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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第一幕 魔法少女の誕生
2/36

軽率

「ごちそうさまでした」


 テーブルを挟んで、僕の目の前の席に座っているその人は、空になったお皿を前に手を合わせている。

 それに対して、僕は「お粗末様でした」と言って、お皿を片付ける。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 光沢のある銀の髪を揺らしながら、その人は僕に頭を下げる。


「いえいえ。なんともないようでよかったです」


 僕がこの人と出会ったのはほんのついさっきのこと。

 いつものように歩いていたら、偶然、村の入り口で倒れている人を見つけたんだ。


 見た感じ外傷はないみたいだったからとりあえず家まで運んで、しばらく寝かせていたら意識が戻って、食べ物と水を出したところ。


「優しい人に助けてもらって、本当によかった」


 この人はこの村の人じゃない。

 僕が住む村は狭いから、住んでる人はみんな顔見知り。だから、知らない人がいたら、それは外からやってきた人だけだ。

 まぁ、判別する方法は他にも色々あるけど。例えば、こんな村じゃ都会で流行りってそうな服なんて手に入らないし、こんな綺麗な髪の色をした人はいない。


「あの、どうして行き倒れていたんですか?」


 僕は気になっていたことを聞いてみる。

 傷がなかったってことは動物に襲われたわけじゃないだろうから、お腹がすいたのかなとは思うけど。


「食料がなくなってしまって。それで道端にあったキノコを食べたら意識が遠くなって……」


「あー……」


 そういえばそんなキノコがあったっけ。あまりのまずさに意識が飛ぶキノコ。

 害獣避けのために村の周囲に群生させてるのがあったはず。見た目はおいしそうだけど、村人はみんなそれを知ってるから食べないんだよね。

 一応毒性はなかったはずだし、大丈夫なはず。


「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はミスト。旅をしています」


 席を立ったその人……ミストさんは深くお辞儀をした。

 僕より少し背が高いだけじゃなくて、その所作も落ち着いてる感じがする。もしかして、本とかに出てくる貴族という人?

 あとやっぱり年上……だよね。


「僕はレンです。あの、ミストさんはどうしてこの村に?」


「森を歩いていたら仲間とはぐれてしまって。それでさまよっているうちにここに」


 僕が住むこの村は深い森の中にある。端から端までまっすぐ歩いても数日かかってしまうぐらいの大森林。

 一応、近くの町に続く道はあるんだけど、そこだけ切り開いているだけだから、道から外れたら戻るのは難しい。

 なんだかんだ慣れてる村人なら簡単なんだけどね。


 そう考えると、この村にたどり着けただけこの人は幸運だったのかもしれない。

 キノコのせいで台無しだけど。


「この村には他に旅人は来てない?」


 言われて、僕は最近の出来事を思い出してみる。

 でも、特に何も思い当たらない。

 だって、こんな田舎の村でそうそう変わったことなんて起こらない。僕は普通に生活していた。


「来ていないと思います」


 狭い村だから、外から人がやってきたらすぐに噂になる。

 だから、僕が聞いていないのなら、残念ながらその人はこの村にはいないと思う。

 そもそもこんなへんぴなところにある村に旅人がやってくるというのが滅多にない。


「そっか。すみません。食事を出してもらっただけでなく、話まで聞いてもらって」


「そんな。いいです。困った時はお互い様です」


 倒れている人を放っておいたら、夢に出てきそうだし。

 それに、出した料理は昨日の残り物だったから手間がかかったわけじゃないし。


「それなら、後で恩返しをするよ」


「まぁ、それなら……」


 本当は感謝の気持ちだけで十分なんだけど、恩返しがもらえるのならいっか。旅のお土産とかかな。

 でも、この村に旅人が帰ってくるなんて思えないけど……その前にどこかでまた行き倒れてないか心配だ。


「それでは僕はこれで」


「見送りますよ」


 扉を開けて出て行こうとしたミストさんにくっついて、僕も家の外に出た。

 旅人が来るなんて本当に珍しいことだし、もう少しお話がしたい。

 僕がそれを伝えると、ミストさんは快く返事をしてくれた。




「この村は自然が豊かだね」


「当たり前です。森の中なんですから」


「いい村ということだよ」


 森の中を切り開いてできた村。

 木造の建物に、木の杭で囲われた畑。みんなで使う井戸。それがこの村にある全てと言ってもいい。


 だから、この村人はみんな大人になる頃には自然に飽きている。

 でも、そんな場所で育ったからこそ、自然には感謝している。

 そういう人たちでできた村。


 僕はこの村が好き。

 だから、旅人に『いい村』だと言ってもらえることは正直嬉しかった。


 もし今度来てくれた時には、この村で採れた野菜でおいしい料理をごちそうしよう。

 きっとそれもおいしいって言ってもらえるはず。


 あっ、そうだ。


「仲間を探しているって言っていましたね? 僕も探すの手伝います」


 僕はこの森に詳しいし、迷うことはない。

 だから、ミストさんが探している仲間を見つけることもできるはず。


 日没まで結構余裕があるし、ちょうどいい。


「それは有り難いことだけど……」


「じゃあ決まりですね。どんな人なんですか?」


「そうだね、彼女は……」


 ミストさんはその人の見た目をメモに書いて渡してくれた。

 緑の髪をした、あまり背の高くない女の子?

 なるほど。とりあえず憶えられたし、後は森の中を捜索するだけだ。


 見つかるといいな、この人。


「そういえば、この村、先ほどから人の姿がありませんが」


「ああ、それなら」


 僕はミストさんの手を引いて、村の端っこの背の高い建物に誘導する。

 その建物の前には人だかりができていた。


 やっぱり。大人はみんなあそこに集まってるみたいだ。


「あれは一体……?」


「魔女狩りですよ」


 魔女狩り。

 それはこの村の風習のひとつ。


 村を荒らす魔女を捕まえて、張り付けにして、処刑する。


 ちょっとショッキングだから子供は家の中にいないと怒られるんだけど、僕はもう少しで大人になれるし、もしもの時は旅人のミストさんを見送るからと話せばわかってもらえる。


「あれ? どうしたんですか、ミストさん」


 振り返ると、ミストさんは顎に手を当てて考え事をしていた。

 そしてしばらくすると、何かに納得した顔をして、僕に語りかけてきた。


「この森ではね、失踪事件が相次いでいるんだ」


 ミストさんは淡々と言葉を繋げて歩き出す。


「消えるのは皆、魔法使いの女性。まさかとは思っていたけど……」


 そして、僕の隣を通り過ぎるその瞬間に、僕の頭に手を置いてこう言った。


「君の料理、おいしかったよ。ありがとう」


 言葉を言い残し、駆け出していく旅人の姿。

 ひとだかりになっているそこに入り込み、次の瞬間には飛び出した。

 その時に旅人は人を抱えていた。


 緑の髪をした、背の低い少女。


 そのふたりの影が森の中へと消えていく姿を、僕はただ見ていることしかできなかった。

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