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第71話

「では、サマノ様によるNPO法人『遊撃隊』の講演会を、開催致します。ご静聴お願い致します。」

 幕が上がり、既に壇上にて待機しているサマノを、視認する会場の観客だった。

「申し込み人数1982人。来客率99.9%。最低でも、この会場くらいなければ、収容不可能な数字だ。陰キャの僕には、ストレスしかないな。」

 等と言う無駄口を叩かないサマノだった。そして、早速口を開く。

「勘違いしないで欲しい。僕は、NPO法人『遊撃隊』の代表ではない。あくまで、発案者、助言者でしかない。よって、未成年者の『戯言』程度に考えて欲しい。」

 会場の空気に、戸惑いが、混じった。そう感じるサマノ。

「間違っている!」

 会場内に充満したのは、壇上に持ち込んだ教卓を強打した音だ。だが、殴った訳ではない。

「イジメが存在する事実。イジメを黙認する学校。イジメ加害者の権利ばかりを殊更強調する輩。全て間違っている!」

 次第に会場内の空気が、変わっていく。

「だが、最も間違っているのは、諸君らだ。」

 水差しから、手酌で水を口にする。

「分からないか。ならば、敢えて問おう。諸君らには、子供はいないのか。」

 この反応は、様々だった。憤怒、悲嘆、憎悪、絶望……

「どうやら、知っている様だ。諸君らは、『この世界は、被害者の権利を、なおざりにする』事をな。また、敢えて問おう。それは、『何故』だ!」

 徐々に、確実に、会場内の意識が、サマノへと集中する。

「人間は『邪悪』だ。更に、『邪悪』である事を自覚している。これは、何時自分が、加害者になるかもしれない。そう言う事だ。だから、今の内に『加害者の権利保護』を主張している。」

 会場内の空気は、呆然と唖然と愕然としていた。

「いいか、世界とは、社会とは、人類とは、被害者の『泣き寝入り』を、強制している。更に、『泣き寝入り』におんぶ抱っこしている。それが、最大の間違いだ!」

 またも、会場内に充満するのは、教卓を強打した音だった。

「敢えて問おう。『間違いを正す』には、どうする。」

 水差しから、手酌で水を口にする。今度は、間を持たせる為、時間を十分に取る。

「そうだ、ヒントを出そう。1つ、『加害者』は、『甘やかされている』。明白だろう、『罪』を犯しながら、『罰』を受けていない。それどころか、『悪事』を愉しんでさえいる。」

 右手人差し指を立てるサマノ。

「2つ、『加害者』は、人類を、社会を、世界を『甘く見ている』。明白だろう、『罪』を犯しながら、『罰』を受けていない。それどころか、『悪事』を愉しんでさえいる。」

 右手人差し指に続いて、中指も立てるサマノ。

「分かりませんか。『加害者』とは、『邪悪』な本性を、欲望の赴くまま、『暴走』させている。本来なら親が、教えるべき、『悪い事をしちゃ駄目』と、教えられていない!」

 何時の間にか、右手拳を教卓に、降ろしていたサマノだった。

「つまり、答えは1つしかない。『教える』事だ。ここで、重要な事は、『教育』ではない! 『教える』だけだ。『育てる』義務は、無い。敢えて問おう。何故か。」

 会場内の人間は、既に固い唾を飲んでいた。

「『教育』とは、『教え』『育てる』と書く。これは、これこそが、『教師』の仕事である。我々は、『教師』では無い。よって、『教える』事のみ。違うか。」

 会場内の人間は、遂に、呼吸も忘れたかの如しだ。だが、誰一人動く事なしだ。

「この場合、『育つ』かどうかは、『自己責任』だ! 『加害者本人』が、『教えられた事』を『糧』に自ら『育つ』。心を入れ替えて真人間になる。それが、『加害者』の『義務』!」

 今度の強打音は、一際大きかった。が、全員が、心地よいとさえ感じていた。

「いいか、『教え』る事は3つだ。イジメが、如何に残虐で、如何に残酷で、如何に残念な行為かだ。さぁ諸君。『教え』るぞ!」

 もう、辛抱たまらんとばかりに、立ち上がり、シュプレヒコールをする観客達だった。

「『教え』るぞ! 『教え』るぞ! 『教え』るぞ! …………」


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