へっぽこカップル。
ボーリング場へ着くと、長谷川は俺に言った。
「桜井、僕と勝負をしないか?」
「はあ?」
「このボーリングで、だよ。負けた方がここの代金を受け持つ。どうだい?」
「いや勝負をする意味がわからんのだが」
「僕がキミと勝負をしたいから。それじゃダメかな?」
「俺はおまえと勝負とかしたくないし」
「あれ? さっきあれだけイケメンを嫌うようなことを言っておいて、いざ勝負となったら逃げるのかい? それはあまりに情けないんじゃないか? 陰キャのボッチくん?」
「っ……。おまえなぁ。わかった。やるぞ、勝負。あとで吠え面かくなよ」
「……ありがとう。安い挑発に乗ってくれて」
「ちっ」
すべてを見通したように優しく微笑む長谷川に、わずかな苛立ちを感じた。
————僕はね、キミに興味があるんだ。
長谷川はここへ来る途中で、俺にそう零した。
その言葉が、妙に頭の片隅に残っている。
何を考えているのかわからない。それが気になってしまう。
それはきっと、俺もまた長谷川翔太という人間に興味を抱いていたから。
イケメンで、リア充で、陽キャ。
俺とは全く違う人間。
全く違う人生を歩んできた人間。
安っぽく言うなら、陰と陽。コインの裏表。
そんな長谷川が持っていて、俺が持っていないもの。俺はそれを見極めたいのだ。
そしてそれはもしかしたら、長谷川も同じように思っているのかもしれない。
俺という陰キャボッチは、美咲結愛の彼氏として、初音可憐はつねかれんの幼馴染として、突然長谷川の世界に現れた。
今までは教室の隅にいた、気に留めることもない存在だったのに。
それは一体、長谷川にどんな感情を生んだのだろうか。
長谷川の笑みの裏側までは、俺には読めない。
だけどお互いに興味があるのなら、関わり合うのもやぶさかではないと、そう思う。
あと単純に、やっぱイケメンには負けたくねえ!
挑発に乗ったわけじゃないけど!
あの笑みを引きつらせてやりたいのだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ぬあぁぁなんでまたガターなんだあぁぁあ!?」
「あー! せんぱいっ、私の球途中で止まっちゃったんですけどっ!」
数十分後。ボーリング場はまさに阿鼻叫喚であった。
————主に俺と美咲の叫び声で。
何を隠そう、俺はボーリングなどやったことがない。それは美咲も同じだったらしい。
長谷川との勝負を受けた以上、自信満々に始めた俺であったが、これが中々難しい。
おかしいな、フォームは完璧のはずなのに……。
ガターの連発である。
逆に美咲は魂の両手投げだ。
コロコロとゆっくり転がる球はレーンの途中で止まることもしばしば。
ピンまでたどり着いたとしてもその球にチカラは残っていない。
逆に初音と長谷川は上手いもので、ストライクを連発していた。
これがリア充のパワーだとでもいうのだろうか。
これが実質陰キャカップルである俺たちの敗北だとでもいうのだろうか。
俺と美咲のへっぽこカップルはわーきゃー叫びながら最下位争いをしていた。
まあ、これはこれで楽しい。美咲とも話せているし。美咲とだから、楽しい。
勝負なんてもう知らん。
俺はガターを乗り越えるんだ。
「よっしゃもう一発! おらぁ!!」
「ちょっとせんぱいっ!? 他のレーンに球飛んでってますよ!?」
「なぜだぁ……!」
両手をついて途方に暮れる俺。
横のレーンでは俺の球による華麗な妨害も物ともせず、長谷川がストライクを獲得していた。
そんな長谷川は意気揚々と席へ戻ると、それを迎える初音と勢いよくハイタッチ。
小気味良い音があたりに響いた。
いいなぁ……仲良さそうだなぁ……俺も美咲と喜びあいたいなぁ。
そんなことを思っていると、続いて美咲が神妙な顔つきでレーンに立つ。
それからそーっと、水辺に小瓶でも流すかのように、球を投げた。
その球はコロコロとゆっくり、ゆっくりレーンを転がる。
数秒の沈黙。
そして遂に、美咲の投げた球は数本のピンを倒すことに成功した。
それを見た美咲が感極まったように、ぴょんとその場で跳ねる。
「やった! やりましたよっ、せんぱい! ちょびっとですけど、倒れました!」
「おお! すげえ、やったな!」
「はい!」
美咲は嬉しそうに俺の元へ駆け寄ってくる。
それを俺は片手を挙げて迎えた。
美咲もそれを見て、少し恥ずかしそうに片手をあげる。
それから、「ぺちっ」と微かな音が響いた。
俺たちは小さく小さく、でも確かに互いの手を合わせて、ハイタッチをしたのだった。
「えへへ」と美咲がはにかむように笑う。
あんまりいい音はしなかったけど、なんだかそのハイタッチはとても心地よかった。
しかしそれと同時に、微笑しげにこちらを見つめる長谷川に、また少しムカついた。
次勝負することがあったら絶対負けない。そう固く心に誓ったのであった。




