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空白の時間。


 ボーリングの休憩がてらトイレに行った帰り。自動販売機の前に立つ初音を見かけた。


 飲み物を物色する金髪美少女の姿はそれだけでなんだか様になっている気がする。


 初音も俺に気づくと、こちらを流し見ながら声をかけてきた。


「あんたも何か飲む?」


「奢ってくれんの?」


「もちろん身体でお支払いいただきま〜す」


「なんじゃそりゃ……いいよ自分で買うから」


 俺は初音から視線を逸らしつつ言う。

 

 今日の初音はなかなかに露出が多い。ショートパンツからは太ももなんかが丸見えだ。


 だからというわけではないが、そういう発言は是非とも控えていただきたい……。


「うそうそ。ほら、これあげる」


 初音は俺に向かって持っていたコーヒーの缶を投げる。


 俺はそれを両手でキャッチした。


「……さんきゅ」


「翔太との勝負に惨敗した哀れな陰キャくんへのお恵みだよ」

 

「聞いてたのかよ……」


「翔太が言ってた。楽しみだって」


 もう一本コーヒーを買った初音は自販機の横にしゃがんで、ちびちびとそれを飲み始める。


 俺はその隣に並んで、同じようにコーヒーを煽った。


「結果は勝負にならないレベルの惨敗だけどな」


「ほんとそれ。ウケる」


「うっせ」


「いやだって、あんたと結愛ちゃん下手すぎ。マジウケる」


 初音は俺と美咲の様子を思い出したのか、「にひひ」と顔を綻ばせて笑う。


「初心者なんだからしょうがねえだろ。見てないで教えろよ」


「え〜。だって割り込める空気じゃなかったし。2人の世界作っちゃってさ」


「……そうか?」


「そうだよ。……まあ、それでいいんじゃん?」


「なにが?」


「あんたと結愛ちゃんはそれでいいんじゃないってこと。2人で楽しめることを、全力で楽しめばいいんじゃん? 肩肘張らずにさ。さっき、いい雰囲気だったよ?」


 初音は語りかけるようにこちらを見上げる。


 たしかに、今日のデート開始時に比べれば緊張もなく2人で楽しめていた気がする。


 しかしそれを見ていた初音に言われるのはなかなかに恥ずかしい。


 俺は居た堪れなくなって話題を変える。


「ってか、おまえだって仲良さそうじゃねえかよ。あいつ、長谷川はせがわと」


「翔太? ……おお? なに? 嫉妬?」


 初音はまた表情をころっと変えて、にや〜っといやらしい目つきで言う。


「ちっげえよ! ただなんか、腐れ縁とか言ってただろ」


「にひひ。まあそうだね。中学からはずっとつるんでるかも」


「付き合ってんのか?」


「さあ? どうだろ」


「……ふーん」


 やはり初音は彼氏だとか、ビッチだとか。そういう話はとことんはぐらかし続ける腹づもりらしい。


 俺が初音とよく一緒にいたのは小学までだ。つまりは、中学から今日までの初音を俺は知らない。


 そこには空白の時間が横たわっている。


 まるで俺と入れ替わるかのように、長谷川は初音の隣にいたのだろうか?


 もしかしたら。俺が初音と疎遠にならなければ。もっとはやく長谷川と出会っていた可能性だってあるのだろうか。


 なんとなくだが、長谷川翔太という人間とは因縁めいたものを感じる。


 いや、イケメンが気に入らないだけかもしれないが。


「どしたん?」


「いんや、なんでも」


 くだらない思索に耽っていると、コーヒーを飲み終わった初音が少し心配そうにこちらを見ていた。


「……やっぱり嫉妬? 直哉なおやってば実はあたしのこと好き?」


「だからちげえっつの!」


「にっひひ。まあいいけど。そろそろ行こ?」


 初音は空になった缶を捨てると、俺に背を向け歩き出す。


 俺もまた、缶を捨てて幼馴染の後を追ったのだった。


更新、忘れてた(ごめんなさい

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