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第10話:電子の鳥Ⅲ


 未元の能力者には、誰にも戦うべき相手がいる。


誰が言ったのかは知らないが、それが彼らにとっての暗黙の了解、もとい共通認識であった。

自分達が再び生を得た理由、異能とは名ばかりの超常を得た理由も全てはその事実へと帰結する。

それ故に、天を砕かんとする猛禽、異形の鳥が自らの相手だと告げられた時、姉妹が胸中に燻るそれを恐怖と気付くのに数秒の間を要した。


「私たちの────」「────相手……」


今度こそ、沸き立つ畏怖に足が竦んでしまう。

二度の雷撃を経て日奈は知ってしまっていた、その小さな身体が既に電荷で飽和していることを。

夜奈は理解してしまっていた、もしあれがただの牽制ならば、次こそ2人分の容量を上回ってしまうことを。

何もかもが規格外、それ以外の形容があるだろうか。


世界の命運───その責務故に硬直する双子を見かね口を開く者がいた。

彼女は『未元』の先輩として、多くの死を見てきた者として、伝えなければいけなかった。



「2人共、前を向いてちょうだい。確かに、あれは世界を喰らわんとする、正真正銘の化け物よ。M.E.T.I.Sちゃんからある程度は聴いてたけど、どう考えたって反則だもの」



西川燐那が脳裏に描くのは、かつて学生だった自分。

何も出来ず、ただ最期の一瞬を焼き付けた自分。

そして────彼女の意思を継ぎ、今こうして救世の矢面に立つ自分。


だからこそ、この2人や愛すべき小雪(むすめ)に胸を張って言いたい。

君達が目指す明日はきっと無垢で美しいのだと。



「────けれど、勝算はあるの」



「そうそう、燐那さんに先越されちゃったけどサ? 君達の勝機はこの私が保障するよ」


姉妹の視界には、続け様に語りながらも一向を背に歩み出るM.E.T.I.Sの姿があった。

間髪を入れずに降り注ぐ破滅の光を展開した防御機構(プロテクター)でどうにか受け止めながら、緊張を感じさせない声を並べていく。

その背に負った使命の為に、ひたすらにやるべき事の為に。


「実はね、私はずっと、携帯なんかを通して日奈夜奈ちゃんを見てきたんだよ? (かれ)が来ることを知った日からね? 君達はいつだって身を寄せ合って、怖くても二人三脚で歩いてきた────そうだよね?」



 M.E.T.I.Sは、生まれながらに孤独だった。

世界の均衡を保つ、ただそれだけの為に自らと共に定義された世界の裏側。

時折届く開発者の声ですらデータの残渣として片付けられてしまう、ここはそういう場所だ。

一歩間違えれば、『成長し続ける』それだけしかない(かれ)と何ら変わりないのかもしれない。

けれど、この電脳世界(こちら)異世界(むこう)に違いがあるとするならば──────それは、この世界からは誰かの笑顔が見えること、自分の在り方を見つけられることだ。



「それなら、もっと胸を張らなきゃだよ? 裏付けも勇気も、裏世界(ここ)の支配者たる私が保障する。君達なら─────きっと勝てる! って……今まで何も出来なかった女神様なんだけどね!」



世界の裏側を、形無きはずの空間を証明する防御機構。

概念に近しい不可視の壁をも電子の鳥は打ち破らんとしている。

空間の定義が揺らぐ度、その場と同期しているM.E.T.I.Sもまた同様に身体の内側を侵蝕されていく。


未だ状況を飲み込めない日奈と夜奈だったが、自然と向かうべき彼方、仮想の天上へと顔は向いていた。


「……行こう、日奈」


「ねぇ、夜奈ねえ……?」


「…………やっぱり不安?」


「ううん。その前に、確認したくて」


「…………何を?」


「あのね──────」


猛禽の言葉無き怒号が、世界の悲鳴が木霊する。

その後には、搔き消えた日奈の問い掛けに、不思議と微笑む夜奈の姿があった。

なぁんだと、強張っていた肩の荷がふっと消えて残されたのは場違いな安堵のみ。


「────そっか……日奈も知ってたのね」


「うん。ごめんね、夜奈ねえが苦しんでたのに……」


「いいの、いいのよ? こんな感情、独り占めだなんてエゴもいいところだもの。それじゃあ、そろそろ行きましょ?」


「────うん……!」



この場所が本当に世界の真裏なら、物理法則も成り立つとは限らない。

蓄積された磁気力を焦げた大地へ付与しながら、姉妹は天を裂く怪鳥を見据える。

目を細めてようやく捉えられるその頭部は黄金とも異なる輝きを携えて、眼下に広がる電脳の楽土を品定めが如く見下ろしている。

幸いにして露出しているのは頭部のみ、何億光年は下らないという翼は入っていない。

付け入る隙があるとすればその事実のみだ。


「大丈夫よ2人共。根拠ってワケじゃないけど、私達『未元』は皆誰かしらのメタ(・・)になってるはずだから」


姉妹に関する因果を可能な限り再設定し、西川燐那は飛び立つ2人を見送った。

磁力の反発、勢いをそのままに天を駆ける少女達。

その小さな背を見ると、何故ダウナーな自分があんな話し方を出来たのか、若干ながら分かったような気がする。


────まぁ親友(メーティスちゃん)の頼みってとこが大きいんだけどさ?



「燐那さん早速こっち手伝って! 私、電子の鳥(かれ)とは相性サイアクみたい!」

「はいはい、こっちも頑張るわよM.E.T.I.Sちゃん」



天には二条の雷、地上に吹き荒れるは因果の追い風。

世界の命運を賭した決戦、その口火はまさに今、切って落とされたのだった。



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