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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第三幕 魔法少女の婚約
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私のことを思って

 私の両親は喧嘩をすることが多かった。

 物心ついた頃から、私の目なんか気にせず、大声で怒鳴りあっていた。

 たまに、肉を叩くような音も聞いていたし、そんな姿も見ていた。


 当時の私は、それが自分のことを指して言っているなんて気づかなかった。

 うぅん。気づきたくなくて、気づかないフリをしていたのかもしれない。


 でも、いつかはわかってしまう。

 ある日、父が私の髪を掴んで言った。


「お前は呪われた子だ」


 投げ捨てられ、光の入らない部屋の隅っこに座って生活する。

 食事は両親の気まぐれでもらえたり、もらえなかったり。


 でも、そこまで苦しくない。

 どうせ動かないからそんなに栄養はいらないから。


 私は生きているのかな?

 それとも死んでいるの?


 問いかける相手はいない。

 口を開く人なんて、もう何年も会ってなかった。


 人間離れした橙色の髪が足下まで伸びて、光に当たらないせいで肌も白い。

 呪われた子、気味が悪い子。そう言われるのも無理はない姿になった。


 そんな私はある日、部屋から出された。

 外は夜だった。でも、月が光ってて綺麗だった。


「お前を魔女の森に連れてってやる」


 久しぶりに聞いた父の言葉はそれだけだった。


 魔女の森……そんな場所が近くにあるみたい。

 名前の通りなら、私のような魔女がそこにいるのかな。

 呪われた……両親からいらない物扱いされた私のような魔女が。


 私は魔法で両親を攻撃した。

 最後の抵抗。私にひどいことをしてきたこの人たちと、もう二度と会わないで済むように。

 もう会いたいなんて思わなくて済むように。


「この、化け物がっ」


 その人が言う戯れ言を無視して、私は歩いた。

 行き先は魔女の森。

 誰かに言われたからじゃない。私は自分の意志でそこに行く。


 行くまでの道は人に聞いた。

 親切な人に子供ひとりで危険だとは言われたけど、私には魔法があったから不便はなかった。

 生まれて初めての自由。おいしいものをお腹いっぱい食べて、幸せを感じた。


 何日もかけて歩いて、ようやくそこにたどり着いた。


 けど、そこで待っていたのは無慈悲な拘束だった。

 村人に両手をはさみこまれて、薬を飲まされ眠らされた。

 次に目を覚ました時は、牢の中だった。


 ああ、ここでも同じなんだ。

 どこへ行っても、私は呪われた子。必要のない存在で、誰にも愛してもらえない。


 でも涙は出ない。

 悲しくて流す涙はとっくに涸れていたから。


「大丈夫……?」


 牢の端っこでうずくまる私は、声を聞いた。

 かわいらしい女の子の声。

 顔をあげると、鉄格子の向こう側にちょっと年上の女の子が立っていた。


 私と同じような人でない者の緑髪。

 でも、私と違って堂々としていて、綺麗な服を着ている。


「キミを助けに来たんだ。さあ、手を取って」


 手のひらを差し伸べられたのは産まれて初めてだった。

 私はためらいつつもゆっくりと手を伸ばす。


 その人は私のことをじっと待っていてくれた。

 温かい手。きっとこの人は優しい人。


「怖かったよね。もう大丈夫だから泣かないでいいよ」


 どんなに悲しくても涙は流さなくなっていた。

 でも、嬉しくて零れる涙はあったみたい。


 それが私とニンフェアお姉様との出会いだった。




 僕は森の中を歩いている。

 練習場に向かう途中ってわけじゃない。むしろ方向としてはけっこうずれている。


 僕の目的地はあの魔女たちに住んでもらっているツリーハウスだ。

 それなりに住みやすいみたいで、みんなすっかり慣れて寛いでいる節がある。

 いつの間にか『魔女の庵』なんて看板が立てられていたし。


『レンは大分魔法少女に慣れてきたよね』


「うぅ……」


 プリムラに指摘された通り、慣れてしまっていた。

 今まで練習場で訓練していて昼間はほとんど家に戻らない生活をしていたんだけど、それの一部を利用して魔女たちに会いに行くことが日課になっている。


 そのせいもあって魔法少女に変身している時間が長くなってしまっている。

 父さんと話す時も、たまに自分のこと「わたし」って言いそうになるし。

 あとこのヒラヒラの服も抵抗なくなってる気がする。


 それなら魔女たちに会いに行かなければいいと思うかもしれないけど、あの魔女たちは放っておくとなにをするかわからないところがあるんだ。

 この間はリンネさんの魔法で大嵐になって村まで大混乱だったし。

 その監視役もかねて、僕はあそこに行かなくちゃいけない。


 幸か不幸かサイ兄からもらった薬のおかげで簡単に変身できてしまう。

 減っていた分も材料になる草を集めてきたら作ってくれたから、まだまだ平気だ。


『この間魔女を助けるのも積極的だったしね』


「まぁね」


 それに関して否定しない。

 これまでのことで僕の魔女に対する不信感はなくなっている。

 だから、プリムラに言われるまでもなく、ちゃんと助けようと思ってる。


 それに、今回に関しては特に……。


「あっ、お姉様~!」


 ツリーハウス改め、魔女の庵がちょうど僕の目に入ったところ。

 窓から外を眺めていたらしい少女が僕の姿を見つけ、走ってくる。


「お姉様。今日も素敵です」


「そっか。ありがとう」


 僕のことをお姉様と呼び慕う幼い少女。彼女はカリン。

 ちょうど先日助け出した魔女で、橙色でさらさらの髪を揺らして、キラキラした目で僕を見上げてくる。


 正直「素敵です」と言われたところで喜んでいいかわからないんだけど、年下の女の子の言葉を無碍にすることはできなくて、感謝の言葉を言っている。


 そう、今回捕まっていた魔女はまだ幼いんだ。

 それに牢の中で縮こまってその姿があんまりだったから迷うことなくすぐに助けたんだ。


 今ではもうすっかり元気になっている。


「ごめんね、まだ結界を抜ける方法が見つからなくて」


 森を囲う結界は今もそのままだ。

 ただ、騎士団や村人が行き来していたから、魔女だけが通れない結界なんじゃないかという話になっている。

 でも破る方法も、抜ける方法も未だに見つかっていない。


「いいんです、そんなの。私はお姉様と一緒にいられれば幸せですから」


 カリンちゃんは当たり前のようにそう言う。

 前に「家に帰りたくならないの?」と聞いたんだけど「帰りたくない」と返された。


 ひょっとして家出中なのかな。

 僕も嫌なことがあった時に森の中で過ごすことがなくはなかったから、なんとなく気持ちがわかるような気がする。


 でも、これだけ幼いとなるときっと親も心配してるだろうし、なんとか解決してあげたいんだけど。


「センパーイっ!」


 と、魔女の庵の扉を開けると両手を上げてリンネさんが突撃してきた。

 しかも、なぜかカリンちゃんが僕の右腕を抱き込む形でつかまえた。


「なっ! なんでセンパイの腕をつかんでんですか! しかもセンパイも嫌がってないしっ!」


 リンネさんは僕の隣のカリンちゃんにビシッと指を指す。

 カリンちゃんはというと「えへへっ」と笑ってみせて……。


「お姉様は私のことが好きなんですよ」


 僕はそれを否定しない。

 好きか嫌いかで言えば好きだし、こんな幼いのに親と離れているのが可哀想に思えてきて力になりたい。

 そういうのって、年上の役割だと思うんだ。


 別に年上扱いされて嬉しいわけじゃない。


「えっ、センパイってロリコン? それとも妹萌え? どっちでもいいですけど、あたしにもやらせてくださいっ!」


 意味わからない単語を並べたリンネさんはカリンちゃんと同じように僕の左腕をつかんだ


 でも身長差がある関係でちょっと肩が上がって痛い。


『モテモテね』


 プリムラに言われて気づいた。

 僕、今、両側から女の子に抱きつかれてる?

 どういう状況なのこれ。


『ちょっと、助けてよ。プリムラ』


 なんだか僕をはさんでふたりで牽制し合ってるし……せっかく一緒に暮らしてるんだからみんな仲良くして欲しいんだけど。


「あら……お取り込み中だったかしら」


 奥の部屋の扉を開けて出てきたシグネさんはそんなことを言ってから「ごゆっくり」と残し、部屋に戻っていった。

 ちょっと待って、助けてください。


『楽しそうね』


 プリムラの言うとおり、楽しいといえば楽しい。

 ここ数年、サイ兄やメグ姉にかまってもらえなくて訓練ばかりの毎日だったからなおさら。


 ちょっと騒がしくあるけど。


 でも、この間落ち込んでいたプリムラも元気になってくれたみたいだし、なんとなくこれでいいような気がしている。


 ずっとは続かないとは思うけど、もう少しだけこんな日々が過ごせればいいなと、僕は思っていた。

リンネ「センパイは後輩萌えじゃなかったんですかーっ!」

ニンフェア「前々から思ってたんですけど、リンネさんってたまによくわからない言葉を使いますよね」

カリン「お姉さま。こんな言葉も通じない変な人は放っておいて、あっちで私とお菓子を食べましょう」

リンネ「ああ、ちっちゃい子が仲良くお菓子を食べてる姿……尊い」

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