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幼馴染の腐れ縁。


「てことで、全員そろったね」


 

 ラフなカットソーとショートパンツに身を包んだ初音は俺たちを見渡して言う。


 本日のダブルデートのメンバー、俺と美咲、初音、それから怖いお兄さん改め優男である。


「自己紹介が必要なのはっと……こいつだけだよね」


 初音はそう言うと優男を指さした。


「こいつはあたしの友達? っていうか腐れ縁みたいなやつで、えーと、まあ人畜無害だから安心して」


「ちょっと可憐。雑すぎでしょ、僕の紹介」


「そ?」


 初音の紹介に対して優男が意を唱えると初音は「じゃあ後はご勝手に」といった感じで身を引いた。


 それから長谷川はにっこりと爽やかな笑みを浮かべると改めて自己紹介を始める。


「僕は長谷川翔太(はせがわしょうた)。2人と同じ学園の3年だよ。桜井は同じクラスだから知ってるよね。美咲ちゃんとは今まであまり関わりがなかったけど、よろしく」


 長谷川は爽やかスマイルを保ったまま、右手を差し出してくる。


 イケメンのスマイルに負けた俺は大人しく手を差し出し、軽く握手をした。


 というか、同じクラスだなんて初耳です、はい。おそらくは初音のリア充グループのひとりということだろう。知らないが。


 続いて長谷川は美咲にも手を差し出すが、美咲はさっと俺の後ろに隠れた。


「あれ、嫌われちゃったかな?」


「い、いえその……よろしくお願いします……」


 美咲は俺の背中に軽く体重を乗せたまま、小さな声でモゴモゴと言う。

 

 絶賛、人見知り発動中らしい。


 プラスして、イケメンへの拒絶反応も出ていると見える。


 男に近寄られるのはもう散々だって言ってたもんなぁ……。


「あー、普段の美咲は初めて会うやつにはこんな感じなんだ。そのうち慣れると思うから気にしないでくれ」


「そうなんだ? あの昼休みとは随分違うんだね」


「そ、それはもう言わないでくださいっ」


「なるほど。あのときは美咲ちゃんも必死だったわけか」


 美咲が言うと長谷川は少し含みのある笑いを見せながらも、大人しく引き下がった。


 たしかに、あの昼休みに美咲へ突っかかったやつなんかに比べれば人畜無害そうではあるな。


 それにしても、人見知りが発動している美咲を見るとバイトを始めた頃を思い出すなと、少し思った。


「自己紹介終わったー? それじゃ行くよ〜」


 自己紹介中はひとり無関心そうにスマホを弄っていた初音が俺たちの様子を見て言う。


「いや、そもそもどこ行く知らないんだが」


「え〜? 言ってなかったっけ?」


「可憐はいつも説明が足りてないって僕も思うよ」



 俺と長谷川の追及に初音は「にひひ」と笑うと、本日最初の目的地を元気よく口にする。



「まずはボーリングに決まってんじゃん!」



 その時、俺は理解した。


 晴れやかな、雲ひとつない青空のような笑顔を浮かべる初音を見て理解した。


 あ、こいつマジで遊びたいだけだわ、と。


 女の子をお持ち帰りできるデートプランとか、口から出任せだわ、と。


 疎遠になった幼馴染でも、表情でそれくらいはわかるらしい。


 しかし、他に目的地の当てが俺にあるはずもなく。長谷川も初音の意見に逆らう気はそうそうないらしい。


 先導する初音について、俺たちはボーリング場へ向かったのだった。




✳︎ ✳︎ ✳︎




「で、なぜこうなった……」


「ん? 何がだい?」


「この状況のすべてだ」


「この状況って……僕らの前を可憐と美咲ちゃんが歩いていて、僕らが隣り合って歩いていることかい?」


 屈託のない顔で言う長谷川。


 そう、ボーリング場へ向かっている俺たちなのだが。


 なぜかどうしてか。


 初音は美咲の手を引いて歩き出した。今は隣り合って何やら楽しそうに話しながら歩いている。


 和解したとはいえ、あいつら仲良かったのか?


 俺の知らない交流が2人にはあるらしい。


 雰囲気の違う2人の並んで歩く姿はなかなかに異様で、その上2人とも違ったタイプの美人であるからかなりの注目を集めていた。


「美咲を取られた……」


「ははっ。まあまあ、しばらくは僕で我慢してよ」


「ふざけんな。イケメンはお呼びじゃねえ」


「辛辣だなぁ、初めて話すっていうのに」


「イケメンには何を言ってもいいって親父が言ってたんだよ」


「なかなかに捻くれていそうなご家庭だね……」


 さすがに苦笑いの長谷川。


 ふっ。イケメンスマイル敗れたり。


「ったく初音は何を考えてるんだか……」


「さあ? 可憐のことは僕も未だに分からないことだらけだよ。キミの方がわかるんじゃないのかい? 幼馴染なんだろ?」


「知らねぇよ。幼馴染なんて、そんなん昔の話だし」


「そうかい? それにしては、可憐はキミのことを気にかけているように見えるけどね」


「はあ? 初音が? ってかおまえはいいのかよ、初音と話せなくて」


 俺が刺々しくそう言うと、長谷川は「いいんだよ」と少し遠くを見るように笑う。


 それから俺の方をさっきまでよりも幾分か引き締まった表情で見ると、言った。



「僕はね、キミに興味があるんだ」

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