雨夜の番
天気さえ崩れなければ今頃街で依頼の報酬を頂いて酒でも飲んで気持ちよく寝てるんだろうな。
そんな事を考えながら山小屋と呼ぶにはあまりに簡素な小屋の中から顔だけ出して外を覗き見る。
野営をする場合、不寝番は大抵僕の仕事だ。
この日、受注していた仕事を終え帰路に着いた昼下がりに雨はぽつぽつと降り始めた。
仲間の1人、「お嬢様」は街まで強行軍してでも帰るのだと主張していたが、この小屋に着く頃には天候は土砂降りとなり誰からともなく皆我先にと小屋に飛び込んだのだ。
雨足は弱まるどころか仲間が寝静まった今も依然強まっている気さえする。
「この雨の中、襲ってくる奴もいないだろ」
そう呟くと視線を小屋の中へ向け、一つしかない椅子に座り火のついた蝋燭を川の字で寝ている仲間達から隠すように自分の足元に置く。
外の兆候に聞き耳を立てつつ目を瞑っておこうと外套を羽織り直した矢先、寝ていたはずの3人組の1人が僕を呼んだ。
「ロクさん?ねぇ?」
利口そうで冷たくどことなく幼い声。
仲間で1番年少の「教授」の声だ。
どうした、と小声で返事をする。
「さむいなぁ」
一言だけか、と半ば呆れつつ目を凝らして彼女の方を見ると確かに小刻みに震えているのが見えた。
僕は羽織り直したばかりの外套を脱ぐと忍び足で寝床に近づき教授の上にかけてやる。
彼女は短くお礼を言うと外套と毛布の中に潜り込んで見えなくなった。
教授以外の旅慣れた「お嬢様」と「リーダー」の2人はたくましいもので薄い毛布1枚ですやすやと寝ている。
僕は肌寒さを覚えながら椅子に戻ると蝋燭の火を見つめて何故こうなったのかを思い出していた。