第22話
このタイミングで、動画を、一時停止させたサマノ。
「この通り、学校内では、イジメが横行している。然るに、何ら手を打たない。学校側の怠慢だ。本来なら、教職員の処分も含めた『膿を出し切る』改革が、急務だ。」
「そんな事より、映像と音声の記録装置を、秘密裏に仕掛けた上、動画を提供したのは、わらわぞ! ご褒美は、無いのかや! 『救世主』様。」
「図々しいわ。」
「同感デス。」
「勘違いするな。これは、君達が言い出した事だ。剰え(あまつさえ)、僕に『協力しろ』とまで、要求した。できて当然、褒美も称賛も蛇足だ。そんな事より……」
「そんな事?」
「ヨリ?」
「対応策を決める。」
「はぁい♪」
「オオ! ヨウヤク、登場デス。」
「結論から言おう。証拠の動画を、弁護士先生を通じて、教育委員会に提出。学校諸共所処分して貰う。」
「そりゃそうよ。折角、『救世主』様が、自分の身に起きた事を、教えてあげたのに、それを生かせないなんて、最低よ。」
「シカシ、何故コレ程、イジメヲ黙殺スルノデショウ。発覚スレバ、不祥事ハ、マ逃ガレナイデショウ。『救世主』様。」
「ああ、それか。大した理由は無いな。」
「どんな理由なの。『救世主』様。」
「例えば、イジメが、あったとしよう。すると、イジメが発生した学校は、報告義務がある。」
「報告? 誰ニ報告スルノデス。」
「文部科学省、都道府県の教育委員会、市区町村の教育委員会、当然報告書は3通必要だ。」
「……ソレデハ、学校ガ、イジメヲ隠蔽スルノハ、報告書ヲ作成スル手間ヲ省ク為デスカ。」
「その通りだ。更に、付け加えると、イジメが発覚すると、保護者への説明や、加害者の処分、情報が世間に漏洩すれば、記者会見など、手間は加速度的に増大する。」
「ツマリ、大人ノ事情デ、『被害者ヲ切リ捨ステル』。ソレガ、コノ国ノ『教育』デスカ。」
「その通りだ。……では、他に質問は無いな。では、今日は解散。」
この後、黒田弁護士に、電話するサマノだった。
* * *
着信音と共に、「あの」弁護士が、表示された事に貌をしかめるタ……もとい、校長先生だった。とは言え、手早く電話には出た。簡単な挨拶の後、本題に入る。
「は! 記者会見? いえいえ、イジメに関しては、先日お話しした通り、現在、適切な対応を準備中です。」
「校長先生、それは、3日前の話です。私が申しますのは、『新たに発覚した』訳です。まさか、イジメが、1件だけだと、本気で仰っているのですか。」
「その様な報告など受けていません。」
「ですが、教育委員会の側では、既に把握済みです。学校への報告を要請する予定です。近々、連絡があるでしょう。それに向けて準備をすべきですね。」
「それ、あんたが、リークしたんだろぉっ!」
等と言う無駄口を叩かないタ……もとい、校長先生だった。
「いえいえ、準備も何も、その様な報告受けていません。そもそも、何を把握されているのやら、さっぱりですよ。」
「校長先生……今の発言、記者会見でも、ご披露なさるおつもりですか。」
心底残念そうな声音の黒田弁護士だった。
「では、教育委員会が把握している内容、具体的には、一体何でしょう。それが、分かりませんと、対応しようが……。」
あえて、最後まで言わないタ……もとい、校長先生だった。
「構いませんよ。これからメールで送ります。但し……。」
「ただし?」
「重いので、PCで閲覧する事をお勧めします。そうそう、PCのメアド、頂戴出来ますか。」
「はい、後程送ります。が、事実関係の確認には、それなりの時間が、必要となります。ご理解の程、お願いします。」
この期に及んで、予防線を張る事に必死のタ……もとい、校長先生だった。
「はい、分かりました。今の発言も含めて、教育委員会には、お伝えさせて頂きます。では、メアドの方、宜しくお願い致します。」
電話を切って安堵するタ……もとい、校長先生だった。更に、教頭先生を呼びつける。
雑用を押し付ける為と、八つ当たりの相手をさせる為だ。
* * *
話は、特別学級開始2日目に遡る。
ここは、元々個人経営の駐車場だった。が、持ち主が、急病で死去した為、相続税対策に、売却された。その間隙を使って、買い取った。
ここは、立地条件がよい。サマノ家にも、学校にもほど近い。土地をしっかりしたフェンスで囲い、中心にプレハブ小屋を建てた。ここに、『加害者』共を収容する為だ。
「ちっ……こんな『ほったてゴヤ』で、セーカツしなきゃ、ならねぇのか。」
今日からここに、収容される『元加害者』の独り言が、歯間より滑り出た。
「何か、言いましたか。」
こちらは、スタンガンを仕込んだ警棒などで、武装した白人メイドだ。
「さぁ……おれは。ナンも……。」
こうして、彼は収容された。
* * *
「はぁ! メシは、これだけかよ。」
「総合栄養食です。栄養分は、十全です。栄養バー1本と、水1杯とは言え、あなたが食事できるのは、『あのお方』のご配慮の賜物です。弁えなさい。」
* * *




