第12.5話:太陽は量子猫の夢を見るか
『────こちらIvis、三浦焔華並びに神田芽衣。第二端末室に不審人物を発見、先日ウチの団長達が交戦したって奴に似てるわ。誰か加勢に────』
時は数分前に遡る。
世界をも揺るがす決戦の裏、つまりは現実の世界にて。
休日の中等部校舎、第三端末室に響いた無線を遮って嘲る者がいた。
「あらあらー? 第二に行った私も見つかってしまったようですねー? ならば、お仲間の要望に答えてあげたら如何です、日向太陽さん?」
侮蔑の混じる眼差しが少年を捉えている。
その人物は数日前にItaf会長から通達された、暫定称『ング・シュレディァ』という存在に酷似していた。
情報によれば彼女の能力は第五種、つまりは完全なる未知────そんな少女らしきものと対峙しながらも、Ivisが一角、日向太陽は冷静に状況を見つめ直す。
警戒レベルの引き上げに伴い校舎を見回っていた矢先、こうして件の元凶に遭遇したこと、そして連れ立っていたバディを瞬殺されたこと、いずれもが外れてほしかった想定である。
しかし、それ以上の事態、その到来を太陽は知ってしまっていた。
『────こちら第一端末室の小手川! 現在例の奴と交戦中! 誰か手の空いてるメンバー! いねぇのか────』
『────こちらIvis2班! 同じのが! 今それどころでは────』
『────ロレッタ! 時間を稼げ! このままだと────』
無線から続出する惑い叫ぶ声の群れ。
生まれては消えていく残響に太陽は戦慄を覚え、改めて眼前のそれが得体の知れぬ何かだと痛感する。
「この通り、あの男のお陰で私達も心置きなく“門”を開けるというものです!」
「……学園に、内通者がいるのか?」
「おっと失礼? また口が滑っちゃったようですねー? ところで! もしかしたら『あなたも1秒後に滑ってしまう』かもしれない!」
シュレディァが良い終えると同時、太陽はその体から重さが消えた様な感覚に襲われた。
大きく崩れた重心を立て直す間も無く、整列された端末を散らしながら背後の壁に叩きつけられる。
見えない力の前に為す術など在りはしない。
『言ったことは何でも出来る能力』。信じ難くも、有片真也の解析に間違いは無いらしい。
だから何人にもなれる。
パソコンから正体不明の穴を作れる。
そして何度倒しても復活する。
断たれつつある希望に追い打ちをかけるように、再びシュレディァは声を発しようとしている。
このまま見下されながら、一矢も報いること無く散り行くのか。
見下ろされながら一蹴される、太陽はその感覚をよく知っている。
かつて人の悪意に晒され、二度と外界に出まいと誓った自分。
けれど仲間に諭され、もう一度陽の光を求めた自分。
過去と決別する為ではない、それと向き合う為に自警団に入ったというのに。
嚙み締めた鉄の味が彼の背を押している。
胸中で沸き立つ感情を、仇敵への憎悪を、咄嗟にかざした右手に己の何もかもを詰め込んで─────その光は放たれた。
◇
熱量保存を無視した熱線は一射の矢が如く飛翔し着弾、シュレディァの胸から上を蒸発させる。
日向太陽の能力【太陽光線】。
蓄積した太陽光に依存するとだけあって屋内ではやはり威力が落ちてしまうのだろう。
飛散する光子の中ですぐさま再生を果たし、シュレディァは言の葉を紡ぎ終える。
「もしかしたら『太陽さんは1秒後に心臓発作で死んでしまう』かもしれない!!」
「…………?」
「…………あら?」
沈黙の最中、太陽は恐る恐る胸に手を当てる。
相も変らず鼓動は濁流の如く巡って、いっこうに止まること無く目前の死に怯えている。
「えっと、もしかしたら─────」
言い直そうとするシュレディァへすかさず第二射が放たれる。
ボッと空間を切り開いて、肉を引き千切って尚進む閃光。
この好機を逃すまいとその威力はより強く、腕の芯を引きずり出す様に、限界を超えた力を以て太陽は焼き払い続けた。
それは意識が遠のく程に─────
◇
力を使い果たし太陽は寝息を立てる。
そんな彼は未だ自分が成したことを知らない。
彼がシュレディァの内1人を完全燃焼させ勝利したこと。
シュレディァの能力が「何でも出来る」のではなく、「電子移動によって可能な限り出来る」ものだということ。
彼の【太陽光線】が光子、つまりは太陽風に近しいもので構成されていること。
そして、その能力が電子の鳥によって投影されたシュレディァにとってその全てを否定出来るものだということも。
彼の勝利が意味するもの。
それは他ならぬ希望を孕んで、来るべき時までその胎動を続けている。
急いで書いてたので若干雑になってしまったかもしれません。申し訳ないです......(-_-;)
時間がある時に改訂してるかも?




