表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第三幕 魔法少女の婚約
18/36

幼なじみ

「レン。明日のことは憶えているな」


 いつものように訓練後、魔女の庵に寄ってから家に帰ったころ。

 これまたいつも通りに夕食を作ろうとしたところで父さんにそんなことを言われた。


 明日?……なにかあったっけ。


 あっ。


「もちろん憶えてるよ!」


 本当は忘れていたけど、ごまかした。

 それを聞くと父さんは「そうか」と言って書斎に行った。


 ふぅ。とりあえず夕食を作らないと。


『なんの話?』


 僕と父さんの会話についてプリムラに聞かれる。

 ああ、うん。気になるよね。

 僕もついさっき父さんに指摘されるまですっかり忘れていたんだけど。


「僕の成人の儀があるんだよ」


 明後日、僕は成人する。

 その前日である明日は成人の儀を取り計らうことになっていたんだ。




 成人の儀。

 僕の村では成人することでお酒を飲めるようになったり、村の外で生活することができるようになったりと、自分の生き方を自分で決めることができるようになる。


 ただ、『狩人』の息子である僕の場合はちょっと違ってて。

 森の神様と伝えられる神樹様に感謝を伝えるお祭りをする。

 『狩人』は神樹様から賜った大切な役割だからだ。


 夜になると大人の人たちはお酒を飲んで、豪華な食べ物を食べて……そんな感じになると聞いている。

 成人の儀は二十年に一度しか行われないということもあって、それはもう盛大に行われるそうだ。


「はぁ……」


 翌日のこと。

 普段から父さんの分も含めて料理を作っているので得意なので手伝おうとしていたら「主役なんだから」と追い出された。

 どこに行ってもそんな感じだ。

 みんなで外で食べられるようにテーブルや椅子を運んでいるところも、薪集めも僕は触らせてもらえない。


 なんというか、こういう時になにもさせてもらえないというのはサボってるみたいで嫌だ。


 仕方ないので僕は村の外れで木に登り、ちゃくちゃくと進められていく祭りの準備を見ていた。

 みんな楽しそうだなぁ。


『成人ねぇ……そんな年齢には見えないけど』


 同じ枝の上に立つプリムラにそう言われる。実体がないおかげか、細い枝でも問題なく支えてくれていた。


 彼女の言うことは一理ある。

 僕は明日で十五歳。

 国にもよるらしいけど、この歳で成人というのはかなり早いそうだ。


「僕ら『狩人』は短命なんだ」


 それは『狩人』が魔女や魔物と戦うことになるからという理由じゃない。

 そういう事故がなくても長生きできないんだ。


 普通に生きて四十年。

 他の村人が六十年も生きるらしいから、ちょっと短いぐらい。


 父さんは十五歳で成人、十八歳で『狩人』を引き継ぎ、二十歳の時に僕が生まれた。

 歴代の『狩人』もそんな感じだそうだ。

 だからたぶん、僕もその流れになる。


 長くてもあと五年。

 その時間で父さんに認めてもらえなければ、僕は次の『狩人』として先代より劣っているという評価をもらうことになるだろう。


 父さんは何も心配せずに逝ってほしい。

 これまでもいい加減だったわけじゃないけど、これからは今まで以上に頑張らないといけない。

 そういう意味で、この日はちゃんとした区切りになる。


『それって、そんな大事?』


 プリムラの言うことはわかる。僕も魔女と関わりが増えるに連れ、最近はこの村の魔女狩りに疑問を感じている。


「大事だよ。そうじゃないと」


 そうじゃないと、意味がなくなってしまう。

 僕がやってきた努力じゃない。もっと昔から『狩人』がやってきたことや、犠牲になった魔女たちはなんだったっていうんだ。

 その全てを無駄にしないためにも、僕はこの伝統を継がないといけない。


『そ。少しは変わったと思ったのに』


 小声でそう呟いたプリムラは残念そうな顔をしていた。

 ごめん。でも僕はそうすることを選んだんだ。


 本当の『狩人』になればあの『守人』とも対等になる。

 そうすればもっと話をすることができるだろうし、この森に張られた結界のことも知れるはず。

 そうしたらあの魔女たちを解放できる。魔女狩りも止めてみせる。


 それに……どうしてキミが僕にだけ見えるのか、わかるかもしれない。

 もしキミが本当に死んでいるのなら、その理由も調べられるかもしれない。


 僕は、変わったよ。

 使命だから『狩人』になろうとしていた僕は今、確かに自分の意志でなろうとしている。

 それはきっと、キミと出会ったからだ。


「おーい、レン。そんなとこでなにやってんだ」


『………っ!!』


 プリムラの方を見つめていると、足下から声がかかった。

 サイ兄だ。もう夕暮れ時とは言っても、明るい時間に外にいるとは珍しい。


「なにも。ヒマだったから村を眺めてた」


 プリムラはサイ兄がトラウマになっているみたいだ。

 見えていないのはわかってるとは思うけど、さっと僕の後ろに隠れた。


 まあ、あの時はあんなにおびえていたから仕方がないとは思うんだけど。


「そうか。オレも同じだ」


 ああ。サイ兄は薬を作ることしかできないし、力仕事をやる筋力もないからヒマなんだ。


 サイ兄は僕が枝に座っている木に寄りかかると、村の方を見て言った。


「お前も成人か」


「そうだよ」


「まだその辺のチビ助と変わんないのにな」


「ちっこくないよ!」


 僕がムキになって言うとサイ兄は笑う。

 まったく、もう。


 僕はこの年齢にしては小さいらしい。そうは言っても、同い年の子はいないし、下の子供は三つも四つも離れているから比較にならないけど。

 いいや、本来なら比較にしたくないんだけど、悲しいことにそっちの子と並んでも違和感がないぐらいの見た目だ。


 成長が遅いとは言われているけど、それは顔が変わらないからで、身長はそこそこ伸びているんだ。

 それでも平均より小さいらしいけど。


「最近は村にもあまりいないそうじゃないか。メグに聞いたぞ」


「うん、まぁ、ね」


 今日は成人の儀があるから村にいるけど、こうやって昼間からずっと村にいるのは久しぶりのことだ。

 訓練や魔女の庵に行くせいでどうしても帰るのが遅くなるんだ。


「最近魔女がやってくる頻度も高いからな。躍起になる気持ちもわかるがな」


 父さんやメグ姉には訓練のためだって説明してあるけど、それのせいで余計に心配かけちゃってたのかな。根を詰めすぎだと思われてるっぽい。

 実際はそうじゃない……というか、その魔女に僕が含まれているんだけど、そんなことは言えないし、絶対に知られてはならない。


「大丈夫だよ。無理はしてないから」


 確かにここ最近色々なことがあったおかげで疲れることは多い。

 自分の誕生日だって忘れるぐらいに詰まった日々だった。


 でも、それで得られたものは訓練だけじゃ絶対に得られないものだから。

 それを活かして僕はちゃんとした『狩人』になってみせるよ。


「それはそうと、メグ姉知らない?」


 こうやって木の上から村を眺めていても、その姿を確認することはできなかった。

 メグ姉は料理が苦手だからそっちの当番だとは思えないし、かといって男に混じって力仕事をやっているわけでもない。


 よくよく考えてみると朝から見ていない気がするし、いったいどこに行ったんだろう。


「なんだ。聞いてないのか。レイルさん、しっかりしてくれよ」


 サイ兄は呆れたような口調で言う。

 えっ、父さんメグ姉について何か言っていたっけ?


 サイ兄は僕が戸惑ってる間に、衝撃的なことを告げるのだった。


「あいつはお前と番になるんだろ。朝から森に入っていったはずだ」

レン「どうしてサイ兄がそんなことを知ってるの?」

サイ「ん? ああ、実は俺『守人』の番に選ばれててな。つっても、その相手が亡くなったらしいから破談になったんだが」

プリムラ『は?』

サイ「好みじゃない相手と無理やりに結ばされる可能性もあったからな、そいつには悪いが良かったぜ」

プリムラ『身体を借りるわ。こいつを潰す』

レン『抑えて、抑えて』

サイ「ああ、これはお前が『狩人』だから言ったことだからな。他の奴らには絶対に言うなよ」

レン(一番知っちゃいけない人に知られちゃってるよ……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ