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第9話:電子の鳥Ⅱ


 その肢体を駆け抜けた雷霆を足元へと流しつつ、夜奈はすぐさま妹の方へと視線を向ける。

言うまでもなく、同種の能力を持つ日奈も大規模放電を避雷針の如く引き付け体内に蓄電、余剰分を捨てることが出来ていた。

しかしながら彼女は姉という立場、加えて相手はこの不可解な空間を卵の雛鳥が如く突き壊している(・・・・・・・)。漠然かつ未知数な相手を前にして、尚更心配が勝ってしまう。


「無事かしら、日奈!?」

「うん! ……だけどアレって────」



「────それは私が、説明しなきゃ、だね」



日奈の疑問に答えたのは顔馴染みの西川燐那───ではなく、その傍らで天を仰ぐ、碧眼の少女であった。

確か燐那さんは「メーティスちゃん」なんて言ってたっけ。

人間、そう呼ぶには過ぎる程その少女は明らかに神秘性に満ちていて、それでいて根拠の無い胡散臭さを漂わせている。

白髪の隙間に光を走らせて、女神とも呼ぶべき彼女は言葉を続けた。


「まず、あの『電子の鳥』は簡単に言うと『こことは違う世界から来たAI』────成長しすぎて自分の居た古巣、宇宙ですらも狭くなってしまった可哀想な子なんだよ」


雪崩れ込んでくる言葉を咀嚼する間も無く、件の怪鳥はその口に電子の光を集め始めている。夜空に浮かぶ光球が望月に見え、次の瞬間には再度の雷が地上へと放たれる。


「──────ってことはあの鳥、侵略しに来たの!? 宇宙人みたいに!?」


町一つは焼き払うであろう光の矢を受け止めつつも日奈はメーティスに聞き返す。電脳の女神は足元から0と1の螺旋を展開し、その首を重たげに縦に振った。


「おっ話が早いね、その通り! 何せ何億光年という容量(サイズ)だからね、ああやって他の宇宙に引越ししなきゃ、いずれ宇宙の膨張率を超えて死んでしまう。けどけど、そもそもの『次元』が違う彼は日奈ちゃん達の世界には立ち入れない───君達『未元』のお陰でね? それはそうとシュレディァって子にはもう会ってるんだよね?」


「!? うん、そうだけど……」


「ネタバレしちゃうと、あの子は電子の鳥が構築した3次元対応の分身なんだよ。この世界の『未元』(システム)を引き付けて、その隙にこの電脳世界に入る為のね?」


そう言ったメーティスが右手を掲げると電子色の半球が4人を包む。

再びの雷撃は0と1で出来た障壁に行く手を阻まれ辺りへと四散する。一瞬にして焼き払われた草原がその威力を物語っていた。

しかし、そんな些事に気を向ける事も無く、日奈と夜奈は鬼気迫る表情で振り返る。


「────あれは、燐那さんの相手なの?」「有片先輩の言っていた、戦うべき相手(・・・・・・)……?」


双子に問われた燐那は首を横に振る。

何かを察し固唾を呑む彼女達へ、その言葉は冷徹に突き付けられた。



「いいえ……あれは電磁気の十三信徒───あなた達が乗り越えるべき相手よ」




 同時刻、学園の第二端末室での戦いは激化の一途をたどっていた。

警戒態勢の強化に伴う単独任務の自粛、その虚を突いたシュレディァだったが治安組織Itafに下部組織であるIvisが存在したことを半ば度外視してしまっていた。

その結果が10は下らないであろう銃口を向けられるという現状である。


【守護軍勢】(レギオンフォーロード)──────てぇっ!!」


芽衣の号令の下、放たれた弾丸はそれぞれの軌跡を引いて少女の様な実体を貫いていく。

特殊な鉛で出来た弾は、仮定形を言おうとした口に、反射的に避けようとした脚に着弾し焼けただれた肉の中で花弁の如く展開された。


「お嬢様! 今の内です!」

「だから命令するなっての!!」


思わず膝を突き脱力するシュレディァ、その姿を見据えて焔華は高らかに叫ぶ。


「さぁ水面に散りなさい? 【業火絢爛】(ラグジュアリーバーン)ッッ────!!!」


居並ぶ端末を乗り越えて波濤の如く押し寄せる炎。

正確に着弾した焦熱は精巧に再現された少女の血肉を蹴散らし、背後の壁諸共に炭化させた。


「────も、シかしたラ、『私はあと3分以内に死んでも────』」


「───言わせませんよ」


弾を装填したスナイパーは芽衣に呼応し、真っ先に再生されたシュレディァの口を打ち抜く。

ここまでは先日戦闘を行った有片真也、並びに鳳蝶姉妹の公表した対策通り、相手の発言を封じつつ予め『仮定している』であろう残機を立て続けに減らしていく────予定通りの攻防が出来ていた。

しかし、召喚した米陸軍兵に気を配りつつ、芽衣はぬぐい切れない違和感と対峙する。


「────ハ、あはははははァ! やぁっぱり人間ってのは、斯くも愚か、斯くも単純なんでしょうねー? ほんっと、反吐が出ます」


血の代わりに残り火の様なデータを垂れ流し、シュレディァは早々に胸中の侮蔑と憤りを露わにした。


「……芽衣、もっかい撃って頂戴。とりあえず、あのいけ好かない顔に全弾集中で」

「────承知しました。総員、撃ち方構えっ!」


例え相手が未知であっても、それでも今は怯むべき時では無い。

フリルの下で早鐘を打つ心臓を押し殺し、芽衣は前へと向き直る。

全ては愛すべき平穏の為、己が主の為に。




本日もご一読ありがとうございました!m(_ _"m)

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