最終話?:無敵なパピヨンハート!!
決戦を終えた直後、鳳蝶悠奈を構成していた粒子は再び分離し双子の姿を採っていた。
討伐対象である電子の鳥を倒したことで覚醒した【絶対磁極】は力のぶつけ先を失い、結果としてその容量を保つべく以前の休止状態に戻った、とM.E.T.I.Sは分析しているらしい。
また言葉が二重になっていたのは悠奈が夜奈と日奈、全ての自分を受け入れた証拠とも考えられる。
「まぁ何となくだけどね!」
3日に渡る検査を終えたM.E.T.I.Sはそう笑って国連宛ての報告書をタイプしていた。
結局のところ原理も真相も不明のまま、裏側の世界における神ですら未元の能力を解することは出来なかった。
ただその保有者達は決して無敵ではないこと、それでも尚理不尽に立ち向かうこと。
愛や信頼に翻弄されながらも限りある時間を生きる、ある意味では人間よりも人間らしい存在であること、それだけは確かだった。
何はともあれ、鳳蝶姉妹が帰還したことでIvisは再び足並みを揃え残された仕事をこなしていった。
行方を眩ませていたことに関しては自警団内からこれといった追及は無く(それはそれで危険だが)、裏で起こっていた事態については国連と汐ノ目機関を含む一部組織内でのみ共有されることになったという。
無論真実が誰かの口から語られることも無く、変わらない日常の中で少女達の戦いは続いていく。
「日常でいいの?」「現実がいいの!」
誰が言ったか、言葉の裏に隠された覚悟を、真実を知る者は少ない。
◇
「……夜奈ねえ、起きてる……?」
月明かりの射す天窓を見つめ日奈は不安げに呟いた。
寝返りを打つことはせず、ただポンとシャボンの様に言葉を放り、天井へ消えていくのを眺める。
長くも短い沈黙を少女はジッと待っていた。
「…………ええ。また眠れないの?」
数拍を置いて返ってきた言葉もまた、何かを含めるような曇り具合を感じさせる。
姉と妹、立場が逆だったなら先に話し掛けたのは夜奈の方だったかもしれない。
「うん。色々考えちゃって……」
無理もなかった。
この世に生を享けてからずっと一緒に育ってきた、そんな記憶が誰かによって捏造されたものだったら。
誰よりも大切な、愛おしい姉妹。その正体が他ならぬ自分自身だったら。
積み重なった何かが一挙に否定されたことで日奈の心には新たな不安が生じていた。
今後自分は今まで通りに姉妹と接し、また姉妹として接してもらえるだろうか。
姉妹として、生きていけるだろうか。
それは鳳蝶姉妹という存在そのもの、アイデンティティに深く根差した憂鬱であった。
「奇遇ね、私もよ……」
「夜奈ねえも……そうだよね……」
途切れ途切れの会話は既に必要性を失っていた。
考えることも感じることも同じ。それを1人と言わずして何と呼ぶべきか。
自分とは何か、考える程に姉妹との差異が、境界線が分からなくなり──────そして鳳蝶悠奈へと行き着く。
結局は、私は貴女じゃないか。そう思った瞬間に愛した人を否定してしまったのだと気付く。
存在証明を賭した堂々巡りは少女の心に暗雲を広げていた。
優しさと存在定義故に騙していた燐那や真也を今更責める気は無い。寧ろ恩しか無いのだから。
しかし、だとしても、行き場の無い苦痛ほど辛いものは無いと言える。
涙で霞む天井を尚も見つめ、日奈は嗚咽が聞こえないよう息を殺していた。
熱を帯びた脳漿はネガティブな思考を離さず、絶えず痛みと大差の無い問い掛けを送ってくる。
救われたい。答えが欲しい。
今までも会ったことがあるはずの葛藤が、その夜だけは特別に愛おしく思えた。
「───、───ッ……」
泣く鳴く、無言。
「……ッ、───。─────」
啼く哭く、沈黙。
隠せるはずの無い感情が少女を襲う。
そんな時、忘れ去られた音が戻ってきた。
救いを求めた意識が、必要としていた言葉を拾い上げる。
「────大丈夫。泣いてもいいの」
確かに彼女達は似通った思考の下似通った感じ方をしている。
しかし、それが個人と同義とは言えない。
何故ならば、『それぞれが違った答えを出せるから』。その一言に尽きる。
「あの時、燐那さん行ってたでしょう? 『全ての自分を信じてあげて』───あなたが日奈であっても、悠奈であっても、夜奈は全てのあなたが好きなの。だから、どうか忘れないで? 私達はもう孤独じゃないってこと……」
その言葉に日奈は寝返りを打つ。
目の前には自分とよく似た、好きな顔が1つ、温かな涙でシーツを濡らしていた。
「……ふふっ、私が泣いたら意味無いわよね……?」
「────夜奈ねえ……!」
衝動のままに顔を寄せ幼き肢体を抱きとめる。
暫くの間2人は小声で励まし合っていたが、やがて言葉すらいらなくなる。
今はただ互いの熱を、共に生きる幸せを感じていたかった。
涙が枯れる頃には悲愴な面持ちも消え、鏡合わせの寝顔が2つ、月明かりに照らされていた。
夜奈の出した答えが自分自身として出した意見なのか、それとも悠奈としての自己肯定なのか。今となって分かる術は無い。
しかし、それでも尚───2人が2人のまま救われるには充分な言葉だった。
「ありがとう……」
そんな寝言を誰が言ったのか、それすらも分からないままに夜は更けていく。
◇
『────まぁ、夜奈ちゃん達は納得してくれたみたいだけど』
「……そうですか。ご期待に沿えず申し訳ございません」
『別に、謝るとこじゃないわよ……』
「そうでしたか。てっきり世界の記憶操作が甘かったと指摘されたのかと」
『そんなワケ無いじゃない。頼んだの私だし……』
「左様ですか。では、報告内容をまとめると『天堂天音の復帰』、『電磁気の信徒の打倒』、『【絶対記録】の脆弱性』の計3点ですね。世界も世界の一部として記録しておきます」
『……やっぱ気にしてるでしょ?』
「……否定はしません。能力効果の把握は世界自身の秘匿、延いてはWDMOの業務にも関わってきますので」
『ふーん……必要最低限の仕事はこなしてる、ってワケねぇ……』
「…………それでは、これで失礼します」
『あ、最後にちょっといいかしら?』
「何でしょう、西川燐那?」
『他の未元について、国連と機関は何か把握してない?』
「いいえ、現地に有片政宗氏を派遣する予定とは聞いていますが。有片真也に聞くことをお勧めします」
それでは、と軽い挨拶を済ませ少女は通話を終えた。
携帯を握り締め念入りに通話記録を削除し、彼女は広大なラウンジを後にする。
ぼさぼさの銀髪を揺らし小さな数歩を踏み出した直後、ふと忙しなく行き交う施設職員を見渡した。
緑色の眼差しが不特定多数の横顔を撫でる。
「やはり人の多い所は不得手ですね……いえ、便利ではあるのですが」
────ジョン・ディクスン・カーではないですが、共通認識ほど曖昧なものはありませんし……。
そう呟いて、少女は同僚達の目の前を通りジュネーブの町へと繰り出す。
数多の認識を搔い潜り、この日も(おそらくは世界一鮮やかな)職務放棄を決める。
彼女の名は御記千世。
先の大戦によって生まれた最古参の『未元』であり、世界災害対策機構WDMOの職員であり────付け加えるなら、今になって思春期特有のサボり癖を発露させた1人の少女である。
◇
死者を蘇らせ、人の身に余る超常を繰り、時として世界の脅威をも打倒する。
未元の能力とは何たるか、明かされる日はそう遠くない。
◇あとがき◇
本日も御一読ありがとうございます。作者Aです。
連載再開から数週間、ようやく最終話を迎えることが出来ました。これも偏に読者の皆様のお陰です。改めまして感謝申し上げます。m(__)m
本作は文芸班としてでなく私個人が「こんなヤツ作りたいんだけど。いや作らせろ」というノリで執筆を開始したものです。結果として本編の補足や百合要素が入ったのは……まぁそういう事でしょう……。兎にも角にも、書いていてとても楽しい作品でした。
さて、話は変わりますが勘の良い方は何か違和感を感じたのではないでしょうか?
今回のタイトルの「?」、決して誤植やミスではありません。実は本編へと繋がる話を執筆していまして、来週の夕方に投稿させていただく予定です。パピヨンハートとしての投稿はそれでひと区切りとなります。是非チェックしていただければと思います。
それでは、またどこかでお会いしましょう!
作者A




