第16話
「で、もう寝る頃合いだったんだが、何か用か。」
「うむ、これを見るがよい。」
居間への扉を開けたゾフィー。
「何の真似だ。」
居間には、見覚えのあるメイド達が、壁際に並べられていた。
「勿論、『救世主』様の『性欲処理』の為、皆待っておった。ささ、誰でも好きな娘を、選ぶがよい。ちなみに、全員生娘ぢゃ。」
「何の真似だ。みぃちゃん、ポロポ。」
「当然じゃない。こういう時こそ、幼馴染が、一番に選ばれるものでしょ。」
「『救世主』様ノ為、精一杯ゴ奉仕致シマス。」
しかし、呼吸を落ち着かせようとでもしているのか、反応しないサマノ。俯き、無言を貫いている。
「おや、何をお悩みかの。ひょっとして……わらわをご所望かや。お目が高いの。流石、我らの『救世主』様ぢゃ。」
突然、顔を上げるサマノ。その時の貌は……
「……!」
全員、この場にいる女は、全員恐怖に、打ちのめされた。声を……否、呼吸する事すら、忘れてしまっていた。
「いい加減にしろ。僕は、こんな事頼んでもいない。大きなお世話だ。いいか、君達の行動は、余計で余分で余剰だ。」
殊更、大声を出さないだけに、怒りの度合いが、伝わる。
「しかし、のぉ……『救世主』様、『性欲処理』は……」
やっと、『声の出し方』を思い出したのか、発言できたゾフィー。
「黙れ。そして、出ていけ。僕が呼ぶまで、誰1人、僕の部屋に入るな。」
「き……『救世主』様。私をえら……。」
何とか、声を絞り出す幼馴染。
「だぁ……まぁ……れぇ……。」
「何故? ココニ来テ、オーラガ、上昇シテイル。……圧倒的圧力……無理……抗エナイ。」
「これ以上、続けるなら出て言ってもらう。止めるなら平伏せ。僕が、居間から出るまでそうしてろ。」
全員平伏したのをみやると、居間を後にしたサマノ。
* * *
「酷イデス……怒ラレマシタァ……。」
ベソをかくポロポ。
居間の空気も先程とは、打って変わって、お通夜の如し。
「おかしい……何故……男子たる者、『性欲』を持て余しておると……言うにぃ……。」
「『救世主』様……『救世主』様……『救世主』様……『救世主』様……『救世主』様……。」
メイド達が、冷めたお茶をさり気なく交換していた。
「女伯ノセイデス。……夜伽ヲ言イ出シタノハ、女伯デスゥ……。」
「いやっかましい! その方も賛成したであろう。それより、幼馴染! お主! 『救世主』殿の性癖を、事前に警告せなんだ! 何故か!」
「7年前は、正常な男子だったわよ! わらわちゃんこそ、何で事前に調査しない訳!」
「以前も言うたぞ! 調べて何も出てこなんだと! それ故、お主にも意見を求めたのぢゃ!」
「見通シガ、甘イ。甘過ギデス!」
ここで、音を立てて『拳銃』を、テーブルの上に置くメイド-家政婦長-。
「?」
面食らった挙句、言葉を発する事も出来ない3人娘に、言い放つ家政婦長。
「これより、職務に励みます。ですが、これを成し遂げた時、必要かと思いました。念の為です。」
そう言って、テーブルの上に置いたモーゼルから、手を離す家政婦長。
そして、いつの間にか手にしていた可愛らしいハンマーで、3人娘の頭を殴打した。
「ピコッ」と言う音が、軽やかに流れる。
「何をするか! 無礼者!」
「声が、大きいですよ、お三方。『救世主』様が、お目覚めになられたら、またお叱りを、受けますね。」
またも、お通夜の様な、沈黙がのしかかる。どうやら、意味を悟ったらしい。
「今は、罵り合いより、今後打つべき手を検討するお時間です。」
「ツマリ、貴方ハ、主ノ不興ヲ買ウ前提デ、主ヲ諫メタ。ガ、腹ヲ立テタ主ガ、自分ヲ撃テル様、予メ拳銃ヲ置イタ訳デスネ。」
「はい、ポロポ様。」
家政婦長が、向き直った時、そこには、いつの間にか、テーブルの上にあった銃を、手にしたポロポがいた。
しかも、家政婦長の眉間に、ピタリと銃口が向いていた。
「私ガ、代ワリニ撃チマショウカ。」
「…………………………………………………………………………………………どうぞ。」
用心金に通した人差し指で、くるりと拳銃を回して、銃把を家政婦長に向けたポロポ。
「オ返シシマス。『救世主』様ガ、銃声デ目覚メテハ、無意味デスカラ。」
「……どうも。」
手並みが、鮮やか過ぎて、拳銃を何処にしまったのやらの家政婦長だった。
「まったく、冷や冷やさせおって……。」
「ほんと。」
ここで、スマホの着信音が、鳴った。
「失敬。」
家政婦長からスマホを受け取るゾフィー。暫し、スマホ越しの会話。そして……
「皆の衆、よぉ、聞いて欲しい。……例の件、つつがなく済んだぞ。」
スマホの通話を切った後の一言に、安堵した一同だった。……
* * *




