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趣味の共有。

「せんぱい、せんぱいは漫画やアニメが好きですよね?」


「ん? ああ、そうだな。他にもゲームとかラノベとか、好きだな」


 ある日の昼休み。美咲の何気ない質問からこの話は始まった。


「ふむふむ。そういうのって、私も読んだりできるんですか?」


「そりゃできるけど、……美咲は興味ないんじゃないのか?」


「せんぱいが好きだというものなら、とっても興味があります♪」


「お、おう……マジか」


「はい。それに私って元々無趣味なので。せんぱいと同じ趣味を持てたら楽しいかなぁって」



 花が咲くように笑う美咲。これが天使か。


 花が咲くように、という表現が似合いすぎる恋人だ。


 ところで俺という人間は陰キャでありボッチであり、当然のようにオタクである。


 しかしオタク趣味について、俺は誰かに無理やり勧めようとは思わない。そもそも勧める相手がいなかっただろう、とかは言うな。


 とにかく、興味がないと言っている人間に自分の趣味を押し付けることはしない。


 その押し付けは自分にとっても、相手にとっても何の利益も生まないからだ。


 しかし興味があると言ってもらえれば、それは純粋に嬉しい。


 それが可愛い可愛い恋人ともなれば、なおさらだった。



「せんぱい、私に漫画のこととか教えてくれますか……?」


「もちろん。例えば……っていやでも、ここで話すだけじゃなあ……」


 

 放課後、本屋にでも行って一緒に見てみるとか? 

 しかしハマるかどうかもわからないのにいきなり買わせるのは少々ハードルが高いだろうか。


 それなら————。


「せんぱい? どうかしました?」


「ああいや、その……」


 ひとつ思いついたことがあるのだが、言ってもいいものかどうか少し迷う。


 しかし言葉に詰まる俺を不思議そうに見つめる美咲に後押しされて、俺はその言葉を口にした。



「放課後、ウチくるか……?」


「はいもちろんっ! ……ってええ!?」



 こうして、家デートの予定が決まった。

 



✳︎✳︎ ✳︎




 放課後、平凡な一般家庭である我が家の前で俺の恋人、美咲結愛(みさきゆあ)は今までになく縮こまっていた。


「こ、ここここここここがせんぱいのおうち……」


「おい、ニワトリみたいになってんぞ」


「そ、そそそそそそそそんなことないですよ……!?」


「緊張しすぎだろ」


「だ、だって! 今からせんぱいの家にお邪魔するんですよ? せんぱいのご家族に何か失礼があったらと思うと私はもう〜〜っ」


「いやだから……」


「は! 何か手土産を買ってきた方が良かったでしょうか!? バナナは手土産に入りますか!?」


「入りません。ていうかいらないから。両親なんてまだ帰ってこないし」


「そ、そそそそうですよね。そうでしたよね。大丈夫。大丈夫。私はできる子かわいい子……」


 やべえよこの子、なんか呪文唱え始めたし……。自分で可愛いとか言うんじゃありません。可愛いけど。


「まあちょっと落ち着けよ」


「ふみゅぅ……」


 俺がぽんぽんと頭を撫でると、美咲は途端に静かになって気持ちよさそうに目を細める。


「もういいか?」


「もうちょっと。もうちょっと撫でてください」


「あいよ」


 それからしばらく撫でて、そろそろかなと思ったところで俺は美咲を促す。


「よし、行くぞ」


「はい! ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」


 いやそれ結婚の挨拶とかで言うやつだから……。

 そう思ったが、また美咲の精神状態がヤバいことになりそうだったので口には出さなかった。


 家デート兼、布教活動が始まる。


 俺だって彼女を家にあげるなんて初めてだ。顔には出していないだけで、きっと美咲といい勝負なくらいに緊張している。


 しかし、2回目のデートが家とは。

 いきなりレベル上がりすぎじゃないか?


 いや俺が提案したんだけどさ……。

 

お家デートへゴー!


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