第2話:その名はIvis 後編
都立汐ノ目学園────の隣に位置する校舎にその初等部、中等部は在った。
都内某所に居を構えるこの6年+3年制の学び舎は、そこそこの敷地とそれなりに多くの生徒、数多の問題児を抱える、一昔風に屈指の普通校と言っても過言ではない。
そんな学校には勿論それなりに部活がある訳で、バスケやテニスといったメジャーなものから、果てはパンジャンドラムを眺める会といった魔境まである。
その内の一角、『オカルト研究クラブ』は今日も部室に揃って日和っていた。
◇
「……ねぇ? …………ねぇってば!? なんでこんなにダラダラ出来るのよ!?」
自慢の髪を振り乱して三浦焔華は叫んだ。
というのも彼女を除いて6畳程度の部室にいる他4人は椅子やら畳やらの上で見事なまでにまったりとしていた。
仮にもオカルト研究クラブと言うにはかけ離れた光景。
生粋のお嬢様気質である彼女がこうして嘆くのも無理はなかった。
「なんでって……僕はそういう能力ですし……」
茶髪の少年、日向太陽が申し訳なさそうに答える。
しかし名が体を表さんとばかりに全身で昼下がりの陽光を楽しんでいる為説得力は皆無であった。
「……ところで三浦先輩? 目赤いですけど大丈夫ですか?」
「生まれつきだっての!! もう5回は言ったわよ!?」
「落ち着いてくださいませ、焔華お嬢様。Ivisこそ本校防衛の要。来たるべき日に備え英気を養うのもまた得策かと」
そう言って自前のコタツから顔を出すのは三浦家に仕えるメイド、神田芽衣である。
焔華を支える身として堂々たるその物言いは頼もしさに溢れている。
しかし、彼女は今年で24歳。つまりは学園に忍び込んだ一般女性に過ぎない。
その事実を抜きにしても春先にコタツで蜜柑をキメている時点で説得力は太陽以下なのだが。
「で? なんでアンタは毎回いるのよ?」
「私の使命はお嬢様の護衛ですので。決してこの部室に自宅の様な安心感を覚えておりませんのであしからず」
「あら? 地縛霊みたいな言い訳ね?」
「それはそうとお嬢様、また一段とお腹がプニられましたね? まさかその手の殿方をブヒらせるお積もりですか? その場合薄い本も一緒に厚くなるかと」
「勝手に触るな駄メイド!! あと幼児体形はステータスだから!!」
「……ねぇ夜奈ねえ? 私は重くなってない?」「いいえ、日奈? それに、私はどんな貴方でも好きなのよ?」「夜奈ねえ…………!!」
古びたソファーに横たわる双子の姉妹、鳳蝶夜奈、そして日奈。
この2人こそが現オカルト研究クラブの団長、並びに副団長である。
いつものように焔華をなだめる姉妹だったが、それ以前に近い。
姉妹揃って距離感ゼロ、対する焔華を99%近く蚊帳の外にしてしまっている。
※尚説得力はマイナス53万と仮定する。
「よくもまぁ2人でイチャイチャイチャイチャお盛んに……っていうかアンタら仮にもIvisの団長でしょ!? この惨状を何とも思わないわけ!?」
「とは言われても、ねぇ?」「仕方ないわよ、忘れたのかしら三浦さん? 私たちはあくまで自警団。Itaf程能動的な組織じゃないもの。ねぇ日奈?」「ね、お姉ちゃん!」
「分かってるわよ! それにしたって……危機感も大事って話よ!」
煮え切らない表情でコタツに脚を収める焔華。
不貞腐れながら部屋の隅に視線を投げてしまう。
彼女の正義感も特殊なこの組織の中では空回る原因になってしまうのかもしれない。
彼女たち4人(+1人)の会話の通り、オカルト研究クラブとはただの隠れ蓑に過ぎない。
汐ノ目系列校が所在する汐ノ目の町─────この世のあらゆる超常や犯罪が集うこの町を防衛すべく学園は影の治安維持組織を設立した。
高等部に本部を構えるその名は異能対策委員会、通称Itaf───────多数の能力者を抱えるスペシャリスト集団である。
しかし、そんな彼らも超人ではあれど一介の人間、その手数には限界というものがある。
それに加えて2年前の2月、最盛期のItafを襲った実働班壊滅事件も重なり、今や秩序の担い手は減少しつつあった。
そこで設立を提言されたのが実力行使を旨としない次世代の防人達。
汐ノ目小中学校に集う彼らの名を『異能自警団』(Irregulars vigilantes)──────通称Ivisと言った。