第20話
「……と言う訳ぢゃ。」
説明が、終わる前に食事は終わり、すっかり片付いたリビングに、4人揃っていた。
「そうか、それであの用務員には、主犯格がいなかった訳だな。さっきの様な交渉では、揉める事も、ありえるだろう。だが、1つ疑問が残っているぞ。」
「何ぢゃ、『救世主』様。」
「そもそも、『元同級生の証言』は、何時の間に、誰が、録音したのかだな。」
「知れた事。わらわが、この国で探偵を何十人か雇って、人海戦術でやらせたのぢゃ。ちなみに、父君、ヨウヘイ氏より、各種資料を頂戴してあったからの。簡単ぢゃった。」
「勿論、疑問はこれだけではない。元加害者が、今、何処で、どの様な生活を送っているのか。だが、これは優先順位としては、低い。」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
「で、今後はどの様に進めていくつもりだ。」
「それは、『救世主』様次第、ですね。」
「ハイ、『救世主』様ハ、如何ナル結末ヲ、オ望ミデショウ。」
「僕が、望むは『彼等が、心を入れ替え、真人間になる事』だけだ。」
「なら、加害者全員を、ひっ捕らえねば、なるまい。ぢゃが、それには、『救世主』様の協力が、必須。」
「何か、ありませんか。状況を劇的に変える物を、お持ちでしょう。『救世主』様。」
「………………………………………………………………………………………………ある。」
「流石、『救世主』様。天下無双ノ天才デス。」
「準備が、必要だ。明日まで待て。」
「心得た。ぢゃが、『救世主』様、せめて教えてもらえぬか。状況を打破すると申されたが、何を投入する気かや。」
「秘密にすることも無い。『録音』だ。イジメ犯行現場の一切合切のな。」
「あら、そんな『切り札』が、あるなら、学校に提出すればイジメは、解決したのでは?」
「3つ理由がある。1つ、担任教師も、学校も事なかれ主義に、凝り固まっていた。隠蔽されるのが、関の山だった。」
「デハ、2ツ目ハ、何デショウ。『救世主』様。」
「2つ、家庭環境だ。母親は、不倫の末、家出。父親は、外国での仕事が忙しく、家に寄り付かない。が、金回りが、良かったので、小型で高価な録音装置を、通販で購入できたがな。」
「つまり、家に味方が、おらなんだと言う訳かや。して、3つ目とは何ぞや、『救世主』様。」
「金品の要求ないし、入院するほどの負傷を受けたら、教育委員会に、提訴しようと考えていた。」
「あっ! それなら警察沙汰にもできるわ。」
「シカシ、悲シイオ話シデス。『救世主』様ガ、一方的ナ『被害者』ニ、ナッタダケデハ、アリマセンカ。」
「誰か1人でも、一方的な『被害者』を必要とする。人類とは、そういう『邪悪』な存在だ。その証拠に、当時の生徒は、加害者と、自己保身で、見て見ぬふりをする輩だけだった。」
「それは、自分が、次のターゲットになりたくない。そう言う恐怖心からだった。ですよね、『救世主』様。」
「そう言う事だ。」
「やはり、当時同じクラスにおった者は、同罪。処罰の対象とすべき。『救世主』様、処罰の許可を頂けぬか。」
「別に、諸共に『滅びる』のだろう。必要無し。そんな事より僕は、準備で忙しい。また、明日な。お休み。」
* * *
彼女が、教室に入った時、何か……違和感を感じた。
「おはよう。」
だが、教室に入らなければ、何も始まらない。取り敢えず、教室に入った彼女だった。
「……。」
誰も返事をしない。隣の席の友人にも挨拶する。が……
「あとでいつもの場所。」
LINEの素っ気ない返信だけだった。
何かな……?
* * *
休み時間、教室を抜け出し、AirPocketの様に、人の少ない所へ来た。
先んじて、移動していた友人がいる。
「どうしたの?」
無言で、スマホの画面を突き付ける友人。
「アドレス?」
イヤホンを耳にしてから、そのアドレスにアクセスする。有名な動画投稿サイトだった。
「●●さんも、イジメに加担してました。」
聞き覚えのある声だった。何故……
「あなた、中学の時に、イジメしてたんだね。」
今度は、LINEだった。
「違う……そんな事してない……。」
「クラスのみんな、知ってる。昨日、LINEでメッセージが、届いた。あなた以外には。」
またも、LINEだった。
「信じて……。」
「ごめんね。あなたの事、無視するって、決まったの。じゃ。」
「そんな……。」
* * *
放課後、彼女は、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、担任教師に相談した。だが……
「いいか、これは大人になる為の試練だ。ここで、大人に頼ると、お前が1人で、成し遂げる力がつかない。厳しくても頑張れ。先生、応援しているからな。」
そう言われて、詰んだ。もう誰も、あたしを信じてくれない……
* * *




