第一話 聖獣との遭遇
あぁ、書いてしまった。
どれもこれも不定期更新でもうしわ申し訳ない。
想像と妄想が止まらない故の暴走を許してほしい。
幼い頃から動物が好きだった。
物心つく頃には人間の友達よりも動物の友達の方が多かったもので両親にはよく心配されたものだ。
言葉は分からなくとも意思として伝わる不思議な感覚を味わいながら、様々な動物と四六時中戯れていたが、それは安全が少なからず保障されている動物だけではなく、種類や分類は問わずに全ての〝獣〟が好きだった。
まだ御伽話でしか知らない魔獣や聖獣。都に行けば獣人も存在している。
その全てに出会い、触れ合い、遊んでみたいと心からそう思った。
そして――――伝説に出会うきっかけは単純なことだった……
十歳の誕生日という一つの節目『男は狩りに女は家事へ』という風習で父親と一緒に森へ狩りに向かった時のこと、一匹の狼と遭遇した。
陽光などを通さんと覆いかぶさるように生え渡る自然の中で微かに刺した太陽の光の先に優雅にも風格を醸す存在は深く脳裏に焼き付けられた。
青白く輝く毛並み、暗闇の中で煌めく瞳の中には銀河にも似た美しさがある。
体躯は大きくとも荒々しさは皆無、それは御伽話で語られるような王女様とも見間違えるほどに絢爛としていたのだ。
もちろん父親は何かを知っている様子で自分の前に立って「下がれ」と短く言ったが、その時にはもう既に遅かった。
興味という、それはもう途方もないほどの欲が、勝手に足を進めてしまっていたのだ。
「近くで見ると……ホントに綺麗だ。触ってみてもいいかな?」
父親は後方で叫ぶように自分の名前を呼んでいるが、目の前の大いなる存在と対峙してしまっている自分の耳には一切入ってこなかった。
『――――名は?』
頭の中に響いた言葉。
動物が言葉を理解して更に活用しているという光景に驚きを隠せずに言葉が詰まろうとするが、不思議と口が開いた。
「ルディーク。ここからすぐの〈マイバレッタ〉に住んでいる」
『つまり後ろにいる〝狩人〟の後継者か……。残念ながらそれでは我に触れることすら叶わない、生まれ変わって出直せ』
もう一度後ろを振り返ってみると驚いたことに父親の動きが止まって見えた。
体も動いてはいない、先ほど薄っすらと聞こえた声もしない。
いつの間にか二つの存在しか入れない空間に引きずり込まれていることに、ようやく気が付いたルディークは、まるで悩み事のように語り始める。
「いや〝狩人〟は弟が後継してる。恥ずかしながら未だに〝職〟が判明していないんだ。母さんが〝調薬師〟、父さんが〝狩人〟、妹が〝錬金術師〟。生まれた時からは皆は分かっていたらしいんだけど、俺は少しだけ事情があって神殿には行ってなくてな……それに、〝職〟が天命されると現れる〝聖痕〟が俺にはないんだ」
『ほぅ……おかしなことを言う。それは証明できるか?』
「証明……ね。いいぞ」
身に着けている〝狩人〟用にこしらえた装備を外していき、着ている服を脱ぎ上半身には何もない状態になったルディークはその場体を回転して見せては、自分の体に何もないことを証明してみせた。
『……真っ白な肌だな。まるで雪のようだ』
「証明は出来たかな? 御覧の通り、俺には何もないんだ。で……触らせてくれるか?」
『いいだろう。嘘を言わなかった貴様に一度だけ我に触れる好機をやろう。勿論のこと……我に触れることが出来たらの話しだが』
その時はただ、触れることしか頭の中になかった。
どうして触れられないのか?
どうして言葉が通じ合うのか?
どうして、どうして、そう疑問にすら思うことなくルディークは目の前の大狼に手を伸ばした。
「え?」
もう少し、あと少しで指先にあるモフモフに手が届く。
そんな感情の刹那、あろうことか魔方陣が現れた。
驚きと触れなかったことによる絶望を感じ、視界を上げてみれば――――時が止まっていた。
得意げな表情で余裕を見せている大狼に、後ろを見れば先程と変わらず焦燥を露わにしている父親。
「どういう……――――まぁいいか、もう少しだけ手に力を込めれば」
パリンッ
ガラスが割れるような音が耳に響いた。
「うわぁ!なにッ!?」
粉々に粉砕された魔方陣がルディークの指先に収束していき、やがてそれは〝指輪〟にも似た痕となって吸収されてしまった。
そして止まっていた時間が一気に流れ始め、ルディークの手の平は雲のようにフワフワとした白銀の体毛に埋まった。
「あ、やっぱり最高のモフモフだ」
この体毛に包まれて眠れるならば本望とまで思わせるほどの極楽が身を震わせる。
『む?貴様……どうして――――』
「知らない。でもちょっと待ってくれ一回しかないならもっと触りたい」
もはや触れるというよりも、抱き着くようにして毛並みを体感しているルディークに大狼は驚きを隠せなくなっていた。
それは、同じく時が動き始めたことによって行動が可能になった父親ですら同じだ。
「な、なにが……」
理解がおいついていないのも当然のこと。
この場にいる者で知らないのはルディークだけだ……
「ル、ルディ……?そのお方は〝聖獣〟フェンリル様だぞ?」
「え?」
「それよりお前……体に見たこともない〝聖痕〟が――――」
指先から胴体まで伸びる雷の後のような禍々しいほど大きな痕はがルディークの体に刻まれていることを父親として見逃せなかったのか、目の前にいるフェンリルの様子など気にすることなく茫然としてしまっている。
『え、それ我が契約結んだ時のために創造ったものではないか?』
父親と同じように茫然としているのは〝聖獣〟とまで言われた大いなる存在だった。
『おい、おいおい!聞いたことがないぞッ……強制的に契約を結ぶだと!?』
「おいルディ!うちの家系に〝ビーストテイマー〟の職になった者は一人もいないぞ!?ましてや、うちは戦闘系と魔術系の二種類だ、使役系の血は入っていないはず……」
『馬鹿者が!!我は〝ビーストテイマー〟如きに使役される存在ではないわッ』
「なら……どうして」
『――――……《森林の覇者》よ。明後日までにこのガキの〝職〟を調べて参れ、それか神官をこちらに呼べ。《超越の魔女》である番ならば問題ないだろう。我は少し用が出来てしまった、森から半日だけ姿を消す、後継の者に守らせよ』
「いや、まだ息子は七つになる前ですよ!?そんな危険なことはさせられません」
『ならば滅びを待つのみだ。どうにかそちらは頼む……』
言葉を言い淀んだ後に視線が動いたのはルディークに突如刻まれた〝聖痕〟であった。
右腕から伸びるように胴体へと向かい、繋がれたの場所は人間の急所でもある心臓部位。
『我の憶測が正しければ、お前の息子は非常に厄介な物語に巻き込まれた可能性が高い。下手をすればそのガキの全てと一生を奪われるかもしれぬ』
「…………分かりました。全ては〈マイバレッタ〉と森林のために」
『任せるぞ』
短く言葉を残した〝聖獣〟フェンリルは光の如き速度でどこかへと向かった。
「今のが御伽話で良く見た〈避雷身〉かぁ……」
「おいルディ……」
二人の会話には我関せずのルディークを横目に父親であるバースラは深いため息が口から零れた。
今回はほのぼの系を書きたかったんや。
獣の擬人化っていいよね?って話しにしたい