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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

未完全な愛しさで

作者: 高校時代は夢のよう

はじめはお前の事を好きだと一ミリだって思えなかった。

俺がいかに愚かで能無しなのかお前の隣に居ると突きつけられるような気がした。

まぁでもすぐにわかる

お前がどんなに努力でその才能を手に入れたか。

俺がなんと愚かだったのか。



高校1年の春。入学してすぐの校庭には早速部活動に入部した生徒が懸命に部活に励んでいた。俺の入学した私立若宮高校は文武両道を掲げた進学校である。

野球、弓道、自転車競技など様々な部活動が輝かしい成績を残し所謂スポーツ留学のためにこの高校に入学する奴も少なくない。

暑苦しくも眩しく部活動をする奴らを尻目に俺はイヤフォンを耳につけ静かに校庭を横切った。

何も見ずに横切れば良かったのだ。クラスメイトの男を第一グラウンドで見つけなければ。

静かに横目に見た男はクラスでは見せない表情を、必死に、愚直にボールを追いかけていた。その真っ白なはずのユニホームを泥だらけに汚して。

獅子を思わせるような怒号が飛び交うそんなグラウンドのど真ん中で。100名以上はいるであろう部員の中のたった数名のレギュラーを奪うためにあの物静かな男が咆哮を上げていた。

目にした途端にブワッと全身に鳥肌がった。

「清水はじめ…」

俺にはないその熱がとても、とても羨ましくて憎かった。


清水はじめという男はとても物静かな男だった。おそらく身長は180cm以上をこえたスポーツマンとして恵まれた体格を持ちいつも黙々と真面目に1番後ろの席でノートを取るようなそんな男だった。

高校一年の春。入学してすぐの初夏を待ち遠しいと思わせる風が吹くあの季節に俺はこの男にほんの少しの憧憬と何もない自分と比較した劣等感にも似た憎悪を持っていた。




その衝撃的な出会いがあっても点と点は交わることなく2度目の春が来ようとしていた時だったと思う。


「ッ!!!!」

ガンっ!!っと大きな音が響いた後ガラガラとものが崩れていくような音が続いた。

担任からの頼まれものを終えた後教室へ戻ればとっくに部活に行ってるであろう清水が大事な道具が入っているスポーツバックを投げ捨てていた。

興奮冷めやらぬ顔で教室に入ってきた俺見つめる。

いつかの獅子がそこにはいた。お前の本質はそれなのかと静かに思った。

「あー。大事なもんじゃねーの?」

そう言って教室の中に散乱した道具をかき集める。

しゃがみこんで拾いはじめた俺を清水は黙って見ていたが、しばらくするとすまない…と自らも道具を拾いはじめた。

何も会話がなかったが静寂を破るように清水がぽつりと話だした。

「すぐ治る怪我なんだが、監督に見つかってレギュラーをほんの少しの期間降りることになってな。冷静になれなかったんだ。恥ずかしいところをみせってしまった。すまんな」

まるで言い訳みたいだなって思った。

一ミリも納得してないんだろう。納得できるけど悔しくてたまらない現実を呑み込むために言葉にしてるみたいだと思った。

「おう、手大丈夫なん?」

「ものを殴ったことで怪我はしてない」

「そっか」

そこまで話した時点で、床にはもう何も落ちていなかった。


「なあ、俺さお前の事わかってねえから良くは言えないけど、その手大事な手なんだろう。」

「そうだな…」

「お前の未来がかかった手なんだ」

思わず、拳をにぎった清水の手を上から包むように握った。


はじめて見た時獅子みたいだと思った清水という男の咆哮は、この拳を握りしめて勝利への喜びを渇望してるみたいだと思った。マウンドに立つお前を見るのが俺は心底好きだったんだ。最初は憎たらしかった。高校三年間を捧げて、一年の頃から強豪校のレギュラーを勝ち取り血反吐吐くみたいな顔してそれでもこれが好きなんだって顔でマウンドに立つお前が本当に憎くて、羨ましかった。

なんでそんなに野球が好きになれるかもわからんくてもちょっとでも見続ければ努力してることなんてすぐにわかった。

マウンドに一番に向かって外周を始めて、誰よりも長くその場で練習して、補習になったら練習時間が減るからと地道に勉強して。

実はそんな姿を放課後、図書室や教室で勉強しながら見てたんだっていえばこいつはなんていうんだろうか。

気持ち悪がられるだろうか。

憧れと憎しみは、いつの間にか親しみと尊敬と恋情に少しずつ色を変えていった。


季節を跨げば、好きなんだと認めざる終えないとこまで来ていた。

好きだと言わずに、想いが溢れずに、どうかどうかこのまま隠してしまえればいいんだ

だからこそ、たった一言だけかけた。

今、お前に俺から言えることはそれだけかなって思ったから

「この手で掴めよ、お前の欲しい勝利ものをさ」


握った手を離せば清水を見れば鳩が豆鉄砲を食ったような顔して俺を見てた。

そして俺のてを握り直した。

え?

「掴んでいいのか。欲しいもの」

あ、ん?

「ずっと綺麗だと思ってたんだ。一眼で欲しくなった」

は?

「試合を見にきてくれるたびに本当に嬉しくて、どうしてもいいところを見せたかった。練習試合だってきてくれただろう?」

待て、ちょっと待て

「おまえが」

「いや、ちょっと待てよ!!!!!」

思いっきし突っ込んじゃったじゃねーか。

「お前が欲しいものって甲子園優勝とそういう勝利のことじゃねーの????」

もう何も聞きたくなくて清水が口を開く前に聞き直した

「勝利が欲しいのも間違ってない。でも今俺が1番欲しいのはお前だ。桐生真」

迷いなくて

獅子みたいな咆哮を上げて

一直線にボールに向かっていくあの時の瞳が

真っ直ぐに俺を貫いた。


「好きだ、お前が欲しいんだ」


いつか憎んだあの熱が俺に向かってやってきた。




もし頑張る気力があれば連載します。

またお会いできるように頑張ります‥

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