第1話
「この動画を視聴している君、今、この時、私は既にこの世にいない。そして、この動画を視聴する者は、我が息子のみである。そう願う。」
父さん……
* * *
話は、今日の昼休みに遡る。場所は、校舎裏だ。
「おう! セージカみてぇな、ナマエしやがって。ナマイキなんだよぉっ!」
校舎裏で、チンピラ風の上級生から、カツアゲ被害に遭う男子生徒がいた。
「ぼ……僕は、コウノじゃなくて、サマノ。それと、く……くるしぃ……。」
等と言う無駄口を叩かない男子生徒……サマノだった。
「ああぁ~。ダマってねぇで、ダすもんさっさと、ダせや。ゴルァッ!」
「……無い……です。……お金なんて……も、持って無いん……です……。」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
「あぁ! まだダさねぇってかよぉっ! ピョンピョンしろや。ゴルァッ!」
「……む、無茶だ……無理だ……無駄だぁ……。」
等と言う無駄口を叩かないサマノだった。
「……!」
だが、急にサマノの胸倉を掴む力が、消失した。カツアゲ犯は、その場に崩れ落ち、苦悶の貌色を浮かべ、両手で股間を抑えていた。
気付けば、そこかしこ同様に、倒れるカツアゲ犯共。
「メイド……。」
などと言う見たままに過ぎない情報を、敢えて口にする事も無いサマノだった。
そして、その場に登場したのは、規格外の双丘を有する美少女達、3人だった。
その様、かしずくメイド達の列を、切り裂くが如し。
「久しぶり。」
長い黒髪の日本人。
「お初のお目見えぢゃな。」
縦ロール、金髪碧眼の白人。
「初メマシテ。」
チョコレート色の肌に、ドレッド・ヘアで、とても小柄だった。
「久しぶり、みぃちゃん、7年ぶりか。」
社交辞令だが、筋は通す男、サマノ。
「ふむ、旧交を温めるのも結構。ぢゃが、優先順位は、守らねば、のぉ。」
「同感……デス。事前ノ……取リ決メ……守ッテ。」
「優先順位と言うなら、僕には、午後の授業がある。それが、最優先だ。」
そう言い置いて、この場を立ち去ろうとするサマノだった。が……
「待って、午後の授業なら、自習になりましたよ。」
しかし、まわりこまれてしまった。
「今更、昭和のテレビゲームかよ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「うむ、そうぢゃ。手はず通り説明してたもう。」
いつの間には、スマホで誰かと会話していた。
「どうぞ。」
縦ロールから、受け取られたスマホを、差し出すメイドだった。
無論素手ではない。銀盆の上、ビロードの敷布に乗せられていた。
「もしもし。」
そして、スマホ越しに、担任教師と会話し、午後の授業が、全て自習になり、ホームルームも中止になった、そう聞かされるサマノ。
「ありがとう。」
話が、終わったので、スマホの通話を切って、返却するサマノ。
「そう言う事なら、僕は、鞄を取りに戻る。じゃ。」
そう言い置いて、この場を立ち去ろうとするサマノだった。が……
半開きにした扇を閉ざす音が響いた。
「どうぞ。」
メイドが、差し出した自身の鞄を受け取るサマノ。
「では、出発しましょう。」
「僕は、帰宅する。」
鞄の中身を確認し終えたサマノ。
「いえ、おじ様が、呼んでいます。」
「そうか……父さんが。」
「そうぢゃ、わらわ達が、案内するぞ。」
「私モ一緒ニ行キマス。」
「仕方ない。父さんが、待ってる場所に行くさ。」
こうして、出発するサマノだった。
* * *