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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第二幕 魔法少女の受難
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母への愛

「オレの薬草園がっ!」


 村を歩いていると、声を上げて地面に項垂れているサイ兄を発見した。


 サイ兄が丹精込めて育てていた薬草園は、柵に囲まれていただけのもの。

 襲撃してきた魔物に踏まれ、薬草はみんなぐちゃぐちゃになっていた。


 なんというか、仕方ないとはいえかわいそう。


『ねぇ、プリムラ……』


『やだ。あんなののために魔法なんて使わない』


 僕は薬草園を指さしてプリムラに声をかけたけど、あっさりと断られてしまった。

 たぶん、この間サイ兄の家に行ったときに驚かされたことを恨んでるんだろう。


 プリムラの魔法なら植物を元気にさせることができると思ったんだけどな。

 でも、不自然に植物が元気になったら変に思われるし、サイ兄には悪いけど何もしなくてよかったのかもしれない。



 魔物の氾濫(スタンピード)があってから早一週間。

 村にやってきた魔物を僕らが撃退した後も、はぐれて森の中をさまよっていた魔物まで騎士団の方々が掃討を行い、安全を確保できたのを確認して、今日ようやく村にみんなが戻ってきた。


 今は村の被害状況を確認しているところ。

 ところどころに魔物がつけた傷があったり、倒れかけの家があったり、畑が荒らされていたりするけど、むしろこれぐらいで済んでよかったという印象だそうだ。


 それは僕……じゃなかった。魔法少女ニンフェアや、他の魔女たちががんばったおかげではあるんだけど、それを知っているのは当事者たちだけ。


 だから僕は村にまでやってきた魔物の数は少なかったと報告している。

 あれだけの数を僕とシアさんだけで倒したというのはあまりにも不自然だから。


 みんなが助けてくれたおかげで大きな怪我はない。

 ただ、全身が筋肉痛になって二、三日ベッドの上から動けなかった。


 サイ兄にもらった疲れた時に飲む薬も、結構な数がなくなってる。

 疲労が一気に回復するのはいいんだけど、なぜかこれを飲むだけで変身するから普段は飲めない。

 別の薬を飲んで同じような状況になるのも怖いから、仕方なく小さな傷も自然治癒に任せるしかなかった。


 聞いた話だけど、父さんや騎士団の方々も重傷者はいたものの死者は出ていないらしい。

 だから、今回は目立った犠牲者はなし。前の魔物の氾濫ではたくさん犠牲者が出たらしいから、これはかなりの大勝だそうだ。


 まぁ、それでも村に被害は出ているから、しばらくは復興の手伝いをすることになるだろうけど。

 リンネさんが開けた大穴を塞ぐ方法も考えないとなぁ。


「……邪魔だ。道を開けろ」


 離れたところからドスの効いた声が聞こえた。

 なんだろうと思ってそっちに向かってみるとなんだか人混みが出来てざわついている。


 聞き慣れない声だったし、騎士団の方でもやってきたのかと思って身を乗り出してみたら、その人が目に入った。


 足下まで隠れそうなぐらい長いローブは漆黒と言っていいぐらい真っ黒。それと同じ色をした三角帽子は、元から高い背丈をさらに伸ばし威圧感を与える。

 そんな格好の中から飛び出ている紫の髪と、影になったその瞳の眼孔は異様な雰囲気をかもし出していた。


「あれは……!」


 魔女だ。

 しかも、僕はあの魔女を知っている。


 忘れもしない。あの日、森の中で出会った魔女。

 あいつに襲われ、僕は負けたんだ。


 そんな魔女が堂々と村の真ん中を歩いている。

 ただ、誰も彼女を止めに入らない。ただ距離を取って警戒しているだけだ。


『ねぇ、あっち、って……』


 魔女が歩いている先、そこにあるのは僕の家だった。

 いったい魔女がなんの用なんだ。


 僕は魔女に気づかれないよう後を追う。

 魔女はやっぱり家までたどり着き、ノックもせずに扉を開けて中に入っていった。


 家には今、父さんがいるはず。

 魔女が父さんを訪ねてきた?

 わからないけど、気になる。


 僕は静かに窓を開けて、自分の部屋に入り込んで、リビングの扉に耳をつけた。


「『狩人』。会いに来てやったぞ」


「そうか。待っていろ、茶を出す」


 父さんのことを『狩人』って呼んだ?

 それに父さんも魔女を普通の客人のように扱ってる。


「先日は礼を言う。お前のおかげで被害を抑えられた」


「はっ、別にいい。あんなのはただの気晴らしだ」


 先日? 被害?

 すぐに頭を過ぎるのは魔物の氾濫のことだ。


 あの魔女が、父さんたちのところで戦ってた?

 だから犠牲者が出なかったの?


 それに、なんというか親しげだ。

 前々から知っている相手ってこと?

 相手は魔女なのに、魔女狩りはしなくていいの?


「それで、話はなんだ、ローゼ」


『………っ!?』


 父さんの声がローゼ……たぶん魔女の名前を呼んだ瞬間、プリムラの身体がピクリと跳ねた。

 えっ、どういうこと?

 プリムラは何か知ってるの?


「お前の力を貸せ」


「またそれか。前に断ったはずだ」


「私は貸しはすぐに返してもらう質だ」


 プリムラの顔が青ざめている。口をぱくぱくさせていて、言葉が出てきていない。

 あまりにも様子がおかしくて心配になる。


「わかった。後で返すさ。それでいいか」


「ああ、それでいい。段取りはまた後で決めるとしよう。じゃあな」


 席を立つ音が聞こえた。

 足音は玄関の方へと向かっている。


 プリムラの様子が気になるけど、僕は壁に立てかけてある猟銃を手に取って、窓から外に飛び出した。



 家を出て、森の中を歩いている魔女。その名前はローゼ。

 僕はそいつに向かって銃を向ける。


「待て!」


 僕が声をかけると、魔女はゆっくりと振り返る。


「ほう、生きていたんだな」


 魔女の瞳はあの時と変わらず恐ろしさを感じる。

 だけど、僕もここ最近いろいろ経験したおかげもあって、こんなことで怖じ気づいたりしない。

 猟銃を握る手は震えていない。


「わかってはいたが、あいつの子供だったか。あまりにも力がなくて、情けで力を与えてやったんだったな」


「力……?」


 魔女の言う力。それの心当たりがあるとしたら、それは魔法少女になるということだ。

 やっぱり僕がそんな体質になったのはこの魔女のせいだった?

 それも、情けで。


「お前は何者だ」


「ははは、そうか。知らないのか。あいつは何も教えていないんだなっ」


 魔女は高笑いをする。

 知らない? 教えてない?

 父さんが僕に黙ってることがあるってこと?


「教えてやる。私は『守人』のローゼ。この村に住むなら聞いたことぐらいあるだろう」


「えっ……」


 この村の誰もが知っているお話に出てくる『守人』と『狩人』。

 そのうちの『狩人』が父さんで。

 片割れの『守人』が、この魔女……!?


「嘘を言うな!」


「嘘じゃない。なんなら戻ってあいつに確認してみるか?」


 魔女が言うように嘘じゃないのはわかっている。

 父さんと親しげに話していたのもそうだし、戦いに参加していたのなら十分に『守人』としての役割をしている。

 それに、この魔女は凶悪な雰囲気をまとっていても、村を襲ってはいないんだ。


 そして、僕らが住むこの森は『魔女の森』と呼ばれていた。それが指すのがこの人のことなら、その名前も納得できてしまう。


 頭の中で、いろいろなピースがかちりかちりとはまってきている。

 ただそれは、僕が求めているものと違っていて、それが本当だと認めたくないだけだ。


 魔女は……ローゼという『守人』は、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「温室育ちのガキはせいぜい親の手伝いでもしているんだな」


 そう言って、森の中に歩いて行こうとする。

 その後ろ姿に、僕は武器をおろして声をかけた。


「なら、あなたはプリムラの母さんなんですか」


 はまってしまったパズルのピース。

 それはもうひとつの答えをもたらしていた。


 魔女になったあの日、僕の前に現れた魔女、プリムラ。

 僕を魔女にさせたのがこの人なら、関わりがあってもおかしくない。


 その姿は目の前にいるこの人と似ている。髪の色もそうだし、雰囲気もどことなく似ているところがある。

 そして、あの日僕を拘束した魔法は、先日プリムラが使っていたものと同じだ。

 見た目の歳も父さんと近そうだし、僕とそんなに変わらない娘がいてもおかしくない。


 そんな僕が投げかけた問いに対し、彼女はピタリと立ち止まった。


「誰のことだ。私の娘は死んだ。十年前の魔物の氾濫でな」


『………っ!』


 その言葉を残して、彼女は森の中に消えていった。

 幸か不幸か、プリムラがここまでやってきていて、さっきの話を聞いてしまっていた。


 その後の反応は……正直見たくなかった。

 泣き崩れた女の子を見るのは辛い。


 もし本当なら、プリムラはなんだっていうんだろう。

 十年前に死んだ少女の面影を残した魔女。


 それがどうして僕の前に現れたっていうんだろう。

 どうして僕だけに見えて、僕だけが触れることができるんだろう。


 その答えは、いくら待っても出てこなかった。

リンネ「はー、疲れたー!」

シグネ「随分と走り回っていたものね」

リンネ「えっへん。でもセンパイがたくさん褒めてくれたからそれでいいんです!」

シグネ「そうね。私も、あの牢から出してもらえた恩はこれで返せたかしら」

リンネ「センパイがお礼においしいご飯を作ってくれるそうなので、楽しみです!」

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