第12話
翌日、平常通り登校したサマノを出迎えたのは、担任だった。
「おはよう、サマノ君。早速で悪いけど、ついて来て。」
就活生向けの地味な背広、瓶底眼鏡、小柄で年齢不詳の女教師、彼女こそが、担任だ。
「はい、本宮先生。今日の朝礼に間に合うなら。」
「大丈夫よ。着いてきなさい。」
2人は、連れ立って歩く。暫し、足音のみを供として進む。そして、目的地に着いた。
「校長室ですか。」
「本宮です。お連れしました。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
校長室に入るのは、サマノ1人。
「では、私は失礼します。」
立ち去る本宮先生。そして、サマノの予想通りの光景が、広がっていた。
「校長室で校長先生の席に、高級背広を着た設樂の狸の置物が、鎮座している。だが、疑問に思うことは無い。あの設樂の狸にしか見えないあれこそが、校長先生なのだから。」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
「さあ。かけたまえ、サマノ君。」
「はい、失礼します。時に、校長先生。今日は、何の御用で。」
とっさに、タ……もとい、校長先生は、側の教頭先生とアイ・コンタクトをした。
「待ちたまえ、まだ全員揃って無いからな。」
「そうですか。それで、校長先生……。」
とりあえず、来客用のソファーに座るサマノ。
「で、何時頃、全員揃うのでしょうか。」
「Excuse me。」
教頭が、何か察したらしく、扉まで移動すると、開けて招き入れる。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
新たに、入室し、お茶を持って来たヘレン副担任に、お礼を言うサマノ。
「彼は、時間に正確だ。もう少し待って下さい。サマノ君。」
「では、仰る通り。」
ややあって、やっと役者が揃った。それは、黒田弁護士と、背広姿の初老紳士だった。
丁寧ながら挨拶もそこそこに、本題を切り出す黒田弁護士。
「本日の用件は、2つです。1つ、私の依頼人、サマノ様の保護者様が、他界しました。そこで、遺言に従い私が後見人となりました。そこで、学校側の登録情報を変更して頂きたい。」
「はい、保護者様の登録情報変更ですね。こちらの書類に記入、署名捺印と、身分証のコピー、後見人の証明書が、必要になります。どうぞ、お納めください。」
教頭先生が、クリアファイルに収められた書類の束を渡す。その内容を確認する黒田弁護士。
「はい、確かに。では、2つ目の前に、紹介します。東京都教育委員、松永様です。本日は、証人として、同席して頂いております。」
改めて挨拶する松永。
「では、2つ、サマノ様が、イジメに遭っていた事は、分かっています。学校側は、如何なる対応をするのか、今ここでご説明お願い致します。」
動転するあまり言葉にならないタ……もとい、校長先生に代わって発言する教頭先生。
「証拠は、ございますか?」
そう言う教頭先生に、DISKを差し出したのはサマノだった。それを、校長のPCで、再生してがら、口をはさむ黒田弁護士。
「それは、被害者が、イジメ事件の最中に録音した物です。問題ありませんね。」
「……で、では、事実関係の究明と、加害者の適切な処罰、再発防止に努めます。……そこで、1つ宜しいでしょうか。」
慌てて、事態をまとめにかかる教頭先生。
「何か?」
「ここに、本人がいます。今ここで、話しを聞いても、宜しいでしょうか。」
「勿論、問題ない。昨晩、黒田先生からこの事を知らされていたからな。」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
そして、その代わりに、昨日の様な『かつあげ』等、イジメの内容と期間、知る限りの加害者の名前を、明かすサマノ。
「よく、話してくれた。私は、善い教え子に恵まれた。ありがとう。」
タ……もとい、校長先生の、おべんちゃらは、BGM代わりに、聞き流されていた。
「私の用件は、以上です。本日は、お時間を頂き、ありがとうございました。」
黒田弁護士の挨拶に、負けず劣らず丁寧な態度で臨むタ……もとい、校長、教頭先生だった。
「こちらこそ、お越しいただき、恐縮です。」
「では、私は、失礼します。」
最後に、サマノにも挨拶して立ち去る黒田弁護士、松永だった。
「とは言え、不可解もある。何故、大事な話しを、朝礼前の慌ただしい時刻に行ったのかだ。放課後では、いけないのか。僕の予想通りなら……」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
「では、サマノ君。教室まで、案内します。Let’s guid。」
今まで、無言だったヘレン先生から、話しかけられた。
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