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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第四幕 魔法少女の真実
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華やかな日々

 魔女の人数が増えてきたこと、今後もまた増えることもあるかもしれないということ。

 あと、それぞれこういう部屋があったらいいな、なんて要望もあったということで、元々あった大木の隣の木まで巻き込んで、ツリーハウスが大きくなっていた。


 それは僕もちょくちょく手伝っていたことなんだけど、やったのはほとんどシアさんだ。

 あんな小さな身体なのに力仕事が得意なんだから、騎士団に入るにはそれだけ強くならなきゃいけないんだとわかる。


 それなのになんであんなに小さいのかを聞きたいけど、絶対に本人に怒られるから聞けない。


 まぁ、それはいいとして。


 そうやって広くなった魔女の庵の端っこの部屋。

 そこは他よりも広めの部屋になっていて、人が集まって何かをするのに適した部屋だ。


 僕はそこにある机に座っていた。

 そして、その正面にミストさんが歩いてきて、指揮棒のようなものを持って言う。


「それじゃあ、今日は魔法について教えようか」


 成人の儀とそれにまつわる騒動からもう一週間が過ぎた。

 主役である僕がいなくなったことや、メグ姉が儀式を行わなかったことで村から怒られることになったけど、そこは魔女と遭遇したという話をしたことでなんとか許された。


 それでも反省する必要があるとして、ふたりして牢に閉じ込められることになったけど、まあ、それぐらいならいいかってなった。


 儀式自体は後で行う予定だそうだけど、それはまだ先の話だそうだ。


 そして、ミストさんとあの魔女……リーフィさんのことだけど。

 世界を救うなんて言われてもよくわからなかった僕に、ふたりはある提案をしてきた。


「まずは私たちのことを知ってもらいたいんだ。その上でキミの答えを聞かせてほしいの」


 僕はその提案を受け入れた。

 ミストさんの言ったことに反論できないのもそうだし、僕も彼らのことを知らないといけないと思っていたから。


 そうして、ふたりもまた魔女の庵に住むことになった。

 ちょうど部屋ができていたし、顔合わせも問題なかった。


 でも、「タダで済ませてもらうのも悪いから」とミストさんが言い出して、リーフィさんの提案で僕に魔女や魔法、周りの国のことを教えてくれることになった。

 どうやら本来は学園と呼ばれるところに通って学ぶ知識で、国によっては一般常識とされているものだそうだ。


 この森の中で生活する分には必要ない知識だけど、魔女と関わる僕にとっては必要なものだ。

 だから、わざわざ紙とペンを用意して、こうして授業を聞いている。


「まず昨日のおさらいから。魔法使いと、その魔力について……ちゃんと理解できてる?」


 魔法使い。

 この授業を受ける中でまず最初に聞いて衝撃を受けた言葉。


 村では魔女が魔法を使うと教えられてきたけど、外では違うそうだ。男の人でも魔法が使える。だから総称として魔法使いと呼ぶ。

 この間僕が動けなくなったのはミストさんの魔法だそうだ。


 信じられないことだけど、外の世界では魔法使いは当たり前のように存在していて、普通の人間と共同生活しているらしい。

 ただ、国や村によっては差別もあって、この村のような状況もよくあるとのこと。


 魔力というのは魔法を使うために必要なもので、魔法使いはこれを身体にため込むことができる。

 逆に魔法を使えない普通の人にとっては毒になることもあるらしい。


 魔力は無くなってしまうと回復するまで待たなくちゃいけない。

 残量が減ってくると気を失うそうで、魔法の使いすぎには注意しないといけない……と、昨日メモしていた。


「はい、大丈夫です」


「それじゃあ、次に進むね。魔法使いはそれぞれひとつだけ魔法が使えるんだ」


 そのことはシグネさんが前にちょっと話していたから知っている。


 例えばシグネさんは物を仕舞ったり、取り出したりできる魔法。

 これで箒だけじゃなく日用品とかも出していて、物は作るしかないここでも優雅な生活をしている。


 リンネさんは火水風土を操る魔法だっけ。

 ただし制御ができないから封印している。周りに被害が出るのもそうだけど、あんまり騒ぎすぎるとこの場所が村にバレてしまうから。


 カリンちゃんは手や足が触れているところから鎖を出す魔法。

 頑丈で攻撃にも使えるけど、禍々しいし、あんまり似合わないから僕の目の前では使わない。

 けど、リンネさんがしつこい時とかは使ってるみたいだ。


「魔法が使えるようになる条件はふたつ。ひとつは親からの遺伝。もうひとつは神様からの祝福」


「祝福ですか?」


 親からの遺伝というのはなんとなくわかる。

 でも、祝福と聞いてもよくわからない。


「いわゆる国ごとにそこを管理……というより見守っている神様がいるのはわかる?」


「それは……まぁ」


 この森にも神樹様の存在が伝えられている。

 外の世界にも同じような存在がいるってことでいいんだと思う。


「そんな神様が人に力を与えることがあるんだ。それが祝福。これは子供が産まれた時に与えられることもあれば、ある日突然ということもある」


 ミストさんは背後にある黒板に図を交えて書いていく。

 神様が人に力を与えて魔法使いになる。わかりやすい。でも。


「どうして神様はそんなことをするんですか」


「詳しい理由はその神様に聞かないとわからないけど、大体は国を発展させるためだね。魔法があることでできることは増えるし、外敵にも対処できるようになる。他に、神様に目的があって、人に使命を与えることもあるよ」


 前者はともかくとして、後者に関しては結構身勝手な気がする。

 そりゃあ、神様なんだからなにしたっていいのかもしれないけどさ。


 あれ、というか。


「神様って話せるんですか?」


「相手によるね。人に紛れて歩いている神様もいれば、だんまり決め込んで何も話さない神様もいる。けど、教会や国王だけが話せるというのが一般的だろうね」


 そう考えると、この森はどうなんだろう。

 神樹様はただ伝えられているだけで会話したなんて話は聞いたことがない。

 もしかしたら父さんならわかるかもしれないけど、急にそんなことを言ったところで不審がられるだけだろうし……。


「話を戻すね。魔法は遺伝か祝福によって得られるけど、ひとつだけしか使えない。けど、実は例外があるんだ」


 脱線してしまった話を戻したミストさんは僕の机のところにやってきて、杖を何本か置く。


「これは魔導具。簡単に言えば魔力を流し込めば魔法が発動する道具だね。ちょっと高価だけど、便利なものだよ」


 そう言って杖を持って見せて、それぞれ杖の先から火、水、風が飛び出した。

 どこかで見覚えがあると思ったらシグネさんが魔物の氾濫の時に使っていたものだ。


「魔法を陣の形にして封じてあるんだ。だから魔力さえあれば誰でも扱える。これを魔術と呼ぶこともあるね」


 それから僕はミストさんから色々な魔導具を手渡されて使ってみた。

 魔法少女になっているから、そういうのも普通に使えるみたいだ。


 後で聞いた話だけど、どうやらあの空飛ぶ箒も魔導具のひとつだそうだ。

 高価って言っていたけど、そんなものをぽんぽん出せるなんてシグネさんやミストさんっていったい……。


「なにか質問はある?」


 魔導具の扱いが一段落したところで、ミストさんはそう聞いてくる。

 今日の授業の中で気になったところ。

 書いたメモを読みながらちょっと考えてみる。


「魔法がふたつ使えることってないんですか?」


 魔導具という魔法を使う道具があることはわかる。

 この間リーフィさんが複数の魔法を使っていたように見えたのもそのせいだ。


 でも、そうじゃなくて。

 ミストさんが言ったことが正しいのなら。


「親からの遺伝で魔法が使える人が神様に祝福される……他にも複数の神様から祝福されることもあるんじゃないんですか?」


 僕がした質問にミストさんは言いよどむ。

 そして。


「意外とちゃんと聞いているんだね」


「失礼ですね」


 知りたいと思ってやってることなんだ。僕だって本気になって取り組むよ。

 最近は本だって、たまに読み返している騎士様の本だけじゃなくて、父さんの書斎にある村の歴史とかも読むようにしているんだから。


「ごめんごめん。そうだね。魔法をふたつ持つ人だね。それはちょっと無理な話なんだ。ふたつの魔法に身体も魂も耐えきれないから」


 ミストさんは笑いながら説明する。

 僕もちょっとムスっとしながらもメモをとる。

 身体も魂も耐えきれない。たぶん死ぬってことだよね。


「だから、もしそういう素質がある人がいるとしたら、それは神の器って言っていいかもね」


 神の器。

 ミストさんはそれを神様に成り代わることができる特別な人だと話す。

 ただ、そんな人はほとんどいないため、一般的にはひとりにつき魔法はひとつだけになってるし、魔法使いがさらに祝福されることもないらしい。


「じゃあ、今日はここまでにしようか。お疲れ様」


 時間も経って頭も身体もほどほどに疲れたところでミストさんは手をパチンと叩いて部屋から出て行く。

 僕も机に座り続けて疲れたから、腕を伸ばす。


「お姉様ーっ!」


 と、そこに待っていましたと言わんばかりにカリンちゃんが入り込んできて抱きついてきた。

 集中できないから授業中は外に出ていてと言っていたから、仕方ないのかもしれない。


「お姉様。今日は不思議な格好をしていますね」


「そうだね……」


 僕は黒い布地の服を着ていた。襟のスカーフだけが赤色でワンポイント感がある。けど、今までの服と比べると布がちょっと硬くて動きづらさを感じる。

 これはシグネさんの新作で確か、セイラー服だとか言っていた。


 なんでそんなものを着せられているかと言うと。


「ニンフェアちゃんお疲れ。お菓子持ってきたよ」


 この魔女の庵に当たり前のように入り浸るメグ姉のせいだ。


 あの日、目の前で変身が解かれる瞬間を見られてしまったこともあり、人違いですとごまかすこともできなかった。

 村に戻ってからは丸一日一緒に牢屋に入れられたのもあって、そこでこれまでのことを大体話したんだ。

 メグ姉はそれを村の人には黙っていてくれると約束してくれた。

 でも、それだけじゃなくて。


「あーかわいい。私、こういうかわいい妹が欲しかったの」


 黙っている代わりに僕の身体を要求された。

 今ではすっかり着せ替え人形と化している。


 なんでもシグネさんのところにメグ姉の家から布を持って行っているらしく、今までなかった服が急ピッチで作られている。

 毎日新しい服が用意されていて、それを着ている。


 断ると無理矢理にでも着させられるから、仕方なく自分で着るしかない。

 でも、スカートを履くことに慣れてしまっていく自分が嫌だ。


『女の子に囲まれて楽しそうね』


 一応、僕の隣で授業を聞いていたプリムラは絶対心から思っていないことを言ってくる。

 僕は本当、どうしてこうなったんだろう。


 まぁ、でも。

 他の人が楽しそうに笑っている姿を見ていると僕も楽しくなってくるもので。

 その気持ちを否定するつもりはない。


 僕は僕でメグ姉が持ってきてくれたお菓子を食べた。

 せっかく作ってくれた服を汚さないように、ちびちびと。


 今までお菓子を食べると変身しちゃうから、メグ姉との約束していたお茶会もできてなかった。

 だからようやくできたというのは嬉しいことだ。


 でも、こうして授業を受けて新しいことを知っていく内に、なんとなく、こんな日々は長く続かないような気がしていた。

 ふたりが言っていた話が本当なのだとしたら、この世界は救われなくちゃいけないような状態だっていうことなんだから。

ニンフェア「魔女は長生きって聞いたんですけど、本当ですか?」

ミスト「種族にもよるけどね。基本的に魔力がある人は寿命が長い傾向があるかな。成長は老いに関してはある程度大人になったら長い時間変化がないと思っていいよ」

ニンフェア「なるほど。じゃあ子供の内はほとんど変わらないんですね……あの、ところでふたりは何歳ぐらいですか?」

ミスト「僕は30ぐらいだけど、リーフィはもっと……」

ニンフェア「あっ、いいです。それ以上は聞かない方がいいと思うので」

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