第19話
「しかし、3年も前の話、今更蒸し返すのも、如何なものでしょう。弁護士先生。」
「校長先生、それは、中学校校長在任中、イジメ問題に対応しなかった。そう確定させたい。と仰っている訳ですね。」
露骨に嫌な貌をする校長先生。それも、昨年までサマノが、通っていた中学校のだ、
「では、当時のサマノ君の担任教師への聞き取り調査を、許可して頂けますね。」
「そもそも、イジメがあった事実を私は、知らなかった。担任からも報告を受けていない。」
「では、今の発言を裏とりする為にも、当時のサマノ君の担任教師への聞き取り調査を、許可して頂けますね。」
「そもそも、在校中には、何も無かった。そんな話は聞いていない。私が、嘘をついたとでも言いたいのかね。」
「ちなみに、私の電話には、教育委員の番号が登録されています。電話一本で校長が、過去イジメを隠蔽し、生徒が卒業するまで、対策しなかったと、知られますよ。」
「今度は、脅迫かね。」
「いいえ、『取引』です。いずれにせよ、校長には、損の無い話しです。宜しいですか。」
「…………………………………………………………………………分かった。許可する。」
暫く待つと、くたびれた背広姿の壮年男性教師が、やって来た。
お互い軽く自己紹介し、早速本題に入る。
「イジメですか、私は何も把握しておりませんよ。弁護士先生。」
「では、こちらをお聞きください。」
持ち込んだノートPCで、音声を再生する弁護士先生。
「確かに、サマノ君は、イジメを受けてました。でも、イジメのターゲットにされるのが、怖くて言えませんでした。先生も見て見ぬフリでした。」
などと言う声が、異口同音、多数流れた。
「そんな、バカな! こんな物作り話です。」
「では、教育委員会に提訴し、この録音を証拠として、提出しましょう。知り合いもいますし。」
校長が、その通りと太鼓判を押した為、青ざめる担任教師。
「君、減俸処分に処す。」
担任教師に、無慈悲な一撃を与える校長。
「先程、君は、『校長にとって損は無い』そう言った。よって、この処分で満足してくれるね。」
と言う瞳で、弁護士先生を、見る校長だった。
「分かりました。学校の言質が、取れました事、喜ばしく思います。では、これにて失礼。」
* * *
今度は、元イジメ加害者が、通う高校へと向かった弁護士先生だった。
「本日は、お時間を作って頂き、誠にありがとうございます。校長先生。」
「お話によれば、我が校の生徒が、イジメに加担しているとの事でしたが。」
「では、まずこちらを、お聞きください。」
持ち込んだノートPCで、音声を再生する弁護士先生。
「…………ひょっとして、これは過去の話ですか。弁護士先生。」
「はい、そうです。しかし、イジメである事は、事実。こちらの生徒が、加害者グループの1人です。この学校の生徒ですよね。」
写真を示す弁護士。
「しかし、『終わった話』ではないですか。本校では、イジメが存在する訳では、ありません。違いますか、弁護士先生。」
「すると、妙ですね。こちらの生徒は、過去イジメに加担していた事実を、秘匿して、ここに入学を果たした。そうなりますね。」
「確かに、その様な話、聞いておりません。」
「では、この事実が、教育委員会の知る事となったとしても問題ない。そう言う事ですね。」
「それなら、教育委員会が、何らかの判断を下すでしょう。それに従うまでです。本校としては、『知らずに』入学を許可した『被害者』ですから。そうでしょう、弁護士先生。」
「おや、今はご存じですね。ですが、何ら処分しない。そう言う訳ですか。」
「処分の適正さを判断するのは、教育委員会です。軽々な、判断を下すべきではないでしょう。」
「では、生徒が『自発的に自らを罰する』では、如何でしょう。」
「どう言う事です。弁護士先生。」
「生徒に、休学届を出させます。そして、その間反省を促すべく、社会福祉活動に従事させる。これなら、教育委員会に、学校や校長先生の名前を、報告する必要がありません。」
「……そこまで、言うなら、本人を説得して下さい。弁護士先生。」
「はい、校長先生。」
こうして、元加害者生徒が、呼び出され、簡単な自己紹介の後本題に入った。
「休学届! 何で3年も前の話で、そんな事になるんだよ。」
「しかし、それを拒否すると、教育委員会に、提訴しなければなりません。そうなると、もっと重い処分、『退学』もありますね。」
「たっ……たい……何でだよ。校長先生、ま……ホントですか。」
「学校は、教育委員会の決定に、逆らえません。そこは、はっきりさせておきます。」
「そんな……。」
「君、過去の罪を隠匿し、入学したのは、事実なんですよ。むしろ、『停学』や『退学』だって、あり得るのです。君が、休学届に署名提出さえすれば、解決です。」
「じゃ、じゃあ、『休学』は、『停学』や『退学』より軽いのか。」
「勿論、君がイジメグループの中でも、末席だった事は、分かっています。ですから、この処分が、適切と判断しました。拒否するなら、仕方ありません。」
「それって、どういう。」
「教育委員会に、提訴し、より重い処分を申請します。君が、虚偽の申請を、学校に提出した事は、発覚しています。校長先生も処分内容に、苦悩しているのですよ。」
「だからって……。」
「何、たかが1年です。それに、『模範的な振る舞い』を、君が身に着ければ、『短縮』も検討されます。」
「本当に!」
「ええ、ですから、こちらにサインを。」
ペンを渡す弁護士先生。
「分かりました。」
こうして、元イジメ加害者生徒は、陥落し、サインした。
* * *




