人もすなるVRMMORPGといふものを、我もしてみむとてすなり-5 ゆりあは街を一巡り
(転移 ホームへ)
念じるとすぐに目の前の景色が広場から大木の側に変わった。
ホームへはポイントも使わずカウントも無しに転移出来た。
不思議仕様には胸がときめくな。
さて、暗くなる前にログハウスを設置しよう。どこが良いかな。
草地を見回して大木と泉の間の日当たりの良さそうな場所に決める。
南に入口が向くようにキューブを置いてログハウスに展開させる。
よし、問題なく設置完了。
扉を開けて中に入り、忘れないうちにホームとログインの設定を変更する。
(ホーム 設定 位置変更 決定 完了)
(ログイン 設定 位置変更 決定 完了)
だいぶん念じる操作にも慣れて来た。
最初はポチッなんて力を込めてたんだけどそれ程力まないでも良いことがわかってきた。
家具もさっきダドリー氏の工房で設置したままずれてもいない。
バスルームのドアを開けてみる。天窓から夕焼け空が見える。バスタブの側の窓からは外の草地や木々が見える。ログハウスの外から見るとバスルームなんて見えないのに。
バスルームから出て今度はロフトへの階段を上ってみる。
ベッドに腰掛けて周りを見回す。屋根の形に三角になった壁に窓が、斜めの天井にも天窓がある。
カーテンも用意しないと朝は眩しそうだ。
敷物やクッションも欲しいな。
再び下に降りてテーブルの上にウエストポーチの中のものを取り出す。
冷蔵庫が無いから食品は飲み物を一つ残して時間経過の無いインベントリに移す。
ホームの鍵もインベントリに仕舞っておこう。
筆記道具以外をウエストポーチに戻してノートを広げる。
あ、ゴミ箱がないから鉛筆の削りかすを捨てられない。
仕方がないからノートから1ページちぎり取りゴミ箱を折る。
昔おばあちゃんに習った折り方を忘れてなくてよかった。
飲み物を口にしながら明日の予定を考える。
午前中はショッピング。午後からはダドリーさんのところで打ち合わせに行く。
商業ギルドにも早いうちに行ってお金を預けた方が良さそうだ。
後はタクシーを雇って街中の転移ポイント巡り。
図書館にも行っておきたいがタイムオーバーかな。
そうそう、シトロネラにいる姪達とも連絡を取らなくては。
今、大丈夫かな。メールにしてみよう。
[蓮華&ゆーらへ
ルーおばちゃんです。
今アメジスティアのホームにいます。
森の中の素敵な場所です。
綺麗な湖も近くにあります。
あなた達が一番近くにいるとリュージュに聞きました。
みんな一度こちらにやってきてくれるそうですね。
大変だろうけれどよろしくね。
もうしばらくは起きているつもりなので都合が良ければ連絡ください。
ではね。
ルーリ こと ゆりあ ]
同報メールで送るとすぐにコールが。
「もしもし?ゆり姉? あ、ルーリさんか。蓮華とゆーらだよ」
「はいもしもし、ルーリですよ」
「ホーム券が当たって早速使ったんだって?」
「そうなの。お金もたくさん当たってしまったから当分何もしなくても生活できそうよ」
「すごいねえ。」
「みんながくれた招待オーブのおかげよ。ほんとにありがとうね」
「どういたしまして。アメジスティアってどうなの?良さそうだからホームを置いたんだろうけど」
「便利でね、食料も豊富で美味しいし、結構大きくて綺麗な街よ」
「そうなんだ。良かったねえ。私たちも一度急いでそちらに向かうね。今シトロネラの首都にいるの」
「もう首都にいるんだね。こちらにはどれくらいかかりそう?」
「実はβでの功績で私達シトロネラのホームを引き継ぎ出来てたの」
「それもすごいじゃない」
「まあ色々あってね。それはまた会った時に話すね」
私もゆっくり説明しないといけない事情がたくさんある。
彼女達はゲーム内での明日こちらに向かって出発するらしい。
草原を横断するか海に出て船に乗るかを検討中だそうだ。
おそらく二、三日でこちらに着くだろうとの事。
そして他の子達の様子はというとリュージュこと龍樹はパーリッシュ。ミィコ・スノウウィングこと蓮華の妹の美雪はサフィールに。アリス・ブルーこと美南海の双子の娘のアリシアはエメロードに。風丸・藤ノ森こと美南海のもう一人の双子の息子ゲイルはルビアにと見事にばらばらになってしまったそうだ。
それぞれをリュージュが拾う形でこちらに向かっているらしいがかなり時間がかかりそうだ。
「じゃあまた連絡するね」
「はーい。気をつけて来てね。」
コールが切れた。
現在こちらは夜の21時。日没から一時間。外はとっくに暗くなってる。
買って置いた軽食を取り出し夕食にした。
食後は軽くシャワーでも浴びようかと思ったけれどまだタオルを買っていない。生活魔法で何か無いかなっと思ったけれどまだレベルが低いからか明りを灯すライトと水を出すウォーターと弱い風をおこすウィンドと火をつけるファイアーしか出来なかった。
仕方がないのでそのまま服を脱いでベッドに入ることにする。
服を脱いでいくと最後はアバター設定の始めみたいに簡素な白いワンピース姿になりそれ以上は脱げなかった。
仕方がないのでそのままベッドに入ったけれど、お風呂に入る時もこのワンピース脱げないのかしら。少し不安だ。
ベッドの中でクリラビのホームページを呼び出し、あちこちのページを少し読んでから眠りに就いた。
当分の間、ゲーム内の夜は睡眠を取ろうと思っている。
翌朝日の出過ぎ、小鳥の声で目が覚める。
防壁の中だから害獣や魔獣の類は出ないけどそれ以外の鳥や動物はいるようだ。
時間はGT4/30/1-2/05:18(RT4/30/18:06)
ついでにステータスも見ておくとまた増えてた!
HP=28
MP=610
STR=9
DEF=9
MND=37
INT=42
AGING=21
DEX=40
LUK=96
スキルは隠蔽と偽装がLevel2になっていた。
どちらも使い続けているから伸びが良いんだろう。
バスルームで顔を洗って口をすすぐ。歯磨きは必要なさそうだけど習慣なのでせめてすすいでおく。歯ブラシを見つけたら買っておこう。
他にはタオルとヘアブラシも。雑貨屋にあるかなぁ。
ゴミ箱もだね。ゴミ処理とかはまた不思議仕様なんだろうなぁ。
びしょ濡れの顔のまま服に着替えて水分補給。思いついて流し台で手のひらに水を出してみる。
「ウォーター」
ゆっくり溜まった水を口に含む。大丈夫、普通に飲める水だ。
外に出て風を呼んでみる。
「ウィンド」
扇風機程度だ。濡れた顔や手が冷たくなったので止める。ドライヤーのような暖かい風が出れば良いのに。
その内に出来るように工夫してみよう。
火を付けるものがないのでファイヤーは出来ないかな。
人差し指をろうそくに見立ててファイヤーと念じてみるとイメージ通りの小さな火がついた。火が点いてる指は熱くないけどもう片方の手を近づけてみたら熱かった。
ささやかな、それでも確かに魔法が使えてるぞ、私!
体力アップのトレーニング以外に魔法のトレーニングもしようと決意を新たにする。
本格的な魔法は魔法ギルドに行かないと覚えられないのかな。とりあえずは図書館で調べてみよう。
この後大木の根元に手のひらから水をかけてみた。
これから仲良くしてねと気持ちを込めた。
朝食後、買い物に出かけるため北噴水広場から中央噴水広場に転移。まずは食器と調理器具を買おう。
とりあえずは四人セットX2。マグカップとお皿。シリアルボウルとナイフにフォークにスプーン、ポット。
あ、お箸がある。街はヨーロッパ風だけど日本食とか食べられるのかなぁ。お米、あると良いなぁ。
調理器具を探していると調理スキルは持っているかと尋ねられた。持っていたら初級セットという便利道具とやらが買えるそうだ。
初級じゃないのが欲しいから関係ない。
まな板と包丁。フライパンにお鍋にお玉。菜箸も欲しい。そしてフライ返し。ヤカン、ボウル、泡立て器、計量カップ。
手軽な秤や計量スプーンが見当たらない。
一つ一つ吟味して買った。課金でね。
最初はこれくらいで良いかな。
全部一から揃えるってけっこう大変だ。
まだお金がある分マシなんだけど。
余計な買い物をしたり、逆に買い足りなかったり
次はちゃんとメモを取ろう。
転移が使えるようになったので買い物にも出やすい。
次は手芸用品店。カーテン用の布。クッション用の布と中綿。ハサミと針と糸。物差しとメジャー。刺繍針と刺繍用の枠と何色もの刺繍糸。レースを編んでカーテンやベッドカバーにしようかな。それはまた次で良いか。一山いくらのハギレとりどり。パッチワークやアップリケにしよう。
それとインベントリ隠しに使う大きめの布バッグ。ちょうど良さげでシンプルなショルダーバッグを見つけた。これにしよう。これに刺繍をしても良いかもしれない。
まずはこれくらいにして一度ホームに戻ろう。
まだホーム持ちは少ないかもしれないので念の為に噴水の側まで戻って転移する。
ホームに戻って買ったものの整理をする。食器は一人分以外はインベントリへ。その他は作業台の引き出しや下に入れる。
ショルダーバッグの底の方にインベントリのバッジを着ける。
時間は8時少し前。HPは24/28。まだポーションを飲まなくても良さそうだ。
ダドリー氏のところに行くのにも時間がある。
朝市まで行って食材を買ってこよう。途中でポーション飲めば歩けるだろう。
買い物ついでに商業ギルドの場所も聞いてみよう。
飲み物を取り出して一服したら出掛けよう。
そこに蓮華達からコールが届いた。
「もしもし?」
「もしもし、ルー姉?蓮華です。これからそちらに向けて出発します。海に出て船で直接アメジスティアの港に行くよ」
「ゆーらだよ。あのね、陸路でアメジスティアに行こうとすると途中に大地溝帯ってのがあるんだって。山脈から海まで繋がった長くて深ーい谷なんだって。」
「その谷の急な崖を登り降りするルートと吊り橋を渡るルートもあるんだけど時間もかかるし船で行くことにした」
「そうなの。船の方が早いのね」
「うん。天気の具合にもよるけど最低半日は早く着くって」
「順調なら明後日の午前中に着くって。だからお菓子作って待っててねー」
「まだこちらで調理したことないけど努力しましょ。二人とも気をつけて来て。着いたら連絡してね」
「うん、それじゃね」
「またねー、バイバーイ」
「はいはい、またね」
休んで話しているうちにHPも戻っていた。
では出かけよう。ウエストポーチとショルダーバッグをつけた上からマントを着る。
市役所前の噴水広場から中通りを歩いて南下する。
そろそろHPが10を切るところに転移ポイントを発見。
登録してポーションを飲む。何度飲んでも不味いなぁ。
更に少し南下した辺りから朝市の出店が広がる。
一つ一つ覗きながらパンに小麦粉。砂糖。卵。
何種類かの野菜、果物、ドライフルーツ。
肉は一角兎(西の草原の弱い魔獣)と森鳩(東門の外の森の中に住んでいる鶏より大きめの鳥)とブタ(同じく外の森のイノシシのような魔獣)と牛(西の草原の野牛のような魔獣)がポピュラーみたいだ。試しに4種類とも買ってみた。
ミルク、バター、ヨーグルト、チーズ。乳製品は西の草原に点在する集落で飼われている毛が長くて内側に湾曲した二本のツノのあるムームという大きくて大人しい動物の乳だそう。話に聞くとヤクに似てる気がした。ミルク以外にも繊維として春の初めに毛を漉いてふわふわの下毛を取り、夏の初めに全体の毛を刈り取るのだそうだ。毛皮も肉も角も利用できるけれど滅多には屠殺しないそうだ。
見慣れた物、珍しい物。インベントリに入れると腐らないからついつい色々買ってしまった。
朝市コーナーが途切れた辺りにもう一つの転移ポイントを見つけた。登録して残りHPの確認をする。
んー、ゆっくりと買い物してたからかまだ半分ある。
商業ギルドの位置を聞いてから考えよう。
丁度飲み物を売っている出店がある。
見てみると何かのお茶に刻んだフルーツを浮かべたものだ。
聞くと外の森に生えている木の葉のお茶だそうだ。
一杯買ってみるとスプーンがついていた。
水路の淵に座ってフルーツを掬いながらいただく。
ほぼアップルティー味。
容器とスプーンを返して商業ギルドの位置を尋ねると大噴水広場から東門に伸びる大通りの北東角だそうだ。ついでにと南東角が生産ギルドで西門への大通りの北西角に冒険者ギルド、南西角が薬師ギルド。他には西門近くに農産、東門には林業、港近くには漁業の、そして魔法ギルドは図書館の東隣にあると教えてくれた。
ではさっき登録した転移ポイントから大噴水広場に転移しよう。
(中通り三条-大噴水広場 転送)
見回して方角を確かめて東に向かう。
噴水は丁度東西の大通りと中通りから伸びる線の交わる中心点に当たる。
角々の立派な建物が各ギルドのようだ。
商業ギルドには数枚の紙と天秤の皿の上にコインが乗った意匠の看板が掲げられていた。
中に入って見回すと掲示板に貨幣を示すポスターが貼ってあったのでまずそれを見てみる。
1Z、5Z、10Z、50Zはそれぞれ大きさと形の違う銅貨。100Z、500Zは同じくな銀貨。1,000Z、10,000Zは金貨。100,000Zは白金貨。1,000,000Zはミスリル貨だった。
とりあえず六百万Z預けようと思うのでミスリル貨で6枚か。
宝箱に入ってたのは金貨のようだったけどミスリルで出てくるかなぁ。
窓口に近寄っても他の客や職員の話し声が聞こえない。口は動いているから何か音を消す魔法でもあるんだろう。
流石にお金や商売に関わるギルドと言える。
空いている窓口に近寄り声をかけた。
「すみません。口座の開設と預入をお願いします」
「いらっしゃいませ。ではこの用紙にお預けになる金額をお書きいただいてカードと共にお出しください」
その場で書いてカードと共に渡す。
「ではこちらで手続きいたしますのでおいでください」
周りから見えないように工夫されたコーナーに案内される。
なるほどどれだけの額を出し入れしたのか周囲にわからないようにしているんだな。
ショルダーバッグに手を入れて六百万Zと念じるとちゃんとミスリル貨が6枚出てきた。
「これでお願いします」
「はい。確かにお預かりいたします。しばらくお待ちくださいませ」
カードとミスリル貨を受け皿に乗せ、後ろにある魔道具にそれぞれセットする。カードとコインが吸い込まれ再びカードが出てきた。
「ローレ様、お待たせいたしました。カードにも登録できておりますのでお確かめください」
受け取ったカードの表面に先ほどまで無かった商業ギルドのマークが小さく記されていた。次に裏面をみる。
あら?ステータスだけしか見えない。
「下の方に表示されていますので指でスクロールして見てください」
首を傾げた様子を見て係員に教えられた。
スクロール機能もあるのかぁ。
はい。ちゃんと残高6,000,000Zとあります。
「はい。確かに。どうもありがとうございます」
「またご利用をお待ちしています」
相互に会釈して立ち去る。
ちょっと緊張した。
それにしても高機能なカードだ。
まあ、ゲームデザイナーがそう設計したんだけど。
時間はまだあるね。ではホームに帰る前にタクシーで転移ポイントをできるだけ回ろう。
近くを飛んでいたピクシーに声をかける。
「ピクシーさん、タクシーをお願いします。一人で。もし足の速い人がいたらその人でお願い」
ピクシーは頷くとしばらく周りを見回していた後に一方を指差した。
みると一台の小ぶりのタクシーを引いた鹿の人とピクシーがこちらに向かってきている。
立派な角の持ち主だ。
「お待たせしました。どちらまで参りましょう?」
「中通り沿いの四つ以外の転移ポイントを回りたいのですが午前のうちに回れますか?」
「十分ですよ。ではお乗りください」
ピクシーにお礼を言って乗り込んだ。
流石に鹿の人の足、速い!
熊の人も速いと思ったけれど数段速かった。
まず南へ向かって中央通り七条のポイント。
さらに南の海の側の港中央のポイント。
そして港西、西大通り七条、西門ポイント、西大通り三条、西大通り一条、東大通り一条、東大通り三条、東門、東大通り七条、最後に港東と合計十二ヶ所を巡り登録して行った。すでに登録したのを合わせて十六ヶ所のポイントがこの街にはあった。
昨日ザンカさんがこの街は転移ポイントが他所の国の首都よりも沢山有るって言っていたな。
「長い距離をありがとうございました。おいくらになりますか?」
「920Zいただきます」
「では1,000Z受け取ってください。急いでくださったのでチップです」
何度もお礼を言われたがHPを減らさずに回れたのでありがたかったんですよ。
まだ時間があったので降ろしてもらった港東から少し海を見てみた。
港には大小の船が浮かんでいる。漁船も客船も貨物船もあるようだ。
港の東西は少し南に丸く岬が張り出していて波も穏やかで綺麗な砂浜になっている。夏は海水浴場になるのかもしれない。
東西の岬の沖にはそれぞれに高い塔が立っていて先端が強くキラキラと光っている。
港の端の方では釣りをしている人もいた。
近いうちにまた来て釣りについて聞いてみよう。
今はお腹も空いているのでホームへ帰ろう。
人影もまばらだったのでそのままホーム転移を試してみた。
そろそろ書溜め分がつきました。
次話以降不定期投稿になります。