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第5話:躍動の未元達


 ある5月の昼下がり、授業を遮るかの如く鳴り響いた携帯は有片真也の物だった。

担任に謝りながらも退室し即座に画面を開く。


表示された名前は『天堂天音』────真也にとって最大最悪のライバル。現状訳あって入院中である。


また嫌がらせだろうか、疑いつつも応じるしかない。



「もしもし、天音か? お前何たってこんなタイミングで────」

真也(アンタ)の都合なんてどうでもいいわよ!! それより学園(そっち)に異常は無いかしら!?』


電話越しに聞こえてくる荒い息遣い、何よりその言い回しは不穏さに溢れている。



「そっちに、って。何かあったのか!?」

『ええ、今しがた病室に変なのが来てね。急に襲われたのよ』


「ひとまずは無事、なんだな?」


天音(わたし)を何だと思ってるのよ? 変な呪文? みたいなの言われる前に壁にめり込ませてやったわ! そしたらスーッて消えて』


「チッ」


『舌打ちしたわね!? 今思いっきりチッって!?』



「────で? 何で俺に電話を?」


『真也? アンタも『未元』の上位なら、2日前に何か嫌な感じしなかった? こう、脳に響く何かの鳴き声みたいなの』



「…………お前も、なのか?」



『ええ。病室に来た奴だけど、そいつを見た時の感覚、全く同じなのよ』


「…………なぁ、そいつ、どんな見た目してた?」


『ええと。目測158.05cmで童顔の美少女。小悪魔系っぽくて────』


「服装は?」


『それがね? サイバネテックなボディースーツから伸びる脚が辛抱堪らな』



「……天音? もしかしてそいつ、体の周りに瑠璃色の正四面体とか浮いてなかったか?」



『…………いるのね? 学園(そこ)に』



「悪い、後で掛け直す」





「いやーおっかない彼女サンですねー?」


通話を切った真也の前に現れる1人の少女。

廊下に佇むその姿は天音の形容した通り、美しくも悪辣な違和感に溢れている。



「ただの腐れ縁だよ、あんな奴……さて? 君……いや、お前は何だ?」



真也の問い掛けに対し少女はスカートをたくし上げる様な動作で返す。

その余裕に満ちた口調と見下した様な態度、何を取っても昨晩に西川燐那から送られてきた情報と酷似していた。



「はい、私『電子の鳥』が端末、個体識別コード03。名を■■■■と申します! 以後お見知りおきを」


「■■■■? ────人間の発音じゃねぇのな?」


「それでも言えちゃうんですねー? さっすが一番厄介な防衛機構(システム)だけあります!」


「…………俺達が、邪魔な様だな?」


「はい! ですので、もしかしたら『有片し────』」



「させるかよ」



少女が何かを口走る、その瞬間を切り裂くようにして廊下に走る閃光。

次の瞬間には、真也の右手は少女の白い首筋に宛がわれ、左手はその腹部の内側へと続いている。

腹腔を貫く一撃を以て、【絶対刹那】────────小さな躯体から自由の一切を奪いつくし、真也は焦点の合わぬ眼へと告げた。



「多分、また会うだろうから言っとく。お前は、きっと俺達の誰にも勝てない、そんな気がしてならないんだ」



直後、真也は少女の喉を躊躇い無く握り潰した。

首と腹部から流れ出るそれは血に非ず。

粒子となって溶けていく少女の顔は、それでも尚悪戯な笑みを浮かべていたという。




「ん、もしもし? 天音か?」


『あら、生きてたのね? チッ』


「おい」


『あー、それどころじゃなかったわね。あの女の子、可愛いけど人間じゃないことは確実として? 今回は誰の管轄かしらね?』


「えっと、現状アイツと遭ったのが時間()空間(お前)、それから因果(燐那さん)か……」


『メンツ的には、そうね……現実改変、或いは世界線を曲げたいってとこかしら? 他に何か無いの? 真也(アンタ)よりかは使えそうな情報とか』


「まず、俺達が■■であることを知っていたこと。それから、ええと──────あれだ、確か自分のことを『電子の鳥』の端末とか何とか言ってて─────」


『─────『電子の』? 確かにそう言ったのね?』



「…………あの双子に連絡する。悪い天音! それじゃガッ○ム!」




 強引に通話を切り真也はすぐさま別の番号へとかけ直す。

宛先の名は『鳳蝶夜奈』────現異能対策委員会補佐自警団団長である。


万が一にでもあの呪文を言わせてしまったら。

最悪の事態を危惧しつつ携帯を耳に当てる。


『───只今電話に出られま』

「なッ!?」


録音データを流し始める画面にハッとする。

確かこの時間帯、汐ノ目学園の中等部では授業が終わっているはず。

そもそもカリキュラムが組まれていたかすらこの時期は怪しい。


ともなれば彼女が応答出来ないような状況が向こうには少なからず存在する。

一抹の不安が心臓の裏を撫でた瞬間だった。



「なら日奈は────いや、携帯持ち歩いてるようなタイプじゃないよなアイツ……!」



事実、妹の日奈に電話を掛けても返事が返ってくることは無い。

実際はその異常な仲の良さ故に姉妹で携帯を共有しているのだが、それを知ったところで連絡が通じる訳ではない。



夜奈の携帯、そして念の為自警団の固定ダイヤルに留守電を残し、真也は画面右上の時刻を確認する。



「15時39分……50倍速で……1分ちょい、か。上等だぜあの野郎……!!」



抜け出してきた授業への未練を振り払う真也。

腰のモーターを稼働させ加速された世界へと身を投じる。


目指すべきは中等部の校舎。

双子の無事を願いながらも、光の矢は廊下の果てへと消えていった。







「もしかしたらぁ? 『お2人の心臓は1秒後に止まってしまう』かもしれない!!」





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