出会い
ある暑い夏の夕暮れ時だっただろうか、一人の少年が深い森の中を走っていた。
きれいな灰色だっただろう髪の毛はくすみ、小麦色であっただろうその肌は土と血にまみれ面影もない。その健気な両足にはいくつもの傷がつき赤黒い筋が幾重にも走っている。
今にも崩れ落ちそうな少年の体だったが、そうできない理由があった。
狼だ。
その少年の後方20メートルほど、ぎらついた眼、半開きの口に覗く鋭い牙と深紅の舌。5から6匹ほどの群れが少年を追っていた。
じわりじわりと縮まるその距離に少年は嗚咽を上げながら疲れ切った両足に鞭を打った。
だが、残念ながら少年に余力は残っていなかった。
疲れに悲鳴を上げもつれる足。
投げ出されるからだ。
口の中に広がる血と土の苦み。
そして、周りを取り囲む足音と荒々しい息吹。
それらは少年を絶望させるのに十分すぎるほどだった。
少年は嗚咽を噛み締めながら胸元に光るクリスタルのペンダントを握った。
遠い昔、少年がまだ幼かったころに祖母からもらった宝物。
一つだけお願いを聞いてくれる魔法のペンダント。
最後に縋るのも悪くない。
「僕を助けて!」
少年の声が森に響くと同時に、一陣の風が吹き抜けた。
ある者には暖かく、ある者には厳しい一筋の風。
どさり
少年がゆっくりと目を開けると狼はすべて息絶えていた。
「お前が俺を呼んだのか?」
半身を深紅に染めた少年がたっていた。