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魔法少年は今日も少女に逆らえない  作者: 半目ミケ
第二幕 魔法少女の受難
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困難に打ち勝つ

 騎士団の方々がもってきた情報の通りなら、今日が魔物の氾濫(スタンピード)の発生日。

 朝早くから父さんは村を出て行って、防衛用の簡易砦で騎士団と合流している。


 僕はというと、ひとりだけ村に残っていた。


 普段から穏やかで静かな村……だけど、人がいなくなって静けさだけになってしまうと、いつもの雰囲気とはやっぱり違う。


 何もないと思っていたけど、確かにここには何かがあるんだ。

 それは思い出だったり、大切な人だったり。


 そういうものがいなくなってしまうというのはやっぱり寂しい。


『逃げなくてよかったの?』


 隣にいるプリムラの言うとおりだ。

 父さんは僕に逃げる選択肢を与えてくれた。


 僕は防衛戦には参加しない。

 けれど、村の掟で僕は森から出ることはできない。


 それで、村に残ることになった。

 砦は魔物を集めるようになっているらしいけど、それでも抜けてきて村にやってくる魔物がいるらしい。


 けど僕は抜けてきた魔物を倒す役割はもっていない。

 逃げてもいいし、隠れていてもいい。


 でも……。


「逃げないよ。僕は『狩人』の息子だから」


 僕は魔物を見たことがない。だからどんな相手なのかはわからないけど、明らかなことがひとつだけある。

 それは『狩人』は村を護るためにいて、僕はいずれその称号を引き継ぐことになるということ。


 まだ成人していないからって、逃げていたらダメだ。


 それに、役目だからってだけじゃなく、僕は単純に護りたいんだ、この村を。

 それはきっと当たり前の感情だと信じたい。

 僕はここで生まれ育ったんだから。


『そ。せいぜい死なないようにしなさい』


「あはは。それは命令かな」


『さあね』


 こんな時だというのに軽口をはさむ余裕がある。

 プリムラがいてよかった。もし本当に僕ひとりだったら、逃げ出していたかもしれない。


 それはたぶん、気をはる相手がいるから。

 頑張っている自分を見ててくれる人がいてくれるから。


『あっちの方、騒がしい』


「そうだね」


 プリムラの指さした方向は、ちょうど砦がある方。

 きっと戦いが始まったんだ。


 父さんも、騎士団の方々も戦っている。

 僕も、ここで戦うんだ。


 屋根の上に上る。

 僕が使う武器はいつもの猟銃。できるだけ視界を確保できた方が有利だ。


 銃弾の予備は脚に巻いたポーチに入っている。

 あとはよく耳を澄ませて、音を聞く。


 木々の間を通り抜ける風の音。それが揺らす葉のせせらぎ。

 そんな自然な音に紛れて、騒がしい音が近寄ってくる。


 それを視界に捕らえて、引き金を引く。


 バンという発砲音と共に、全身に反動のしびれがやってくる。

 でも目は閉じない。決して視線を外さない。


 草むらから飛び出して村の中に入り込んだそれの胸を、僕は確かに撃ち抜いた。


 熊のような見た目をしたそれはその場で倒れ、動かなくなる。


『思ったより簡単そうなのね』


「弾のおかげだよ」


 本で読んだけど、魔物には通常の武器はあまり効かないらしい。

 硬くて分厚い毛皮があるせいで刃が通らないそうだ。

 そのため、騎士団は特殊な加工をされている武器を使うし、僕も特別な弾を父さんからもらった。


 銀色の弾丸。

 普段使っている狩猟用のもとと比べて貴重なものらしく、僕に渡されたのはたったの三十発。


 今みたいに一発で倒せるなら、僕が倒せる最大数は三十匹。

 魔物の氾濫で現れる魔物はおおよそ数百にも上るそうだ。

 たとえ村に来るのははぐれたものだとしても決して無駄弾なんて撃てない。

 ちゃんと一発一発を大切にしていこう。


 次の弾を装填しながら魔物の姿を確認する。

 本で読んだとおり、普通の動物のようだけど、ちょっと禍々しい。


 例えば今の魔物は普通の熊よりも明らかに大きな見た目だし、爪が発達していてなんというか、朱い。

 そして目は血走っていて、死んだ今でもすぐに起き上がってきそうな迫力がある。


 あんなのがわんさかやってきていると思うと、父さんが心配になる。

 きっと大丈夫だよね。無事だよね。


『レンっ、避けて!』


 プリムラが叫んだと同時に足下を蹴って離れる。

 すると僕がいたところにヘコみができた。

 今度は狼のような姿の魔物が飛び込んできていた。


 さっきの熊と違い、牙が太く口から飛び出している。

 また、尻尾が身体と同じぐらいに長く太い。まるで腕のように揺れている。


「っく」


 屋根の上まで跳躍できるんだ。きっと相当素早い。

 屋根を簡単にヘコませるほどの力もある。


 距離が近いけど、やるしかない。

 僕は走って別の家の屋根に移りつつ、魔物の動きを見た。

 やっぱり追ってきてる。なら足の動きを見ながら撃てば……。


「外したっ!?」


 全ての足が離れた瞬間を狙って撃ったけど、当たる直前に尻尾が屋根を叩き身体を大きくずらした。

 貴重な弾を無駄にした、それだけじゃなくて大きな隙をさらしてしまった。

 魔物の牙はもう迫ってきている。思わず身体を守る姿勢をとった。


「ニンフェアちゃん。大丈夫だったかしら」


 水の塊が横から飛んできて、魔物を弾き飛ばした。

 声が聞こえた方を向くとそこではシグネさんが小さく細い杖をまっすぐに向けていた。


「ありがとうございます。助かりました」


 砦の方と比べて数は少ないとはいっても、僕だけじゃ村を護りきれないのはわかってた。

 だから予め魔女のふたりを呼んでいたんだ。


 本の中に書いてあった、もうひとつの魔物の弱点。

 それは魔女が使う魔法。

 シグネさんとリンネさんはこれ以上ないぐらい頼りになる助っ人だ。


「あれ。リンネさんは?」


 姿が見えないからてっきりシグネさんと一緒に行動しているものだと思っていたけど、ここにいるし……まさか魔物に襲われてるんじゃ……。


 辺りを見渡してみると、村の中を走り回っているリンネさんを発見した。

 うん、走り回ってる……六匹ぐらいの魔物を引き連れて。


 って、見るからに危なそうなんだけど、なんで魔法使わないの。


「はぁ、はぁ……よし、これぐらいでいっか」


 僕が半分を引き受けようとリンネさんのところに近寄ろうとすると、リンネさんは「センパイ見ててくださ~い」と平気そうな声を出して手を振ってくる。


「風よ吹け~!」


 リンネさんの口から出た軽い言葉。

 その言葉に呼応してか、強い風が通り抜けていくと、リンネさんの目の前の魔物たちのところにつむじ風が……いやこれは竜巻!?

 魔物達は高く高く飛ばされてどこかに行ってしまった。


「えっへん!」


 胸をはっているリンネさん。魔法ってすごいな、あれだけ強い魔物をあんなに簡単に倒せるんだもん。

 でもね……。


「リンネさんもっと威力おさえてください!」


 強力だったぶん、魔物だけじゃなく村にまで被害が出た。

 竜巻だったところの近くの家の窓が割れてるし、地面に穴ぼこができてるし。


「いやーセンパイ。実はあたしでも制御できないんですよ」


「じゃあ使用禁止です!」


 なんで自分の魔法なのに制御できないの!

 というか、これ以上使われたら村が崩壊する。魔物じゃなくて助っ人の魔女のせいで。


「それじゃあ、あたしは何すればいいですか!」


「えーと、その辺逃げ回っててください」


「わかりましたっ!」


 リンネさんはさっきと同じように村の中を走り出した。

 その姿を見た魔物たちはリンネさんを追いかけ回す。そうやって注意を引いてくれると僕も倒しやすい。


 一発一発を確実に当てていった。


「ふんっ、こんなものか」


 と、僕らの他にももうひとり、戦っている人がいた。

 あの小さい騎士様、シアさんだ。


 副団長だというのに騎士団に忘れられて檻の中に入れられっぱなしだったのをちょっと解放してみた。

 それも兼ねて鬱憤がたまってるらしく、身体に不釣り合いなほど大きな槍を振り回してばったばったと魔物を倒していた。


 なんだろう。確かにあの実力があれば副団長になれたというのも納得なんだけど、自分より幼く見える女の子があれだけやれるというのは、ちょっと悔しい。


「って、リンネさんっ!」


 ちょっとよそ見している間にリンネさんが魔物に囲まれていた。

 僕は次の銃弾に手を伸ばすけど、もう銀の弾がなくなってしまっていた。


 仕方なく普通の弾を装填しつつ、リンネさんのところへ走る。


「このっ!」


 リンネさんに襲いかかろうとしている熊の魔物に一発撃ってみる。

 銃弾は貫通しない。でも注意を引くことはできた。そのまま隣にいた狼に近づき猟銃を両手で強く握りしめる。


「くらえっ」


 走ってきた勢いを乗せて、猟銃のストックで足を思いっきり殴った。

 転んだ魔物の顎を足で踏みつけ、レッグポーチから弾を取り出して装填し、零距離で魔物の目に向かって撃ち込む。


 思った通り、こういうところには効果があるみたいだ。

 狼の魔物から退くと、そこに熊の魔物の爪が突き刺さる。


 間一髪だ。

 でも、どうにかしないと。

 次の弾を込めて、また目玉に狙いをつける。


 そして僕が熊の魔物に注目していたせいで失念していた。

 他にも魔物はいるんだ。僕の見てない方向から襲われることなんて、いくらでもあるってこと。


『わたしもいるんだからね』


 僕の後ろにいた魔物が植物の蔓に絡まって動けなくなっていた。

 プリムラが魔法で助けてくれたんだ。


『ありがとう、プリムラ』


 僕は自分の前の魔物に集中する。

 大丈夫。僕は『狩人』の息子なんだから。



 プリムラと契約をしたあの日。

 僕は変わってしまった日常を悔やんだ。


 でも、今は、それが運命だったんじゃないかって思う。

 だって、こうして、日常を護るための力になってくれているんだから。

シア「なぜ魔女がこの村を護ろうとする」

ニンフェア「えーと、この村の少年に頼まれて」

シア「そうか……ならわたくしも力を貸すとしよう」

ニンフェア「いいんですか?」

シア「ああ。民間人の望みを叶えるのもまた騎士の務めだからな」

ニンフェア(見た目は小さいけど、やっぱり僕の憧れた騎士様なんだ)

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