プロローグ 1
ゲーム内の話になるのはまだ数話先になります。
どこかで、小鳥が鳴く声がする。梢が風に揺れる音がする。頬をかすかに撫でるそよ風……
重い瞼をようやく開くと見覚えのない天井が見えた。
体は重く腕も動かない。
首は、少し動く。動く範囲で見回すと壁も天井も白い部屋で木々が見える窓が少し開いている。
腕に点滴が刺さっている。
病院か?
私はどうしたんだろう。知らぬ間に病気になって倒れたんだろうか…
その時、軽いノックの音がして誰かが入ってきた。
「目が覚められたようですね。今担当の先生が来られますからね」
視界に入ってきたのはクラシックな、そう20世紀初頭ごろの制服を着た看護婦さん?
え~っと… コスプレ?
「ここは…?」
掠れた声で尋ねると
「VRサナトリウムですよ」
声と共に比較的若い医師らしき男性がドアから入って来た。
「VR?」
「はい。私は担当医の鷹原です。蒼井ゆりあさんですね。あなたは事故に遭われて大怪我をされました。現実にはあなたの体はICUのメディタンクの中です」
「大怪我、ですか?」
「はい。あなたは訪問先で爆発事故に巻き込まれた。本当にひどい重症であとほんの数分救助が遅れていたら命はなかったでしょう」
「死ぬほどの…」
「ええ」
「爆発事故…」
「はい。思い出せませんか?」
爆発…
「あ!」
記憶が蘇った。
私は仕事で研究施設の集まる人工島・ラボアイランドを訪れていた。
案内のアテンドロボと共に移動している時に大きな爆音と衝撃に襲われて…その後は記憶が無い。
「一緒にいたロボットがあなたをかばっていたそうで辛うじて頭部と左肺などはほぼ無傷でしたが」
「他は重症だったと」
「はい。正直危篤状態でした。残念ながら現在はタンクから出られない状態です。現在懸命な治療を行なっていますが長期になると予想されます。時間をかけて修復しないといけません。意識が現実に戻ると大変辛い治療です。また意識があると治療に悪影響があると予想されるのでこのVRサナトリウムにダイブしていただきました」
「先生。ご家族と警察の方のご用意が出来たそうです」
「うん、そうか。しばらく前から意識が戻る兆候が見られたので皆さんがいらしてますよ。モニター越しですがお話できますよ」
「警察…?」
「まだ事故の捜査中で蒼井さんから状況を聞き取りたいそうです。あ、点滴はただの舞台装置なので外しましょうね」
「まだって… 私はどれくらい意識を失っていたんでしょう」
「…ほぼ一ヶ月ほどになりますね」
そんなにか……
「あ!仕事は?育てている植物は?それにオーディエンスにも…」
「落ち着いてください。大丈夫ですよ。会社の方にも意識が戻られたと連絡しますから面会に来られると思いますよ(オーディエンス?)」
「ではモニターを繋ぎますねー」
主人公が医療用のメディタンクから出られるには何年もかかると思われます。
メディタンクと言う存在は昔読んだSFの「歌う船」アン・マキャフリー作と「夜の翼」ロバート・シルヴァーバーグ作にインスパイアされました。