幼馴染の誘い。
休み時間。
前の席の女子がそさくさと席を去る。
すると直後、その席にどかっと金髪の女子が横向きに腰掛けた。視界が一瞬、金色に染まる。
それから金髪の女子は後ろにいる俺の机に片肘をついて、にひっと少し妖艶に笑った。
着崩された制服。それによってちらりと見えそうな胸の谷間。
短めのスカートからは健康的な太ももがのぞく。
耳には煌びやかなピアス。指にはネイル。
一目でギャルとわかる風貌。ビッチ感。
だけどそれと同時に、人目を引くレベルの美人であるということもわかる。
そんな生徒はこの学園で1人しかいない。
そう、俺の幼馴染、初音可憐であった。
教室の視線がこちらへ一気に集まる。
当然だ。なんせ彼女はこの学園のカーストトップ。学園のマドンナ。
それに対して俺は陰キャのボッチ。
最近では「学園一の美少女」美咲結愛の彼氏であるということも認識されている。
そんな2人の邂逅。
俺たちの幼馴染という関係を知らなければ、これほど異様な光景はないだろう。
「おい教室だぞ」
今まで、初音とこの学園の教室で話したことなんてほとんどない。
お互いに、学園における立場をわきまえているからだ。
「いいじゃん。めんどくさくなっちゃってさ。色々気にすんの」
「は?」
「結愛ちゃんを見習おうってこと」
「はあ……」
初音の曖昧な答えに俺の頭は疑問符ばかりが浮かぶ。
リア充の美女が陰キャに話しかけてきて、後で面倒を被こうむるのはいつも俺たち陰キャって決まってんやぞぉ!?
あとでリア充男子どもからリンチにされるんだぁ……。
しかしそんな俺の嘆きは初音に届くはずもなく、話は続く。
「でさでさ、今度の週末なんだけど。遊び行こうよ」
「はあ? 俺が? 初音と?」
「そそ」
「なぜに」
男ならそこら辺にいくらでも転がってるじゃん……。
てかぐいっと身体を寄せてくるな。胸元とかめっちゃ危ういから!
そう思うが、初音はあっけらかんとした顔で言う。
「そんなんあたしが直哉と遊びたいからに決まってんじゃん」
「遊ぶっつーけど俺なんかとどこで何すんだよ……」
子供の頃は一緒にゲームをやったりしたような覚えもあるが、それも今は昔というやつである。
初音のようなリア充が何をして遊ぶかなんて、俺にはさっぱりだ。
「んー。ラブホとか? 行っちゃう?」
「ぶふっ!? お、おま、いきなり何言っちゃってんの!?」
「だから、ラブホ?」
「もう一回言えなんて言ってねえよ! それに行くわけねえ!」
「え〜。いいじゃん一回くらい。安くしとくよ? ね?」
「しかも金とんのかよ!?」
「当たり前じゃん。セフレになってくれるなら別だけどね」
ぺろっと舌を出して笑う初音。
それを見て話にならないと思った俺は席を立つ。
「あーはいはい。この話もう終わりー。俺トイレ行ってくるから」
しかし初音は逃さないとでも言うように俺の袖を掴んだ。
「ちょ、待って。待ってったらっ。今のは冗談。冗談だからっ」
「……ったく」
すがり付く初音に応じて、俺は持ち上げた腰を椅子に下ろす。
いや、今の行動ひとつでクラス全体が俺の敵になりそうな雰囲気を醸し出してたし。
「何おまえ初音さん無視してトイレ行こうしてんの? あ?」みたいな。
俺の選択肢とかないやん。
カーストには従順に生きなくては。
「……で、何だよ?」
「やっぱ直哉なおややさしー」
「はいはいそういうのもいいから」
にひ〜っと笑う初音を、俺はしっしと手で払う。いきなり昔を思い出すような笑顔を見せないでほしい。
俺は初音に質問の答えを促す。
「で、結局なに?」
「ん? 遊びに行こうっていうのはほんとだし」
「あ?」
「もちろん、結愛ちゃんも一緒に」
「なに? 俺と美咲とおまえで? 出かけんの?」
何その地獄みたいな光景。
全力で拒否したい。てか美咲と2人でデートしたい。
「にひ。あんたを結愛ちゃんと取り合うのも楽しそうだけどね〜。それはまた今度で」
「じゃあどういうことなんだ?」
「あたしもひとり適当な男連れて行くからさ。ダブルデートといこうよ」
初音はコロッとした顔で、平然とそう言った。適当な男て。やっぱビッチじゃん。
てか怖いお兄さん連れて来られても困るんだけど……。
「あんたのことだからどうせデートのことなんて分かんないでしょ? だからあたしが女の子をお持ち帰りするためのデートプラン、教えてあげるよ♡」
こうして、俺と美咲、初音、そして怖いお兄さん(想像)のダブルデートが催されることが決定してしまった。
今までの俺ならおそらく断っていただろう。
しかし変わらなければと思う俺が確かにいて。
それはリア充のパリピとかになりたいということでは決してないとは思うけれど。
でも、何もかもを見ることもせず否定するのはやめたいのだ。
ボッチが良いものなら、リア充にも良さはあるはずだ。
だからこんな、リア充的イベントもこなしてみせよう。
断じて、女の子(美咲)をお持ち帰りできるデートプランとやらに惹かれたわけではない。
そもそもダブルデートでそんな状況になったら困るわ。




