第31話
「その通り、やはり、君を採用して正解だったね。」
サマノが、視察中に、そう言った矢先の事だった。
地面への弾着音と銃声が、響いた。
「狙撃!」
いつの間にか、現れたメイド達に担ぎ上げられて、装甲トラックに乗せられるサマノ。勿論、サマノだけでは無い。森成利と、ゾフィーも、全て異なる装甲トラックに乗せられだ。
「かしこみぃもぉすぅ。」
何時の間にか、手にした御榊の枝を一振りすると、周囲に水の壁を展開する幼馴染。
「AhhhFwwww!」
そこに、ポロポの姿は、無く、代わりに一頭の黒豹がいる。
「よし、『ドレス』の着用完了ぢゃ。わらわは、打って出る!」
イヤホンから流れた音声を、聞き取る幼馴染。
「わらわちゃん、打って出るそうよ。」
現在、人間/黒豹両方の耳に合うイヤホンの開発に、余念がない。ここは、口頭で伝達するのみだ。
「Gaw!」
伝わったらしい。ボディーランゲージは、偉大だ。肉体言語に非ず。
トラックのコンテナが、開く。例の金属製の強化外骨格を身にまとい、対戦車ライフルを構えた人物が、現れた。随伴するメイド達は、飛行装置のみを取り付けた簡易装束だ。
「ゾフィー、出る!」
音も無く、煙も無く、原理不明な手段で飛行するゾフィー。
「お嬢様に、続け!」
簡易装束のメイド達も、随伴する。
「まったく、事前の調査では、適切な狙撃ポイントなど無かった筈ぢゃ。」
周囲にある山の内、1つに向かうゾフィー。
「あの山頂付近から、撃ってきたのぉ……なんちゅう、技量ぢゃ。8……900メートルは、あろうかや。外してくれたのが行幸ぢゃな。」
「お嬢様!」
片眼鏡の様な物を着用し、随伴する戦闘隊長が、指摘する。赤外線センサーが、捉えた人型の反応へと向かう。
「よし! わらわと隊長は、このまま、お主らは右、お主らは左から回り込め!」
「Ja!」
全員が、一糸乱れぬ動きを見せる。統率のとれた動きこそ、ゾフィーにとってはご満悦だ。
「Freeze! (動くな)。」
そして、前を走って逃亡する者に、声を叩きつける。
「やむを得じ。」
威嚇射撃のボディーランゲージをするゾフィー。側のメイドが、頷きを返して、抑音装置付きの、拳銃を発砲。
銃弾(マウザー弾)は、例の人影の側にある樹木に、命中した。
一旦、樹木の陰に隠れて、銃弾(マウザー弾)をやり過ごす人影。
今度は、樹木の陰から飛び出して、自動小銃(M16)を撃ちまくる。
「散開!」
ゾフィーが、言う前に、互いに距離を取って散開するメイド達だった。
それに反して、正面から7.62mm弾を喰らいまくるゾフィー。だが、流石強化外骨格。大した痛痒も感じないらしい。
「焼死!」
ゾフィーの「笑止!」は、「焼死!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
火炎放射器とも無関係に相違ない。
{Oh!」
自動小銃(M16)を撃ちながら、驚くのも無理は無い。ゾフィーの強化外骨格が、手首から『ノズル』を出し、そこから『火』を放ったからだ。飛び退って避ける射手。
だが、その時、バランスを崩した。転ばぬように踏ん張るものの、隙が生じた。
「撃て!」
メイド達が、テーザー銃を、使う。射手は、電気ショックで麻痺。自動小銃(M16)を、落とした。
そこに、スマホの着信。
「如何にした。幼馴染殿。」
ヘルメットに内蔵した通信機器に、通話を転送して、受け取るゾフィー。
「…………別方向から、狙撃されたわ。ポロポちゃんが、『結界』から飛び出したの。」
「よし、お主は動くでない。わらわは、一旦戻る。」
だが、その台詞は、途中で遮られた。
「けふぅっ……。」
短い悲鳴と、それに遅れて、重い物を地面に、落したかのような音が、響いた。
「もしもし……もしもし……どうしたのぢゃ! 幼馴染殿!」
メイド達の様子を確認するゾフィー。
「拘束しました。お嬢様。」
「急ぎ、戻るぞ! ついて来れる者のみ、ついて参れ!」
返事を聞く前に、飛び立つゾフィー。
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