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第11話:電子の鳥Ⅳ


 電脳の空を行く双子は互いに身を寄せ合い、心象に導かれるがまま磁気を収束させていく。

その背に形成された電子色の翅を以て、上へ。ひたすらに、彼方へ。

闇夜に切り取られた雷光が視界を照らす度、比翼の蝶は磁界に煽られながらも大きく羽ばたいていく。

右へ、左へ。目指すべき彼方へ。

雷撃に撃ち抜かれる毎に蒼銀の軌跡は太い尾を以て描かれ、それはやがて重力をも置き去りにして尚進む。


肢体に満ちるかつてないまでの力、能力の範疇からも逸脱した荷電子の翅──────本来ならば信じられず惑う程の奇跡も、身を重ねた姉妹となら、もう1人の自分となら不思議と必然に思えてしまう。


戦うべき相手、遂に邂逅した好敵手を前にして、2人の中に眠る【絶対磁極】(パピヨンハート)は今まさに覚醒の時を迎えようとしていた。





「────私達、元は1人だったんだよね……?」



猛禽の言葉無き怒号が、世界の悲鳴が木霊する、その只中にて。

妹のその問い掛けに瞠目する夜奈の姿があった。

一度は驚きながらも、我に返る頃には不思議と口角が上がってしまう。


自分が、自分だけが抱えていよう。

胸中に残った生前の残渣は、夜奈1人のものではなかった。

苦悩とばかりに閉じ込めていた矛盾(エラー)も、結局は妹という存在を留めておく為の願望(エゴ)でしかなく、守り抜いた幻想は今こうしてその妹によって塗り替えられてしまったのだから。


そんな事を考えていた自分がひどくちっぽけに思えて、夜奈は他でもない自らに微笑んでいた。


なぁんだ、と。



「────そっか……日奈も知ってたのね」


「うん。ごめんね、夜奈ねえが苦しんでたのに……」


「いいの、いいのよ? こんな感情、独り占めだなんてエゴもいいところだもの。それじゃあ、そろそろ行きましょ?」


「────うん……!」



 燐那からの出力支援を受ける最中、夜奈は空に座す電子の鳥を見つめていた。

仮に【絶対磁極】にあの鳥を打倒し得る効力があったとすれば、きっとその容量は宇宙規模、或いは概念属性並みとなるはずだ。

既に一度死んだことのある自分───鳳蝶悠奈(あげはゆな)が蘇生の際その容量を受け止める(ダウンロードする)為に別たれた存在が夜奈(じぶん)と日奈なのだとしたら。

きっと今の状態の更にその先、本来の【絶対磁極】にこそ攻略の糸口があるはず。


仮想の大地を離れるその瞬間まで、夜奈がその推理を日奈に明かすことはなかった。

自分達の本当の能力(ちから)───それが意味するものまでを考えていられる程彼女は器用で無いのだから。




「────次っ!! 右方2時の方向、電子流が向かってる!!」

「了解っ!! 右翼励起! 放電まで4、3、2────」


片翼を翻し雷撃の本流を回避しつつ、枝分かれた側撃雷を帯電させる。

世界を侵食出来るとだけあって電子の鳥による荷電粒子砲は人類のそれを遥かに凌駕する、この世ならざる機能と言っても過言ではない。


しかして、対するは『未元の能力』────同じく超常の類である。

容量(キャパシティ)すら対策が叶えば同類の能力は2人には効かない、それどころか推進力を与えることとなる。



頬を掠めた幾千条の光を過去にして、比翼の鳳蝶は遂に猛禽の眼前へと辿り着く。

眩き首をもたげるその姿は成鳥というにはどこか幼さが見え、同居する恐怖に空白を作ろうとしている。

されどそう思えたのも束の間、巨大な嘴が咆哮すると同時、M.E.T.I.Sが保持していたはずの裏世界の境界────時空の狭間と思しき闇から岩壁が砕けるが如き壊音が零れる。


撃ち落とせないならば直接押し潰す。そんな真意が双子の脳裏を過った。

何億光年という規模のAIがM.E.T.I.S以外の敵性体を感知し、頭脳(ほんたい)への受送信に裂いた時間を考えれば妥当と言えよう。


ともかくこれ以上の侵入を許すわけにはいかない。

地上にいるM.E.T.I.Sとその機能を補助している燐奈、この2人が死した時点で電子の鳥は現実世界への足掛かりを得てしまう。


「ねぇ夜奈ねえ? 師匠ならこーゆーとき、どうするのかな?」

「───あら? そんなの決まってるじゃない? まずは一言、自分に言い聞かせるの」

「それじゃあ、せーのっ────」



「「───させるかよっ!!」」



裂け目を行かんとする怪鳥はその光に目を細める。

辺り一帯の磁性をも塗り替えて、2身1対、鳳蝶が翅を震わせる。

姉妹の繋いだ手の内で、育まれるのは天上をも燃やす粒子の焔。

電磁気は今、重なり、混ざり、飽和し、暴れ──────そして、手の内を離れていく。


「これなるは────」



「「絶対磁極(パピヨンハート)超星断末(スクリーマー)!!」」



あらゆる機器をも侵し、文明を後退させ得る。

太陽風に匹敵するまでの電子の波濤は猛禽の首を飲み込み、全ては爆轟へと消えていく。



本日も読了ありがとうございました! 明日も可能であれば投稿させていただきます。 それではまた! 

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