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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第三幕 魔法少女の婚約
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弱き者を助ける

 地面を力強く蹴って木々の間を縫うように駆け抜ける。

 たどり着いたのはすっかり通い慣れたツリーハウス……魔女の庵。


 日はすっかり落ちて、外は暗くなっている。

 いつもは夕方には家に帰るようにしているから、こんな時間にやってくるのは初めてだった。


 はしごを上って、そのままの勢いで扉を開ける。

 その中で談笑している魔女を見つけて、僕は頭を下げた。


「シグネさん、お願いです。箒を貸してくれませんか!」


 そんな僕の姿を四人の住人たちは不思議そうに見ている。

 でも、急ぎなんだ。どうしても貸して欲しい。


「いいわ。ただ、事情は後で聞かせてもらえるかしら」


 シグネさんは手を胸の前に掲げると箒が現れた。

 僕はそれを受け取って、再度頭を下げる。


「ありがとうございます。このお礼は後で必ずします」


「いいわよ。あなたには助けてもらった恩があるから」


 シグネさんの優しい言葉に感謝して、僕はそこから飛び出した。

 ぼそりと「壊さないでね」と言われたけど、借り物をぞんざいに扱う気はない。


『本当に飛べるの?』


『当然。ちゃんと捕まってて』


 僕は箒の飛ばし方なんて知らない。

 でも魔女であるプリムラならどうにかなる。

 箒にまたがって、前屈みになり、両手でしっかり柄を持つ。


 空高く舞い上がり、一瞬で木の上に出た。


「あっちの方向!」


 僕は泉の方向を指さす。

 すると、僕の後ろにいるプリムラがその方向に向けて箒を動かした。


「急いで!」


『わかってる』


 サイ兄に問いただしてわかったことがある。


 メグ姉が僕の伴侶として選ばれていたこと。

 そのために身体を清める儀式を行うこと。

 それのせいで早くに亡くなってしまうこと。


 母さんは僕が産まれた時に亡くなったことは知っている。

 だけど、それは母さんの身体が弱かったからと聞いていた。


 話が違うよ!

 どうして父さんも、メグ姉も、誰も今まで教えてくれなかったの!


 成人の儀の主役で村にいなくちゃいけないのはわかってる。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 僕はメグ姉に犠牲になって欲しくない。


『私が言ったこと、忘れてないでね』


『わかってる』


 僕はまたプリムラと契約をした。

 メグ姉を助けるために、力を貸してもらう契約。


 元々僕はプリムラにこの身体を差し出しているから、渡せるものなんてなにもない。

 それでも彼女は引き受けてくれた。そして、こう言ったんだ。


『絶対に助けてあげて。大切な人なんでしょ』


 プリムラが何を考えているのかはわからない。

 でも、ほんの少しでも僕と同じように人を助けたいと思ってくれているならいいなと、そう願っていた。



 森の奥地に行くにはかなり時間がかかる。

 そこでプリムラが箒を使えると言うから、シグネさんのところまで走って借りに行ったんだ。

 直接走るよりずっと早いし、木の上を飛んで地形を無視できるからかなりの短縮になる。


 ただ、走ったりして疲れたのか頭がクラッとしてきたので、以前サイ兄に渡された薬を飲む。

 メグ姉のところに行くまでに箒から落とされでもしたらまずい。


 そうして箒で飛んでいるとあっという間に目的地が見えてくる。

 夜だというのに、どうしてか青白く光っている。

 あれが場合によっては命を奪うものなのだと思うと恐ろしいものに見えてくる。


 村の習わしだと言うのなら、神樹様は誰かが犠牲になることを望んでいるって言うの。

 そんなの認めない。僕はそれなら『狩人』なんかにならなくてもいい。


 泉の近くまで行って高度を落としてもらって、箒から下りる。

 そして泉に近づいていくと話し声が聞こえてきた。

 ひとりはメグ姉……でももうひとりは?


「………っ、メグ姉!」


 僕は対魔女用の弾丸を込めて猟銃で狙いをつける。

 そしてためらいなく撃った。


 その弾は怪しく光る泉の上にいた魔女に避けられた。


「その人に何をするつもりだ、魔女!」


 その魔女の姿は忘れるはずがない。

 あの日……魔女狩りが行われていた日。

 村の中で遠目に見た魔女の姿。


 僕と魔女の数奇な運命。その始まりはきっとあの日からだ。


 僕は次の弾を込めて、魔女に近づく。


「何もするつもりはないよ。ただお話してただけ」


 メグ姉を見てみると薄着にはなっているけど、濡れた様子はない。

 まだ泉には入っていない……なんとか間に合ったみたいだ。


「なんのためにあの村に来た!」


「それは……って、ちょっと。危ないよ」


 僕は魔女に問いかけつつ発砲する。でもまたそれも避けられた。

 当たってくれない。でも、地面の上に引き出せた。

 地面を蹴って魔女に飛びかかり、猟銃を叩き付ける。


「話を聞いてよ。どうしてそんなに怒ってるの!」


 魔女はどこからか取り出した長杖で猟銃を受け止めた。

 シグネさんと同じ魔法?


 体格差もあって僕が上から押しつけているのにどうしてか力が拮抗している。

 このままじゃ不利だと察して、長杖でふせがれていないところに向けて回し蹴りを入れた。

 まるで石垣を蹴ったみたいな感覚だ。

 それでも魔女は転がって、地面に投げ出された。


 猟銃のストックを格闘用に補強しておいてよかった。

 じゃないとさっきので壊れていたかもしれない。


「その人をっ、助けたいからだ!」


 僕は弾丸を装填して狙いをつける。


『プリムラ!』


『わかってる』


 泉の周辺から伸びてきた蔓が魔女の手足に巻き付き、動けなくさせる。

 これで……。


「はい。みんな止まって」


 パチンと、手を叩く音が聞こえた。

 それと同時に身体が動かなくなる。


 撃つために引き金を引く動作の途中のまま、視線すら動かせない。

 まるで時間が止まったかのようだ。


 頼みの綱のプリムラからもなんの反応もない。彼女も動けないのかもしれない。


 そんな中、平然と僕のすぐ隣を抜けてきた人が、僕が持っていた猟銃を奪い取った。


 その人のことを僕は知っている。

 あの日、この魔女を連れ出していった旅人……ミストさんだ。


「よかった~。助かったよ~」


 プリムラが魔法で伸ばした蔓は魔女の手に触れると、まるで最初から何もなかったかのように跡形もなく消え去った。

 あれもあの魔女の魔法?


 こうして動けないのも魔法としか思えない。

 だとしたらいったい誰の……。


 僕が困惑しているところをよそに、ミストさんは魔女に手を差し出して起き上がらせる。


「キミはいつも無茶しすぎだよ。助ける僕の身にもなってよ」


「あはは~、ごめんね。でもどうしても知りたかったから」


 仲よさげに話していると思うと、魔女の方が僕に近づいてきて、胸に触れる。


 すると身体が動くようになったけど、急なことで僕は尻餅をついた。

 けど、それだけじゃない。


 元に戻っているんだ。

 変身していない、魔法少女じゃない、僕の本来の姿。


 けど、目の前のふたりはそのことに驚く素振りはない。

 この人たちは一体……。


「一体何が目的なんですか! 僕らはただ平和に暮らしていただけなのに」


 武器を奪われた僕はなにもできず、目の前にいるふたりを睨みつける。

 でも全く効いていないようだ。


「誰かが犠牲になってできた平和なんて偽りだと僕は思うよ」


 ミストさんは諭すように言う。

 あの村は魔女を犠牲にしてきた。それだけじゃない、こうして村人さえ犠牲にしようとしている。

 そうしてできた平和が望むものなのかと、その瞳で語っている。


「キミは彼女を撃った。誰かを護るという理由があるなら、許されることなの?」


「それは……」


 僕はこの魔女を撃つことをためらわなかった。

 あの時、カリンちゃんを撃った時は指が震えたのに。


 それはたぶん、ミストさんの言うとおり、メグ姉を助けるという理由があったからだ。


 だけどわかる。父さんがやっている魔女狩りはこれと同じだ。

 村を護るために魔女を撃っていた。


 言われたことでようやく気づいた。

 僕は魔女と関わって色々なことを経験して、魔女狩りを止めたいと思ったのに、僕がやっていたのはそれとなにも変わらない。


「僕は……」


 項垂れる。

 立派な『狩人』になって、村を変えようと思ったのに、僕が変わっていないんじゃどうしようもない。


「ねぇ、協力してくれないかな」


 魔女が歩み寄ってくる。

 協力……そう聞いて最初に頭に浮かんだのは。


「僕に村を滅ぼせと」


 魔女の敵である、魔女狩りをする村。僕はその中心人物だ。

 人質にもなるし、信頼も厚いからスパイにだってなれるだろう。


 でも、その魔女は「違うよ」と否定して、頭を落としていた僕に見えるよう手の平を差し出してこう言った。


「この森……ううん、この世界を救う手伝いをして欲しいの」

カリン「お姉さまが来てくれた!」

シア「だが、行ってしまったな。随分急いでいるようだったが」

シグネ「箒……壊れてないといいのだけど」

リンネ「なんであっさり貸しちゃったんですか?」

シグネ「その……勢いで、かしら?」

シア「ならわたくしには貸さない方がいいな。自慢ではないが物を壊すのは得意だ」

リンネ「女騎士ってやっぱり脳筋なんだ……」

カリン「お姉さま、無事に帰ってきてください」

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