人もすなるVRMMORPGといふものを、我もしてみむとてすなり-4 不思議仕様は素敵
市役所を出て北噴水に近寄る。
行き先は少し大噴水寄りだったから一度大噴水に寄ってそこからタクシーに乗ろうと思う。
北噴水の淵に触って(大噴水へ)と念じてみる。
〈行き先・中央大噴水広場 最小魔石 1 or 魔力〉と表示された。
今回は魔力で。(ポチッ)
〈転移します 5・4・3・2・1〉
カウントの後、ふっと周りの景色が変わった。
今回は近いからかガイアから降りた時よりも一瞬で浮遊感も無かった。
見回すと確かにアメジストの噴水広場に立っている。
おお、便利だねぇ。
どれくらいの魔力を使ったか確認しよう。
(ウィンドウ・オープン)
あれ?減ってないね。そういえば森でも鑑定使ったけど。鑑定に使ったMPは自然回復してて且つ転移にほとんど使わないのか、鑑定にもMP使わないのか……そのうちまた検証しよう。
空を見上げてピクシーを探すとすぐに気がついたのか一人降りてきてくれた。
「ピクシーさん、タクシーを一台お願いしたいの。東外通りの建築設計事務所まで」
頷いたピクシーはこっちへ来いと身振りで示すのに従って少し東に移動すると一台の人力車が一人のピクシーと現れた。
今度の人は大きなトカゲの人みたい。服を着ているので獣人だと判る程度の獣度。
「まいど。どちらまで?」
「アメジスティア建築設計事務所までお願いします」
「了解です。どうぞ乗ってください」
ピクシー達にお礼を言って乗り込んだ。
東外通りも東側に立派な建物が並んでいる。
アメジスティアは豊かな街のようだ。
しばらく進んだところで車が停まった。
「着きました。70Zになります」
「はい。ありがとう」
お金を渡して降りた
『アメジスティア建築設計事務所』と書かれた大きめの窓からカウンターとその奥に応接セットと事務机などが見える建物のドアを開けて入った。
「ごめんください。ホームの設計と施工をお願いしたいんですが」
「いらっしゃいませ。ホームの設計は一からですか?」
奥から年配のドワーフの男性が現れて言った。
体型はドワーフだけど髭も無いし髪も短く整えられている。
「ええ、先程市役所で土地の契約をしたのですが特殊な注文のようでオリジナルの設計になると言われました。これが紹介状です」
ポーチから封筒を取り出して渡す。
「拝見します。どうぞこちらにお座りください」
応接セットに案内されると別のドワーフらしき男性がお茶を運んできてくれた。
「ローレ様ですね。私、この事務所の所長をしておりますダドリーと申します。大木に家を作られたいとのことですが」
「はい。西の森の土地を手に入れましたらとても大きな木が生えていまして。子供の頃に童話で読んで憧れた木の中の家やツリーハウスが出来れば良いなと思ったんです」
「なるほど。私も憧れましたな。では一度現地を拝見させてください」
「わかりました。これからでもよろしいですか?」
「はい。まだ日も高いので早速お願いします。タクシーを呼びましょう」
ダドリー氏は奥からカバンと上着を持って出てきた。
一緒に表に出るとピクシーを呼んだ。
「タクシーを2名で頼むよ」
間も無く今度も熊の人が引く人力車が現れた。
前の人とは違うより熊らしい風貌の人だ。
「西の森の湖まで頼むよ」
「へい、どうぞ」
ダドリー氏は私を先に乗り込ませると隣に座った。
「タクシーって二人乗りなんですか?先ほど乗った車も二人掛けみたいでした」
「いえいえ、もう少し大型のもありますよ。四人乗りや六人乗りは二人掛かりで引きますが」
湖の入り口で降りて契約した土地の入り口まで案内する。
「まだ契約してから中に入ったことがないんですがどうすれば良いかご存知ですか?」
聞くと鍵を持って入ろうとすればガイドが流れるらしい。その時に同行者の許可を出せば一緒に入れるとの事だった。
ポーチから鍵を出して近づくとポーンと言う音とともにガイドの音声と文字が流れた。
〈ホームの設定が可能になりました。システムウィンドウから設定をしてください〉
見るとログインポイントの設定、転送ポイントの設定、進入許可対象の設定、許可範囲の設定などが現れた。
ログインポイントと転送ポイントは森の奥の草地にしたいので後回しにしてダドリー氏の同行だけ許可した。
「ではどうぞこちらへ。奥に大木と泉のある草地がありますのでそちらにお願いします」
せせらぎ沿いに奥へと案内する。
「おお、立派な大木ですね。草地も広々として日当たりも良いし泉の水も綺麗ですね。良い土地を手に入れられましたな」
ダドリー氏はそう言って褒めてくれた。
「この太さでしたら問題はありませんぞ。入り口の扉をこちらにつけて空間拡張で部屋を伸ばして……」
あちこち取り出したメジャーで測りながら途中から独り言になっているダドリー氏だった。
「大体目処はつきました。後はまた事務所で間取りや内装などの相談をいたしましょう」
「あ、その前にホームが完成するまで使うログハウスの設置をしたいのですが」
「ログハウスキューブをお持ちなんですな。家具などはもう設置されていますかな。まだ空っぽ?でしたらキューブをお持ちになってくださったら設備や家具のご相談にも乗れますぞ」
ダドリー氏の口調が少し変わってドワーフらしくなってきた気がする。
「では一度キューブを拡げてホームの設定をさせてください」
「いや、最初はログハウスの外に設定した方がよろしいですぞ。そうすれば次は転移で帰ってこられますからな。設定してから動かすと座標が変わって事故の元じゃ。後で改めてログハウスの中に設定し直しなされ。それとは別に一度ログハウスの中を拝見できますかな」
なるほどです。
木や泉から少し離れたところにキューブを置いてノックする。トントン。(キューブ拡げる)
無事ログハウスに変わった。ダドリー氏と一緒に中に入った。
「ほうほう、なるほど。ロフトもあるタイプですな」
「ええ、ロフトにベッドを置こうと思います。後はキッチンとテーブルと椅子とソファーがあれば良いかと。ああ、お風呂もあると嬉しいですが」
ゲーム内は排泄行為の無い設定だと言うのは聞いていたのでトイレは必要ないけれどお風呂には入りたいのです。
もしかするとお風呂も必要の無い設定なのかもしれませんが、当分現実の体でお風呂に入れない私には癒しとして絶対必要な施設なのです!
「出来ますぞ。バスルームとして増設しますか?すでに出来ている拡張オーブもありますよ。でなければ部屋の隅に衝立を置いて設置することも出来ますが湿気が気になりますな」
「とりあえず拡張の方向でお願いします」
ログハウスから出てキューブを閉じた。
それから大木の根元近くでホームとログイン地点の登録をした。
再びタクシーに乗って事務所に戻る。
「ではまず大木の家のご希望を聞きましょう。どんな部屋を何部屋くらい必要ですかな」
「まずリビングとダイニングは同じ部屋で良いです。その分広めで家族や友人が集まれるようにしたいです。その隣には二人の人が並んで料理できる程度の広さのキッチンを。後は私のベッドルーム。ツリーハウスのように木の上にあると素敵だと思います。外に出られる窓とテラスが付いているとなお嬉しいですね。部屋に置くものはベッドとベッドサイドテーブル。書き物をする机と椅子。本棚と読書をするカウチが置ける広さが欲しいです。それにクローゼットも。他には客間が一つ。バスルームもベッドルーム近くに欲しいです」
ダドリー氏はメモを取りうなづきながら聞いていた。
「なるほどなるほど。いくつかデザインのたたき台を提案しますでな。明日また来ていただけますかな。明日の午後なら大丈夫ですじゃ」
「はい、わかりました。あのぉ、午後って何時からでしょう?」
「13時からですぞ。12時が正午じゃ」
「では明日の午後にまたお訪ねしますね」
「お待ちしとりますぞ。次にログハウスに移りましょう。裏の工房まで来てくだされ」
どんどん口調が変わるダドリー氏に付いて奥に行くと広くて天井の高い倉庫のような場所に通された。
「ここで一度ログハウスを拡げてくだされ。その間に儂はバスルームのオーブの用意をしますでな」
なんで最初から今の口調で話さなかったのかな。
ともあれキューブを拡げてログハウスにする。
ダドリー氏が三つの水晶玉を持って来た。
「今すぐ設置出来るのはこれくらいですじゃ。試しに設置してみましょう」
三方の壁に一つずつバスルームが設置される。
その中でこじんまりとしているが洗面と脱衣スペースがあり仕切りを隔てて洗い場とバスタブとシャワーの付いた天窓のある魔導バスルームに決めた。水もお湯も排水も魔晶石とやらで管理される不思議仕様。
改めてバスルームの位置を決め直し、次はキッチンスペース。こちらは木の家のキッチンより簡易タイプで魔導コンロと魔導オーブンと作業スペースが付いた中古の魔導流し台を設置する。
「しめて20,000Zですがよろしいかな?では次は家具なんじゃが近所に知り合いの店があるからそこで買われてはどうかの。勉強させますぞ」
工房から裏口を出て少し行ったところの店に案内された。
「ここも裏に工房があるんでオリジナルの注文も受けておりますぞ。気に入ったら贔屓にしてやってくだされ」
出て来た店員に主人を呼んで来させる。
「おお、アンガルス。お客を連れて来たぞ。うちが家を作る間のログハウスに置く家具をご所望じゃ。お気に召したら新しい家の家具も買ってくださるかもしれん。勉強しておくれ」
「いらっしゃいませ。店主のアンガルスです。ダドリーの紹介でしたらもちろん勉強させていただきますよ。何がご入用で?」
出て来たご店主はエルフ?ヒューマン?ハーフかな?
そのどれとも取れる風貌の持ち主だった。つまりエルフにしてはちょっと地味め……若々しくも無いし……
売ってる品物が良ければ関係のない事だけどね。
「ベッドと大きめのテーブルと椅子を数脚。それとソファーと照明器具が欲しいです」
「寝具は入り用ですか」
「扱いがあるならお願いします」
「ではまずベッドから見ていただきましょう」
言われて案内されシングルベッド、寝具、テーブル、椅子を四脚、ソファーを選んでいく。
照明はキッチンの上に一つテーブルの上に一つ、ベッドサイドに一つ置くことにする。これらも魔石を使って光るらしい。
魔石や魔晶石って電池みたいなものかな。
全部で12,000Zになった。
買った家具を大きめのマジックバックに入れてダドリー氏の工房まで運んでくれる。
そのままログハウスに搬入し設置してもらった。
ログハウスをキューブに戻してウエストポーチに仕舞う。
「お二人ともありがとうございました。明日の午後にまたお伺いしますね、ダドリーさん」
「その時までに見積もりもしておきますぞ」
東外通りまで二人で見送りに来てくれた。
さて時間的にはそろそろ夕方近くかな。
今晩と明日の朝の食事の用意を買っておかないと。
二人に食料品店の場所を聞いて呼んでもらったタクシーに乗る。
教えてもらった食料品店は中央噴水広場の少し南だった。
とりあえずはそのまま食べられる物を買っておこう。
調理道具や食器などは明日の午前中をショッピングタイムにしてその時に買おう。
朝に屋台で見たような肉と野菜をクレープで包んだもの、串焼き数本、サラダとパンとバター、果物、瓶に入った飲み物数本を購入。これらは課金から払った。
ついでに店の女将さんにおすすめの食器や調理道具の店、雑貨屋、手芸用品店などを教えてもらう。
包んでもらった食品をウエストポーチに仕舞いアメジストの噴水に向かう。
噴水に触る前に試しに(ホームへ転移)と念じてみる。
やった!ホームには転移ポイントを使わずに戻れた!
不思議仕様万歳!