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交際一日目・朝


 ピンポーン。


 一軒家にインターホンの音が響き渡る。


 誰か出るだろ、と思ったがすでに両親は家を後にしているらしい。


 俺・桜井直哉(さくらいなおや)の朝はいつもそんな感じだ。両親の朝は早く、ほんとんど顔を合わせることもない。


 まったく、朝っぱらから誰が何の用だというのか。


 微睡む頭を少しだけ苛つかせながらも俺は玄関の扉を開いた。



 すると、そこにいたのは————



「おはようございます、せんぱい♡」



 俺の先輩、もとい後輩で、学園一の美少女で、俺の恋人になった少女。


 美咲結愛(みさきゆあ)が満面の笑みを浮かべて、そこにいた。


 苛立ちは一瞬で吹き飛んだ。



「お、おはよう……って。え? なに? なんでいんの?」


「なんでって、彼女だからですよ?」



 動揺する俺に、きょとんとしながらも笑顔で答える美咲。


 なんだかその表情にドキッとした。


 あれ、なんだろ。こいつってこんなに可愛かったっけ。いや可愛いのは知っているけど。ここまでだったか?


 肩ほどまでに揃えられた、さらりと流れる綺麗な黒髪。くりんと大きな黒茶色の瞳。長いまつ毛。


 今日は学園の制服であるブレザーを着込んでいて、その上からでもほのかに伝わるスタイルの良さ。柔らかそうな胸の膨らみ。腰のくびれ。しなやかな足。


 そして袖口から覗かせるカーディガンがまた、彼女の可愛らしさを強調している。

 しかしそれでいてスカートの長さなんかには気を使っているようで、清楚な雰囲気も忘れていない。


 やばい。めちゃくちゃ可愛い。


 この子が恋人だと思うと、こんなに違うものなんだろうか。


 ボーッと美咲を見つめてしまっていた俺に、美咲がまた不思議そうに首を傾げながら声をかけてくる。


「せんぱい? おーい。どうしたんですか〜?」


「…………可愛い(ボソッ)」


「……ふぇ? せ、せんぱい? 今、可愛いって……? せんぱいが、私に可愛いって……」


 急に頬を真っ赤にして、両手で顔を覆う美咲。


 あ、顔が見えなくなってしまった……。


 てか俺、今なんて言った? 無意識に漏れてしまって思い出せない。


「せ、せんぱい? 恋人になったからっていきなりそんなことを言われるとですね、私もびっくりしちゃうというか、恥ずかしいというか……。い、いえ嬉しいんですよ? 嬉しいんですけど、まだ心の準備が出来ていないと言いますか……」


「お、おう……? そんなたいしたこと言ったか?」


 そう言う俺に、美咲はまたボンッと顔を赤くして、「せんぱいにとってはふつうのことなんだ……」とか言いながら俯いてしまった。


 俺、マジで何言ったんだ?


 分からないが、とりあえず話を進めることにする。


「うちに来たってことは学園に一緒に行こうってことだよな?」


「え? あ、はい。そうですけど……」


「そか。わざわざありがとな。急いで準備するから、ちょっと待っててくれ」


「ご、ごゆっくりどうぞ〜」


 俺が背を向けて玄関を後にすると、また美咲がボソボソと何か呟いていた気がするが、あまりよく聞き取れなかった。


 告白の時と同じように、また緊張していたんだろうなと思う。


 かくいう俺もかなり緊張というか、嬉しさというか、色んな感情が抑えられなくなりそうだった。


 朝から恋人と一緒に登校とか。どんなラブコメだ。


 まともな友人ひとりいなかったはずの俺に、どんなミラクルだというのか。


 幸せすぎるんじゃなかろうか。


「よし、行くか」


「はい。エスコート、よろしくお願いしますね。桜井せんぱい♪」


「いやいつも通ってる道だろうが」


「そうですけど〜、気分ですよ。気分」


 そんなこんなで、俺と美咲の交際一日目が始まった。

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