第38話
《ふんぐるねぅーっ!》
猿轡をされたまま、両手脚を椅子に拘束された状態、この時に見せる反応など、想像に難くない。
「むしろ、奇抜な行動取られても面倒なだけだな。」
「如何ナサイマシタカ。『救世主』様。」
「何でもない。彼も、覚醒した様だし、そろそろ始めよう。」
彼、とは、副大統領の事だ。
「しっかし、エグいもん、手に入れたわね。歯科医院みたいな椅子に、金属製の手かせ足かせ首かせなんて、映画みたい。」
「某スパイ映画デス。」
「それだけじゃない。ちゃんと、ドリル他工具類も、完備してある。いい趣味してるな。アーデルハイド。」
「お褒めに預かり恐悦至極ぢゃ。『救世主』様。して、この後、如何に進めるのぢゃ。台本は、全て『救世主』様の脳内であろう。」
「では、彼の眼前で、ドリルを回せ。当てるなよ。」
「心得た。」
ゾフィーの合図で、機械を捜査し、ドリルの位置調整と、回転スイッチを入れるメイド。
「うわ、ドリルの回転音まで、歯科医院じゃない。」
「チュミミィーン。」
ポロポの「チュイィィィィーーン。」は、「チュミミィーン。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某奇妙な冒険とも無関係に相違ない。
《フゥーッ! ふんぐるぅーっ!》
更に、悲鳴が、大きくなる。無理もない。首と頭を押さえらせている以上、回転するドリルを正面から見ざるを得ない。
「念の為、両眼をテーピングしたのが、功を奏した。」
時計で、時刻を計る。正確に1分30秒、そこで、ドリルを止めさせる。
「ドリルの回転音って、五月蠅いわね。」
「同感デス。ガ、悲鳴ノ方ガ、五月蠅イデス。」
《ウゥーッ!》
この時点で、「停止せよ。」の動作をするサマノだった。
「彼の猿轡を外してやれ。」
ようやく、猿轡を外され、会話可能になった副大統領。
《やめてくれぇっ! 私を誰だと思ってるんだ!》
[回せ。」
また、ドリルが、回転する。今度は、回転式丸型ノコギリも回る。
《いやぁぁぁぁぁぁーーーーーっ! いやだぁーー! やぁーめぇーてぇ!》
「キモぉ……。豚の解体ショーじゃあるまいし。」
「豚……カツレツ、生姜焼キ、シャブシャブ、ドレモ美味シイデスネ。」
「おひおひ……副大統領を喰う気かよ……。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
だからと言って、舌なめずりする黒豹が、この場にいる訳でもない。
「停止。」
サマノの指示に従い、ドリルと、回転式丸型ノコギリを、停止させるメイド。
《わ……分かった。望みは、何だ? 金か? それとも口利きか?》
「僕は、金も、人脈も不要だ。欲しいのは、1つ、情報だ。これについて、質問しろ。」
そう言って、A4用紙を1枚、渡されたゾフィー。
「……相分かった。待つがよい。『救世主』様。」
《わらわの質問に、疾く、正確に答えよ、副大統領。》
《わ……分かった。答える。こたえるからぁぁ。》
《その方、中国から、金を受け取っておるのぉ。年間幾らぢゃ。》
《……さ……さぁ……。》
ゾフィーの邦訳を耳にしたサマノだった。
「回せ。」
《いーやぁぁーーーーーっ! いやだぁーー! やぁーめぇーてぇーー! 分かった! 分かった! 話すよ! だから、止めてぇー!》
「回したまま、質問しなさい。」
《中国から、何年間で、幾ら受け取ったのぢゃ。》
《ごっ……ごじゅう、オク。こっ……ことしダケぇ……です。》
他にも、受け渡し相手や、渡した機密情報などをしゃべってくれる副大統領。
《50億米ドルぢゃな。》
「Yes。」
《では、外国の『救世主』を、暗殺するよう指示されたのぉ。お主から誰に指示したのぢゃ。》
《しっ……知らない。それは、大統領の専任事項だ。確か、CIAに、直に命令してた。だがら、嘘じゃなぁぁぁい! やーめーてぇー!》
「停止。」
サマノの指示に従い、ドリルと、回転式丸型ノコギリを、停止させるメイド。
《では、次の質問ぢゃ。『予言者の歌』について、お主が知る限りの情報を、あらいざらい白状せよ。》
《……よげん……しっ……知らない。それを知るのは、大統領だけだ。……確か、CIAの管轄のはず。》
サマノの目くばせを、受け取ったゾフィー。
《これで最後の質問ぢゃ。特定の人物が、米国に入国した場合、それを中国の工作員に、連絡した。そうであろう。》
沈黙が、立ち込める。
「回せ。」
《やぁーめぇーてぇーー! 分かった! 分かった! そうだよ! 連絡したよ!》
ゾフィーの邦訳を聞いて、満足したサマノは、軽く指を鳴らした。
「おっ、こ奴、気を失ったぞよ。」
「意外と、軟弱ね。」
「コレデ国ノ指導者代理トハ、嘆カワシイ。」
ここでの作戦終了を宣言するサマノ。撤退準備に取り掛かる一同。
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