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後編


「華、次の日曜日図書館に行くぞ」

「え、何で?」

「何でって、もうすぐテストだろ」


まさか先生の話を聞いていなかったのか、と呆れた顔をする枢馬。


「あー、そうだった。そうだった」


そう言った華だったが、もちろん嘘。忘れていたというより、そもそも知らなかった。もとい聞いていなかったとも言う。


「はぁ、9時にそっちに行くからな」


華のことなどすべてお見通しの枢馬は、あからさまにため息を吐く。

こんな態度をとられながらも、ちゃんと面倒を見てくれる枢馬の事は嫌いにはなれない。


「うん。分かった」




そのとき、突風が吹いて髪が(なび)く。


「うわっ。びっくりした」


華は慌てて髪をおさえる。髪があがった瞬間、ちらりと見えた華の首筋。それを枢馬がじっと見ていたことに華は気づかなかった。






次の日曜日9時に華の家に来た、枢馬。


「あら、枢馬君いらっしゃい。華はまだ寝てるから起こしてきてくれる?いつもごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」


華の家に来るたびに毎回繰り返されていることで、別に約束の時間に華がまだ寝ていることにも、驚くことはない。


「じゃあ、私は華の朝ごはんの用意をしておくから。枢馬君もココアでいいかしら?」

「はい、ありがとうございます」


それだけ話して、華のお母さんはキッチンへと戻り、俺は華を起こしに二階へ行く。


「華、入るぞ」




本当は華は起きてはいないのだから、声くらいかけなくてもいいだろうと思いながらも、一応は一度は声をかけてから入ることにしている。

どうせ返事はないだろうと思いながら、いつものように部屋に入った。


「え!?ちょっと待って!!」



だがしかし、この日には珍しく返事があった。しかし、時すでに遅し。

声をかけながら既にドアノブに手をかけていたため、声が聞こえた頃にはもうドアを開けていた。


そこにはまだ着替え中の華がいた。一瞬何が起きたのか理解できなかった。華も目を見開いて微動だにせずにいた。




「枢馬のばかー!!」


立ち直ったのは、華の方が早かったようだ。

一瞬にして顔を真っ赤にして、近くにあったクッションを投げつけてきた。それが見事に枢馬の顔にクリティカルヒットし、その衝撃で枢馬も目が覚めた。


「わっ、悪い」



慌ててドアを閉めて廊下に出る。自分の顔は鏡がないので分からないが、おそらく真っ赤になっているのではないだようか。

一人になって少し落ち着いた時に、またさっきの情景が浮かんできた。それでさらに顔が暑くなるのを感じる。



「はぁー」


心を落ち着かせようと、ドアに背を向けて向けて大きく呼吸をする。だがしかし、残念なことにほとんど効果があらわれることはなく、華が出てくるまでにはいつも通りに戻れるだろうかと心配になった。






一方、華はというと、こちらも枢馬と同様にかなり焦っていた。


(やばいよ。ぜったい見られた!!)




今日はなぜかいつもと違って、枢馬に起こされる前に自然と目が覚めた。いつもより、気分がいい目覚めに折角だから、着替えておいて驚かしてやろうと思い付く。


(そうと決まれば、枢馬が来る前にさっさと着替えなきゃ)


それがあんなことになるとは知らずに、ルンルンの気分で服を着替え始めた。


突然、枢馬の声がしてドアが開いた時には、驚きのあまり固まっていたそして、次の瞬間にはおもいっきり、近くに置いてあったクッションを投げつけていた。




(はぁ)


ドアを背もたれにして力を抜く。恥ずかしさのあまり頭をかかえる。だが、いつまでもこうしてはいられないと、やがて再び着替え出した


ようやく着替え終わった頃にはだいぶ時間がかかっていたと思う。


「お待たせ、枢馬」

「いや、悪かったな」


枢馬の何の事を言いたいのかは考えるまでもなく分かり、途端に恥ずかしさが増してくる。


「下に行くか」


恥ずかしくて、恥ずかしくて、話すことも目を合わすこともできずにいると、枢馬が一言そう言った。それに私は無言で頷くだけして、枢馬の後に続いて下に下りる。






「おはよう、華。遅かったわね。どうかしたの?」

「ううん。何でもない」


明らかにいつもと違っていただろうが、お母さんがそれ以上何かを聞いてくることはなかった。

私はいつもよりゆっくりに朝食を食べて、枢馬は話しかけて来ることもせず飲み物を飲む。それからようやく家を出た。


「いってらっしゃい。華。枢馬君」

「いってきます、お母さん」

「飲み物、ありがとうございました」






気まず雰囲気の中、図書館へと向かい、そしてそのまま勉強する。もちろんそれで集中できるわけもなく、、勉強はほとんど進んでいない。たぶん、枢馬も。

結局そのまま無為に時は過ぎ、いつの間にか帰る時間になっていた。




「そろそろ帰るか」

「分かった」


ほとんど事務的な会話しかしないし、声もかけずらかった。

夕暮れの帰り道。私も枢馬も一言も話さないまま、ただただ歩いていた。

私はその静寂を終わらせることにした。


「ねぇ、枢馬」


歩みを止めて、枢馬に話かけた。


「何だ?」


少し前を進んで進んでいた枢馬が振り向くかたちで、私を見る。


「やっぱり、もう朝に迎えに来なくていいよ」


私がそう言うと、枢馬は眉間にしわをよせていた。それに私は続けて言う。


「今日はしっかりと起きれたし、大丈夫だよ」明日からは別々に学校に行こ」


ただただ今日みたいなことにはなりたくない一心での事だった。それを聞いて、枢馬はさらに眉間のしわを深くする。


「俺と一緒に行くのは嫌か?」

「そうじゃなくて、その……」


「違うなら、これからも一緒に行かしてくれ」

「えっ?」


いつもの枢馬と違い、少し弱っている感じの声に驚く。様子がおかしいと思い、うつむいていた顔を上げようとした時、何かに視界が覆われて何も見えなくなった。

温かくて優しい感触に何が起きているのかを知る。


私は枢馬に抱きしめられていた_____。


「ち、ちょっと。枢馬!?」


途端に顔が熱くなった。


「好きだ」

「え!?」

「好きだよ。華。だから、俺と離れるようなことは言わないでくれ」


(え。こ、これって告白ってやつ?嘘でしょ!?)


「俺がお前に告白したら悪いか?冗談でもなくて、俺は本気だぞ」

「え!?私口に出してた!?」

「口には出してないが、これくらい分かる。ずっと一緒にいたんだからな」


そう言って、枢馬は腕をゆっくりと話した。


「それとも、俺の事は嫌いか?」

「そんな訳ないじゃない!!」

「じゃあ、好き?」


嫌いではない。ということは好き?これは分からない。

家族のようにずっと一緒にいたから自分のなかでは恋愛の対象になっていなかった。


「わ、分かんない……」

「今はそれでもいい。いつか必ず俺が好きに変えて見せるから。だから、俺と付き合ってくれ」

「う、うん」






こうして、私たちは付き合うことになった。私が本当に枢馬の事を好きになるのもそう遠くない未来の話。


Fin.

これで本編完結です。ありがとうございました。


また、後日談や番外編も後日投稿しようと思いますので、よろしくお願いいたします。

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