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第58話

《どぉぉぉっ! 言う事だぁっ!》

《本部長、ですから、未だ調査中だと、申し上げました。》

 本部長と呼ばれた角刈り金髪の白人男性は、大柄、筋肉質、握り拳などボウリング球の様だ。その拳で打たれた机が、悲鳴を上げた。

《現在、調査の範囲を広げていますが、未だ発見には、至っておりません。》

《同然だぁっ! なんで、チャイニーズマフィアを見失った! 何で、連中如き劣等民族を、見つけ出せない!》

「トップが、無能だからだよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの室内に存在しない。

《中国の連中は、つい先日まで、『予言者の歌』を潰し、残党狩りに勤しんでいました。それが、1段落着いたので、身を隠しているのでしょう。》

《『予言者の歌』ぁ? ……あぁ、あのオカルト紛いの、手品師育成所か。あんなもの、実践じゃ、役立たずもいい所だってのに、放火までするなんて、物好きだな。》

 葉巻の先端を、食い千切って、灰皿に吐き出してから、ジッポで火をともす本部長。

《ぷぅーーはぁーーーーっ……。》

《如何です。考えは、まとまりましたか。本部長。》

《おかしい。……》

《……おかしい? 何がです。》

《確か、手品師共は『成功した』と報告しただろう。》

《確かに、長官には、そう報告していました。》

「それは、長官に報告した内容を、本部長が盗み見た。とでも言いたいのか。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。

《だのに何故、手品師共は、むざむざヤラれた。それも、劣等民族共に。だから、おかしい。》

《そう言えば、連中の『能力』は、『薬』を投与しないと、使えない。そうありました。》

《つまり、手品師共は、不意討ちに弱い。そう言いたいのか。》

《はい、恐らく。》

《それだ。逆に言えば、劣等民族共は、不意討ちに強い。もしくは、隠密性に特化した部隊を、投入したのかもな。》

《確かに、辻褄は会います。》

《だが、それでも不自然は、残る。》

《と、言うと?》

《が、『隠密性に特化した部隊』等と言う、多数の人員を投入した痕跡が、見つかっていない。これは、どう言う事だ。》

《現在、調査中です。例の火災も消防、警察に潜伏中のエージェントが、情報を集めています。しかし、立て続けに、事件が発生した為、人手が足りません。》

《それもだ。今、連絡がつかなくなったエージェントが、急増している。それも、関係があるに違いない。》

《では、連絡がつかなくなったエージェントを、捜索しますか。》

《いいや、それは劣等民族共の件が、解決すれば、自ずと分かる。》

《何故です。》

《俺には、分かる。この件には、劣等民族共が、関わっている。》

「以上デス。」

 通信機に、日本語で語る男だった。

「よし、最終段階にしなさい。」

 通信機から、日本語が漏れ聞こえて来る。

《おい、お前、何を言って……》

 だが、台詞を最後まで言い終える事、叶わじ。本部長。今しがたまで、平常通り会話していた部下が、溶け始めれば、台詞どころではないだろう。勿論、溶けただけではない。

「Gawwwwwww!」

 肉体を再構成し、今やそこにいるのは、一頭の『黒豹』だ。

「Shit! (ちっ)」

 だが、本部長とて、歴戦のつわものだ。躊躇なく、拳銃を抜きざまに撃つ。早打ちで、彼の右に出る者等そうはいない。だが、『黒豹』の動きは、野獣のそれだ。

「Shawwwwwwww!」

 否、『黒豹』である事すら止めていた。それは、1匹の『大蛇』へと変貌していた。

 発砲より早く、螺旋を描き、本部長の銃を持つ腕を巻き取る『大蛇』。

《ぐぅぅぅぅっ!》

 更に、長い胴体を生かし、本部長の首を『裸締め』にする『大蛇』。

《フザケルナァッ!》

 銃を持つ方の腕を、完全に極められた上、反対の手に持ち帰る事もかなわない本部長。だが、この程度で諦めるような奴は、根性なしだ。意地を見せる本部長。

《喰らえっ!》

 左拳を『大蛇』に叩き込んだ。何度も何度も。この我慢比べは、長く続いた。

「Gvuwh……。」

 軍配が、あがったのは、野獣の肉体を持つ者、『大蛇』だった。


 * * * 



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