ、なんのフォローにもなってないよー」


 成人の儀の続きは未だにできていない。

 だから正式にメグ姉との婚約をしているわけではないけど、メグ姉はそうなるよう育てられてきたんだ。

 たとえ僕がそれを知らされたのが当日だったとしても、その事実は変わっていない。


 でも、本音を言うと婚約していない状況に安心している自分がいる。

 メグ姉は本当の姉のように思っていて好きだけど、それはきっと女の子として見ているという意味じゃない。


 だから、僕の心の準備ができるまで保留しておきたいんだ。

 身勝手な事だとわかってるけど、僕はまだ心を決めたくない。


「あーっ!!」


 隣の部屋から変な声が聞こえる。確かあそこはシグネさんの部屋だ。

 メグ姉と顔を見あわせて「どうしたんだろう」って話していると当の本人が勢いよくドアを開けて飛び出してくる。

 そして、僕らの姿を見つけ、駆け寄ってきた。


「ニンフェアさん……メグさんでもいいわ。何か面白そうな話題はないかしら」


「はい?」


 よくわからないけど取って食うような目つきでそんなことを言われる。


 話を聞くと、路銀を稼ぐためにやっている旅日記。その原稿の納期がせまってきているそうだ。

 これが結構売れているらしく、高価である魔導具をたくさん持っているのはこれの売り上げのおかげだそうだ。


 ただ、出版社に金の卵を産む鶏だと目をつけられてしまったため、締め切りを守れないとひどいことになってしまうらしい。

 通りで最近部屋にこもってばかりで姿を見かけないと思ってた。


「話題が欲しいのよ。インパクトがあるもの。例えばニンフェアさんが本当は男の子で変身して魔法少女になってる……のような」


「そっ、そんな嘘書いちゃだけですよ!」


 一瞬バレたかと思ったけど、本当に適当に言ったみたいだ。

 むしろ僕の反応のせいで疑いの目を向けられているような気がしてくる。


 違うよ、私は魔法少女だよ……。

 自分に言い聞かせてたらなんか悲しくなってきた。


 そもそも結界のせいで外に出られなくて、次の旅に出かけることができないんだ。

 それで話題がなくて書けないし、原稿を届けることもできない、と。

 結界をすぐにどうにかすることなんてできないし……。


 って、ああ、そうだ。


「いっそのこと嘘を書いてみるのはどうですか?」


 シグネさんにもメグ姉にも「なにいってんだろう」って目で見られたけど、僕は続ける。


「旅日記じゃなくて、旅日記風小説を書くんですよ」


 それならこの森から外に出なくても書くことができる。

 書き方もわざわざ変える必要はないし、架空の街を旅した話ということにすれば発想しだいでずっと続けられる。


「なるほどね。あ、じゃあ私も。父に頼めば遠くの街にでも原稿を届けられると思いますよ」


 メグ姉の両親は商人だ。

 直接そこに行くことはできなくても人づてに届けることはできる。

 あとはこれでシグネさんが納得してくれるかだけど……。


「……そうね。それでいってみましょう」


 その後「ありがとう、助かったわ」と言い残し、部屋に戻っていった。


 適当に言った案だったけど、あれでよかったのかな。

 まぁ、どうにかなってくれることを祈ることしかできないけど。


「あっ、そうだ。レンくんの悩みなんだけどさ」




 魔女の庵を出て、僕はプリムラを探しに行った。

 たぶん、花壇を見ているんじゃないかな。


 メグ姉はちゃんと僕の悩みについて考えてくれていたようで、答えをくれた。

 それは、一生懸命になって話を聞くこと。


 相手がどんなことを思っているのかわからないなら、なおさらもっとよく話を聞く。

 それでもわからなかったら直接聞いてみる。

 とにかく相手の気持ちを知りたいなら、知る努力をしなくちゃダメだそうだ。


 僕にはたぶん、勢いというか、親身になってやっている感じがなかったんだろう。

 だからプリムラは教えてくれなかったんだ。

 なら、今度はちゃんと聞いてみることにしよう。


 ちなみにメグ姉はちょうどやってきたシアさん捕まえて着せ替え人形にしている。

 僕よりもさらに背が低いのでもっとかわいらしい服が着られるらしい。


 シアさんがすごく嫌そうにしていたけど、そこは一応騎士様なので一般人に手をあげることもせず、嫌々了承していた。

 ご愁傷様です。


「プリムラ」


 やっぱり花壇のところにいたプリムラに呼びかける。

 ちらっとこっちを向いたけど、すぐにまた土の方に顔を向けた。


「もしかしてさ、悩みがあるんじゃないのかな」


 なんとなく、そう思っていた。

 たぶん、悩んでいる表情ってああいうのを言うんだ。

 確信はなかったから今までは言えなかったけど、メグ姉にアドバイスをもらって決心がついた。


「僕じゃ頼りないかもしれないけど、力になるよ」


 力になりたいって思える人。僕の標。

 傍に寄って、僕がそう言葉を投げかけて手を差し出すと、プリムラは呆れたようにため息をついた。


『ほんと、頼りない人ね』


 そんな頼りない人の手をとるキミは、なんなんだろうね。

 そう思っても口にはしない。

 だって、そんなことどうでもいいことだから。


 僕は近くの切り株に座り込んだ。

 すると、プリムラは僕の後ろにまわる。


 背中同士が当たる感覚。

 お互いがお互いを支え合う体勢。

 対等っていうのは、こういう関係を言うんだと、僕は思う。


『それじゃあ、聞いてもらうから』


「わかったよ」


 いつものように命令してくれれば、すぐに聞いたのに。

 だって、僕はとっくの昔にキミのものなんだから。


『私は幼い頃、この森であなたと過ごしたことがある』


 プリムラはぽつりぽつりとつぶやき始めた。

 頭の後ろに何かが寄りかかる。きっと、プリムラが頭を上に向けて空を見上げているんだろう。


「そうだったんだ」


『憶えてるの?』


「ううん。全然」


 僕の幼なじみはメグ姉とサイ兄だけ。他に歳の近い知り合いはいない。

 だからもし森のどこかで会ったとしたら絶対に忘れるはずがないんだ。


『十年前の魔物の氾濫の後の話。母様……知ってるか。母様が私を保護するようあの村に預けたの』


 十年前というと、僕が五歳の頃のこと。それなら憶えていなくてもおかしくないのかもしれない。

 でも、だとしても父さんは知っているはずだ。

 だって『守人』の娘を預かるなんて『狩人』の父さん以外ができるわけがない。


『でも、ある日のこと、あなたと遊んでいた私は倒れた』


 えっ。どうしてそんなことに。


「その後どうなったの?」


 父さんの元で楽しそうに遊んでいる子供の頃の自分たちを想像していたら、その姿が転倒する。

 一体なにがあったんだろう。


『わからない。気づいたときには私は別の街にいて、その頃のことを忘れてた。このことを思い出したのもつい最近のこと』


 わからない……か。

 気にならないわけじゃないけど、でも、そのことはきっと父さんが知っている。

 後でちゃんと聞いてみよう。そうすれば疑問も幾つか消えるはずだ。


『驚かないのね?』


 プリムラは心外そうにそう言う。

 ああ、僕もそう思う。でも……。


「最近驚くことなんていくらでもあったからね」


 魔女になってしまうとか、身体を操られるとか、魔法少女を始めるとか。

 それの他にも、この村や周りの国のことも知って、色々ともうたくさんだ。

 驚き慣れたというか、疲れたというか。


「ねぇ、それからは?」


『それからって?』


「それからのことだよ。キミは十年間も何をしてたの?」


 森で過ごした幼少期があったとして、そこから離れた日々はどんなものだったんだろう。

 きっとそこには僕の知らない景色が広がっていたはずだ。


 僕は、プリムラのことがもっと知りたい。

 気になるし、もし何かあったときにすぐ相談にのれるようになりたい。


『そんなに知りたいなら教えてあげる。でも、長いから覚悟しなさい』


「うん、わかった」


 それからプリムラは街で過ごした十年間を淡々と語った。

 メグ姉の家にある地図にも載っていない、ずっとずっと遠い街。

 そこで気前の良い花屋の店主に拾われて暮らしていたそうだ。


 その街には季節というものがあって。

 たくさんの植物が花を咲かせる春。

 暑いけどお祭りがあって星が綺麗な夏。

 いろんな食べ物が採れる秋。

 雪が降って一面が銀世界になる冬。


 森の中の世界しか知らない僕にとって、それはおとぎ話のようで、でもプリムラが言うことで確かにそういう世界があるんだなって思えた。


 僕も空を見上げる。

 いつの間にか陽が落ちていて、空には星が瞬いていた。


 手を空にかかげてみる。

 指と指の間にある星。プリムラが見た夏の星はこれよりもっと綺麗なのかな。


 そんなことを思っていると、星のひとつが、動いているのが見えた。


『あいたっ』


 ちょうどプリムラの頭に落ちてきたらしい。

 転がっているそれを僕は拾い上げる。


『なんなの一体』


「流れ星だよ」


『はぁ?』


 プリムラは僕を変な目で見てくる。もしかして、この森の外ではないことなのかな。


「神樹様の加護の果実。たまに落ちてくるんだ」


 ただ、それが本当に稀なのでこうして頭の上に落ちてくるなんて本当に珍しい。

 すごいおいしいんだけど、貴重品だからなかなか食べられないんだよね。

 せっかくだし、後で魔女の庵のみんなで分けようっと。


 そんな中、足音が近づいてきた。

 魔女の庵の誰かかと思って姿を隠す。話している間に変身が解けているから、見られたらちょっと困るんだ。


 けど、そこにいたのは僕が予想だにしていない人物だった。


「父……さん?」

プリムラ『あの街にも私が見える人がいたの』

レン「へー。その人ってどんな人だった?」

プリムラ『私のことをいじって遊ぶ生意気な女。だけど、自然と憎めなかった』

レン「そっか。その人とちょっと会ってみたいかも」

プリムラ『やめたほうがいい。とって食われるわ』

レン「……よくそんな人と十年も一緒にいたね」

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