第3話 主人公の旅立ち<デパーチャーズ>
女性
「ハァハァ……ふぅ。やっと着いたわ」
青年の手を引っ張って、息を切らせて走っていたツヤツヤの白髪の綺麗なお姉さんは、目的地に着いた途端、手をゆっくり離して、胸に手を当て、呼吸を徐々に調え始める。
青年
「ハァハァ。ここが…駅…ですよね?」
青年も弾ませていた呼吸を、ゆっくりと調えながら、お姉さんの手と離れた手を惜しむかのように見つめた後、辺りを見回し確信を持って、その女性に確認する。
女性
「えぇ。そうよ。」
「貴方はこの駅からSky-Linerという列車に乗り、能力開発国の終点の学園都市まで乗っていくんじゃないのかしら?」
彼女は、呼吸を調えた後、おどけたシミひとつない色白のキレイな顔で首をかしげながら、左手の細い人差し指を頬につき当てながら、青年に尋ねた。
青年
「えっ?能力開発国……学園都市?!」
青年は、目の前に立っている天使の様なとてもかわいらしいポーズをしているお姉さんを見つめて、少し照れながらも、わけも分からぬ素振りで、彼女をまじまじと見つめて聞き返すが、次の瞬間、彼女は淡々と青年には到底理解のし難い内容の話をゆっくりと話し始めた。
女性
「この世界には、魔法と魔術のマジックサイド、そして私たちの所属しているサイコパスサイド、所謂イワユル超能力者達の事よ!」
青年
「魔法?マジック?超能力?!…って、ちょっと待ってください!なにを話されてるのか理解が...」
女性
「いいから。黙って聞いてて。」
青年は、やはり頭の中で理解出来ない話を、飲み込むことが出来ず、彼女に対し、そんな話理解の概念を越えていると言うように、端的な言葉だけを投げかけるが、彼女は言葉を遮り、更に青年に向かって、天使の様な顔つきを曇った真剣な表情に変え、こう伝えた。
女性
「これは、貴方にとっても、とても肝心で重大な事なの!」
青年
「俺にとっても?」
女性
「そうよ。だから、最後まで真剣に私の話を聞いてちょうだい。」
青年は、先程よりも、わずかに気持ちを落ち着かせて、彼女の話を理解しようというよりも、一応追いつこうと話の端を掴むが、彼女は、最後まで話に追いついてもらおうと、優しめに対応し、話の続きを話し始める。
女性
「マジックサイドと、サイコパスサイドの両端の事はさっき話した通り大きく分けて2つ!
魔法を使える魔術師達と、異能力を使える超能力者達の事よ。」
「でも、その2つのサイド側の人達が対極してたり、侵害しようとしている訳でもないの。」
「けれど、この2つのサイド側から、不穏な動きや、最悪な企みをし始める者達が現れたらしいのよ。」
「そして、その者達は、やがてこの2つのサイド側の人達を次々に排除し始め、やがては、この世界全体をも脅かされ、恐怖と地獄の沈黙で殲滅されてしまう危険があるのよ!」
彼女は、徐々に話を鮮明にし始め、そして遂にこの世界に迫り来る危機、最悪の事態を青年にはっきりと説明した。
青年
「それを、俺に止めて欲しいと?!」
女性
「そうよ!だってあなたはこの世界に選ばれし者なのだから!!」
彼女は、青年にまるで最初から、青年の事を探し求めていたかの様な口ぶりで、青年ににこやかな表情で、微笑んだ。
青年
「え?!待ってください!俺が……選ばれし者?!」
女性
「そう。貴方は、あの能力開発都市に迫り来る危機を確実に止められる唯一の存在であり、貴方以外誰にも出来ないことなのよ!」
青年
「で、でも...俺は…。そんな危機とか救えるようなヒーローみたいな存在じゃないんですよ?!」
女性
「ふふっ。全く分かってないわね。」
「貴方に、初めてぶつかったのも、ただの偶然だと思っているのかしら?」
青年が戸惑い、なぜ自分が世界に選ばれたのかさえも、分からずに、動揺しながらも彼女に問いただすが、彼女は、まるで端から青年に、それをずっと言いたかったと言わんばかりに、応える。
だが、青年は彼女の言葉に対し、悲嘆するが、彼女は少し微笑みながら、青年に意味ありげな言葉を伝える。
青年
「あれも、ただの偶然じゃなく必然だって言うんですか?」
「それも、ここに連れてくるための理由だった。そう言いたいんですか?」
青年は、真剣な表情で、女性を見つめて答え合わせの様に、聞き返す。
だが、女性は、そんな事は当然だと言わんばかりに、こう応える。
女性
「えぇ。そうよ!それに、私はさっきも伝えた通り、超能力者!」
「えーと、貴方には特別に教えておいてあげるわ!!能力名は、スキルス・キャッチ・アイ[skills catch eye]」
青年
「スキルス...キャッチアイ…?」
女性
「そう!スキルス・キャッチ・アイ!この能力は、相手の能力名などが相手を見るだけで、全て分かっちゃう能力なの!」
彼女は、自身の能力名を横文字にすらすらと並べられた英文字の様な言葉で、青年に告示し、能力の秘密まで青年に優しく教えた。
青年
「だから、あなたの能力で、俺の能力が分かったってことですよね?!」
女性
「えぇ。視た瞬間、ほんとにビックリする能力だったわ。」
青年
「…ゴクン。…どんな能力だったんですか?」
女性
「んー。うまく説明は出来ないけれど、とにかく物凄い力を秘めているのは間違いないわ!」
青年
「え?!それはどういう意味ですか?」
「俺の能力名は、分からなかったんですか?」
女性
「えぇ。なぜか、あなたの能力を読み取ろうとしても、なにかが邪魔してて完全には、分からなかったのよ。」
「けれど、あなたの能力ほど、強大な力は見たことないわ!」
「それに、あなたの能力は、あなた自身の意志と、神にさえ選ばれし運命がかけあわさっている能力なのよ。」
彼女は、今まで自信のある態度ですらすら話していたのだが、青年に自らの能力名はなにか、という一点の疑問を突かれた事により、彼女は今までとは違い、少し落胆した気持ちで、青年の疑問に応えた。
だが、すぐに立ち直り、彼女が知り得た情報のみで、青年の能力についての説明をした。
青年
「俺の意志と…神に…選ばれし運命。」
女性
「そうょ。けれど、これでこの世界の事は、だいたい分かってくれたかしら?」
青年
「あぁ。けど、まだ信じがたいけど、そこまで説明されて、逆に信用するなって方が無理ですよ!!」
女性
「そぅ?それなら、良かったわ!」
「あっ!そう言えば、まだ貴方の名前聞いてなかったわよね?」
青年
「あっ!!」
青年が、この世界に存在しうる魔術師達の所属するマジックサイドと、超能力者達の所属するサイコパスサイドの2つに別れている能力開発都市、世界規模およそ2億何千万人という人口の住んでいる世界の事をようやく理解してきたところで、青年と彼女の自己紹介をしていなかった事に気づいた二人は、お互いに顔を見合せ、高らかに大笑いをした。
アレン
「俺の名前は、アレン!月弥音アレンだ!」
女性
「アレン......素敵な名前ね!」
アレン
「そっ、そうですか?」
女性
「えぇ。とても。」
アレン
「そんな事言われたことないから、照れますよ。」
青年アレンが、勇ましく盛大に名乗りあげると、女性はアレンの名を、咄嗟に素敵な名前だと誉めあげた。
グレース
「私も、自己紹介するわね。」
「私の名は、アリソン・グレースよ。」
アレン
「とても、優しそうな名前ですね。」
グレース
「そう言ってくれると嬉しいわ!!」
アレン
「けど、グレースさん!」
グレース
「グレースでいいわよ。ついでに、敬語も堅苦しいから使うのも禁止ね。」
出逢った時から今まで、暫くずっとアレンと共に傍に居た女性も名乗ると、アレンもお返しにとグレースの名を誉めあげた。更に、アレンは初めて名前を呼ぶときに、丁寧にさん付けして呼びかけたが、グレースも、さん付けで呼ばれるのは、堅苦しいと思い、普通に呼び捨てでいいと青年にすかさず、彼女の気持ちを青年に伝えた。
アレン
「なら、グレース。」
グレース
「何かしら?」
アレン
「さっきの話だが、俺が行かなきゃ、その能力開発都市の危機は救えねえんだろ?!」
グレース
「えぇ、けれど、あなたは行くのを躊躇って(タメラッテ)いるのでしょ?」
アレン
「あぁ。確かに、いきなりそんな物騒で、危険やデメリットしかなさそーなとこに、世界から選ばれたからって理由だけで、突っ込んでけとか、身が引けるし、そんなの訳分かんねぇよ!」
「ただ、その能力開発都市......だっけか?!」
「そこの危機を救うために、なんで俺が世界や、神に選ばれたのかは、分からねぇし、知ったところで、なにがどうなる訳でもねぇんだろ?!」
グレース
「確かにそうね。それに、あなたからしたら、いきなり訳のわからない所に行って、そこの裏でうごめく者達を、倒しに行けって言われても、納得なんかできる訳ないわよね?」
「ただ、あなたが世界や、あなたの意志と神のみぞ知る能力を持っていて、あなたにしか開発都市や、学園都市も救えない。それだけは、決して変えることのできない真実なのよ。」
アレン
「...フッ...確かにそんな事実を呑み込める訳もねーし、理解も、納得も出来ねぇ!」
「けどな。俺が行かなきゃ、その都市は全て壊滅しちまうんだろ?!」
「なら、簡単な事じゃねーか!どんな理由があろうと、俺はそこに住んでいる人達や、能力開発都市、学園都市も全て護ってやる!!」
グレース
「ふふっ。」
アレン
「それが、俺にしか出来ない唯一の役目なんだろ?!」
グレース
「えぇ!そうょ。やっと、意志がしっかり決まったようね!」
青年アレンと、白髪の長身美女グレースとのかっとうや、意思の想いが交差するなか、ようやく青年と彼女の意志が合致して、話し合いは終着点を迎えた。
そして、アレンはすぐさま、勢いよく列車に乗り込もうとするが。
「ちょっと待って!」
「なんだょ?まさか、今さら止める気か?」
「悪いが......。」
「そうじゃないわ!」
「あなたの意志には私も大賛成よ!ただ...(グレースが2つの約束事を伝える)...この2つの約束をしっかり守ってほしいの。」
美女のグレースが、2つの約束事を守るように念を押し、青年アレンもはっきりと頷き、任せとけと言わんばかりの口ぶりで応えた。グレースも、安堵した溜め息を吐き、すぐに、にっこりと青年アレンに微笑みかけた。
「よし。なら、行ってくる!」
「あなたの無事と不幸中のluckを祈ってるわ!」
青年アレンは、勇敢な勇姿と澄んだ黒い瞳を輝かせながら、笑顔を見せつつ、希望と期待などの気持ちを胸一杯に抱えSky-Linerに搭乗し、グレースが見守るなか、列車は夕焼けが真っ赤に染める空を目指しながら、空の彼方へと走り去っていった。
すると束の間、グレースのFuture Phone(ホログラム用携帯電話)が、割りと小さめな音量で鳴り始める。
グレース
「はぃ。」
謎の女性
「わぁ~!ほんとに繋がったわ!!」
グレース
「それで、何の用かしら?」
謎の女性
「あぁ〜っ!!そうだった。そちらの状況はどぅ?」
グレース
「手筈通りよ!」
謎の女性
「良かったぁ~!それじゃ、後はこっちに任せてね♡」
グレース
「えぇ。それじゃ!」
謎の女性
「はぁ~ぃ。」
誰からの電話かと思い、すぐに応答するグレイス。
すると、突然優しく包み込むような甘く幼い声色で、極度の天然っぷりを見せる謎の女性だった。
グレースとその謎の女性は、僅か1~2分程度、とても意味深な内容の話をして電話を終えた彼女達。
果たして、彼女達の真の目的は?!
そして、電話の話し相手は誰だったのか?!
これは、後に主人公の生活を大きく変える事に発展していくのだ。




