クリスマスの"呪い"
これは、とある世界の、とあるクリスマスの日のお話。
フィクションだけれど…全てが起こり得ないことではない。
貴方の友情は本物ですか?
「ノア!勉強教えてくれー」
「いいよ。」
「ノア!今日の放課後、遊びに行こうぜ!」
「いいね、どこに行こうか。」
「ノア君!来月のクリスマス、予定空けてくれてる…?」
「勿論だよ。可愛い彼女との約束を無下にはしないよ。」
僕の名前は『ノア=ウィリアム』。高校三年生。
世界的に有名な財閥の御曹司だ。
現社長の母はとても厳しい人で、僕に何事においても完璧であることを求めた。
一人っ子だったし、期待も大きかったのだろう。
僕は懸命に努力をして、そんな母の期待に応え続けた。
優秀な成績、大人からの信頼、大勢の友達、美しい彼女…全ては母の思い描く理想通り。
…決して褒めてはくれなかったけれど。
それでも僕はいつも笑顔を絶やさずに、聡明な僕でいた。
馬が合わない人とも仲良くしていた僕だが、やはり…
「あ、いたいた。トミー。」
「ノア…」
話したくなる相手は共通の趣味をもつトミーだ。
彼は秀でた才能をもっているわけではなかった。
いつも丸眼鏡をかけてパソコンをいじっており、クラスの中心人物というわけでもない。
しかし、自分に正直に生きる姿に、僕はどうしようもなく惹かれるんだ。
「トミー、見てくれ。今度はこんなゲームを作ってみたんだ。」
「…ノアは流石だね。」
「はは、トミーの作るゲームには敵わないよ。」
僕らの趣味は『プログラミング』。
主にゲームを作ることにハマっている。
正直、大声では言えないようなゲームも作っているんだ。
こんなこと他の友達や彼女、ましてや母には口が裂けても言えない。
トミーとプログラミングの話をしている時だけが、僕が僕でいられる時間だった。
だけど、トミーは…
「それで…」
「ノア。」
「?どうしたの?トミー」
「君には僕以外にも沢山の友達がいるじゃないか。僕なんかと話していていいのか?」
「何を言っているんだ。トミーだって大切な友達だし、僕がトミーと話したいから話しているんだよ。」
「…そう」
最近、このように自分を卑下するような発言が増えたような気がする。
僕の予定を気遣って言ってくれているのだと思っていたが…現実はそんなに甘くなかったんだ。
・・・
そしてクリスマスイブの夜。
眼鏡をかけたサンタクロースが僕に【プレゼント】をくれた。
その【プレゼント】はあまりに大きくて、重くて…
目には見えなくて言葉にもできない。
ただ、確かに僕に与えられた【プレゼント】。
それは一人で抱えるとおかしくなってしまう。
そんなもの。
本当なら誰かと分け合うべきなんだ。
この苦しみを。
信頼できる誰かと。
僕もそうするつもりだった。
それなのに。
朝。
螺旋階段の上にいた母に挨拶をした時も。
「おはようございます。」
「ノ…いやぁぁぁぁぁぁ!化け物!!!!!」
「え…お母」
「ちょっと近づかないで!アンタみたいな化け物の母親になった覚えは無いわ!」
「そんな…」
「前から思ってたのよ。アンタがいることで私に何も利益が無いってね。だから私がアンタの【プレゼント】を引き受ける義理もないわ。さっさと出て行きなさい!」
「…。」
学校でも。
「おはよう。」
「ノ…ノア…それって…」
「うん…あの、さ。お願いだから誰か…」
「………いや、無理でしょ。」
「えっ?」
「そういうのは友達に頼みなよ。」
「俺らそんなに仲良くないし…なぁ?」
「お前とかよく一緒に遊んでたじゃん。助けてやれよ。」
「はぁ?嫌に決まってるだろ!?そんなに言うならお前が…!」
「も…もう、いいよ。もういいから」
「というか、この状態ならあの母親に絶縁されたんじゃない?」
「!」
「まじか。一文無し?」
「みっともないなぁ。そのうち『金貸してくれー』って縋りつかれたりして!」
「うわっ、それ最悪。近づかないでおこうぜ。」
「ちょっと待っ…」
「…。」
「あ!トミー!お願いだよ、トミー。僕の」
「どうして…?」
「トミー?どうしたの?体調でも」
「どうして生きてるの?失敗したんだ…」
「…まさか。嘘だよね?まさかトミーがあの【プレゼント】を…」
「!助けて!!!!!」
「えっ」
「助けて!化け物に襲われる!」
「トミー…」
「どうしたんだ?早速ノアが何かしたのか?」
「奴が僕を襲おうとしたんだ!アイツ、いつも頭のおかしいゲームばっかり作ってたんだ!だからこんなことに…ほら!見てよこれ!」
「うわっ何だこれ!気持ち悪い。」
「でしょー?僕は今まで無理矢理仲良くさせられてたんだ。」
「ふーん。じゃあ俺らのグループ入る?その名も『ノア撲滅隊』なーんてな!」
「いいの!?是非入りたい!」
「…。」
そう。
一瞬で壊れたんだ。
僕の今までの努力が。
僕の全てが。
僕は【プレゼント】を持っているだけ。
僕自身は何も変わっていないのに。
周囲の人間は、僕を化け物扱いする。
…唯一の親友でさえも。
所詮は薄っぺらい関係だったんだ。
仲が良く見えたとしても、その本質は上辺だけの関係だったということだ。
彼らは僕のことを見ていたんじゃない。
僕のステータスを見ていたんだ。
・・・
放課後。
寒空の下。
約束の場所に彼女は現れなかった。
彼女の大好きなショートケーキを持ったまま、行き場を失った僕はクリスマスの街を彷徨った。
何時間経ったのかは分からない。
辺り一面が闇に包まれる時間帯。
気がつけば彼女の家の近くに居た。
たまたま、近くのコンビニから出てきた彼女と目が合う。
「きゃっ…何でいるの!?」
「今日、約束してたでしょ?」
「だからってこんな…ストーカーじゃない!」
「スト…そんなつもりは」
「早く消えて!気持ち悪い!」
「…分かったよ。じゃあせめてこれを。」
「ちょっと!得体の知れない箱を近づけないでよ!」
「ごめん。ほら、これ。君が好きなショートケーキだよ。早朝から行列に並んで、やっと買えたんだ。だから、これを君に…」
「こんなもの…安心して食べられるわけないでしょ!!!!!」
彼女は僕の手の上にあったケーキをはたき落とした。
コンビニ前で雪が溶けて、その姿を現していた黒いコンクリートの上にクリームが広がっていく。
呆然とする僕を睨みつけながら、スポンジに追い討ちをかけるように、何度も何度も踏みつける彼女。
今日はクリスマス。
そのはずなのに…「聖なる夜」どころか「悪魔の夜」だ。
気の済んだ様子の彼女が去った後、薄明かりに照らされたケーキは見るも無惨な状態で横たわっていた。
その姿を見ていると、自然と涙が溢れてくる。
あぁ…やっぱり…
「………汚いものなんて………大嫌いだ………」
ここまで読んで頂きありがとうございました!
誤字脱字、文法的間違い、不快な表現等ございましたら、指摘して頂けると嬉しいです!
・・・
こんばんは!作者の猫柳芽です!
今回は『クリスマス特別短編小説』ということで!
慣れない短編小説に挑戦してしまいました…
私としては、中々悪くはない出来だなぁと思っているのですが…如何でしたか!?
兎にも角にも、長編小説「Cursed・Rebel」など!
これからも猫柳芽をよろしくお願いします!
(そういえば今回のストーリー…誰かの過去に重なるんだよね…。タイトルの表現の仕方とか…どの小説に似てたんだったかなぁ?………誘導ってこんな感じで合ってますかね…。)
因みに!『クリスマス特別短編小説』は「菜の花乃ノ花」ちゃんと一緒にやっている企画なので、是非是非!彼女のホームページも覗いてみて下さいね!