表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/72

第17話

 翌朝、朝食の席は静かに進んでいた。

「『救世主』様、昨日ノ約束通リ、納豆作ッテ下サイ。」

「私も。」

「わらわは、要らぬ。」

「いや、この家では、納豆を食べる義務がある。1日に1回以上な。」

「『救世主』様は、暴君ぢゃのぉ……。」

 少しの白髪葱と、多めのからしを入れた物を、ポロポに渡す。

「アリガトウゴザイマス。『救世主』様。」

 多めの分葱と、少々のからしを入れた物を、幼馴染に渡す。

「ありがとう。『救世主』様。」

 白髪葱と、分葱と、粒マスタードを沢山入れた物を、ゾフィーに渡す。

「……頂こう。……」

 そして、自分の分も、納豆を準備するサマノ。

「いただきます。」

 そう言うのは、日本人と、日本に染まり切ったアフリカ人だ。

 長ぁーーい、キリストカソリック式の挨拶をする者が、約1名。

 そして、始まる朝食。

「んーーおいし。」

「オイシイデス。」

「美味ぢゃ……。」

 意外でも何でもないが、全員同じ感想に至った。

「発酵豆とは、聞いておったが、2人と違い、粒マスタードを使ったのが、よいのぉ。」

「勘違いするな。粒マスタードを使うのは、邪道だ。葱をふんだんに使う事は、納豆の『匂い』を誤魔化す為で、これも推奨されない。今後も『精進』すべきだな。」

「まったく、これに加えて『精進』が、必要とは。まっこと、日本食とは、難儀なものよのぉ。『救世主』様。」

 食事が、終わりに差し掛かると、味噌汁のお代わりを頼んだサマノ。

「え? お味噌汁を、納豆を混ぜるのに使ったお皿に入れちゃうの!」

 更に、よく混ぜる。そして、それを茶碗にも移し、更に混ぜてから飲み干す。

「! コビリツイタ納豆ノ糸ガ、ホトンド無クナッテマス……。」

「なんと! 如何なる魔法を使ったのかや。『救世主』様。」

「勘違いするな。僕は、『魔法など使えない』。食器を洗う人間の手間を、考えただけだ。そんなに、『原理』を知りたければ、教えよう。但し、君達も同じ事をしなさい。」

 サマノの真似をする3人娘。こうして、朝食も終わった。


 * * * 


 4人揃って登校すると、学校に見覚えの無い者達がいる。

 用務員服を着用した若い……高校生くらいの男達だった。

「誰だろう。」

「昨日は、いなかったよね。」

 等と囁きあうのは、一般生徒達だった。

 尚、威容だったのは、その人数だった。

 10人以上だった。

「おはようございます!」

 サマノの姿を見た所で、挨拶をしただけで、圧倒的声量になる。

 当然、「ぎょっ」となるのは、約4名を除いた生徒達だけだった。

 そこを悠然と、通り過ぎるサマノと3人娘だった。


 * * * 


「見覚えのある顔があった。昨年、1昨年、3年前の同級生だ。しかも、全て僕をイジメた加害者だ。ここまでの事を成すには、相当な『横車』を押した筈。僕に何か言う事は無いか。」

 等と言う無駄口を叩かないサマノだった。

「『救世主』様、早く納豆と味噌汁の説明を、して下さぁい。」

「私モデス。」

「然り。」

「分かった。」

 そこで、理科の授業を急遽変更し、教鞭を取る運びになった。

「まず、前提として、今回の話は、授業ではない。あくまで、『暇つぶし』だ。試験にも出ない。各自心に刻んでおく事。」

「はぁい♪」

「勿論デス。」

「心得た。」

「では、説明……の前に、石鹸について触れておこう。誰か、石鹸が汚れを落とす仕組みを、説明できる者はいるか。」

「デハ、私ガ。」

「では、宜しくな。」

「石鹸……所謂『界面活性剤』ハ、全テ同ジデス。油ト、不溶性粒子ノ混合物デス。コノ粒子ハ、油分子ヨリ小サク、水デモ油デモ溶ケナイ物デ、ナケレバナリマセン。」

 無言で、先を促すサマノ。

「油ハ、ベタベタシテイル為、不溶性粒子ハ、油ニクッツキ、コーティングシマス。『キナコモチ』ノ様ナ感ジデス。」

 ここで、『キナコモチ』の断面図を、板書するサマノ。

「ソウ、ソンナ感ジデス。……デ、『界面活性剤』ニ、油汚レガ、付着シマス。油ハ、水デハ溶ケマセン。ガ、油ナラ溶解可能デス。更ニ……。」

「更に?」

「毛管現象ガ、発生シマス。ココ、油ノ周囲ニ、付着シタ粒子間デデス。ソシテ、油汚レハ、吸収サレマス。シカモ、粒子ガ邪魔デ戻レマセン。後ハ、水デ流セバキレイニ、ナリマス。」

「よし、いい答えだ。ポロポ。」

「ふむ、『界面活性剤』については、周知の事実ぢゃ。これは、文脈から察するに、味噌汁は、『界面活性剤』と、同じ構造をしておる。そう、言いたいのかや。」

「その通りだ。アーデルハイド。補足すれば、大豆の栄養分で、1番多いものと、2番目は、何だ。」

「タンパク質と、脂肪分でしょ。」

「その通りだ。みぃちゃん。そして、発酵によって、それらの分子間結合が、分解され、ペースト状になったのが、味噌だ。と、ここまでの説明で、分かるな。」

「ツマリ、味噌トハ、大豆油ノ周囲ニ、タンパク質ガ、付着シテイル。『界面活性剤』ト同ジ。ソウ言ウ訳デスネ。『救世主』様。」

「その通りだ。ポロポ。僕からの説明は、以上だ。不明な点は、あるかな。」

「待つがよい。つまり、納豆の『糸』は、『大豆油』ぢゃと、言う事かや。」

「その通りだ。アーデルハイド。補足すれば、納豆菌が、大豆を発酵させる際に、タンパク質が剥離され、油が露出した。そう解釈するといい。」

 それから、ふと思い出したように、付け加える。

「念の為、味噌汁の温度は、高い方がよく溶ける。よって、市販納豆の容器に使う事は、非推奨だ。特に、発泡スチロールに対してはな。今度こそ、質問は無いな。」

「分かりました。」

「問題無シデス。」

「しかと心得た。」


 * * * 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=893380188&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ