人もすなるVRMMORPGといふものを、我もしてみむとてすなり-3 ゆりあは住む所を決める
食堂を出て階段を降りて二階の窓口へ戻る。
「すみませーん。さっきお願いしたものですが」
「はい。お待ちしていました。もう案内してもよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「近いので歩いて行きましょうね。ではどうぞ」
市役所を出て少し歩くと森の中に美しい湖が見えた。良かった、割と近かった。
湖の水は澄んでいて岸近くにカキツバタやアイリスに似た花が咲いている。
睡蓮のような葉っぱも浮いているのでそれにもこれから花が付くかもしれない。
森も美しく色んな種類の木や草花が見えて植生も豊かそうだ。
良いところだなぁ。高原の別荘地の雰囲気もある。
周遊路は散歩やジョギングするのに良さげ。
湖の周遊路をまた少し行くと森から細い流れが湖に流れ込んでいた。
「この辺りから北が該当する土地です。静かで少し寂しいかもしれませんが市役所や大通りにも近くて穴場だと思います。湖の南の森の小道を抜けてその向こうの住民がよく散歩に訪れますよ」
そう言って森の中に入って行く。
「こちらは現在私有地扱いになっているので所有者か所有者の許可が無いと入れません。許可範囲も指定できます。そしてここがS級である理由があちらの大木と泉にあります」
周遊路から見えないくらいに奥に入ったところが開けた草地に成っていて何の木か巨木と言えるほど高い木が生えていた。
何人も、それこそ何人もで手を繋がないと囲えない程太い大木だった。
香りの良い白い花を沢山つけている。
素敵!
草地の隅には綺麗な水が湧き出し小さな泉を作り、そこから湖にせせらぎが流れている。
素敵!素敵!
そして木と泉にそれぞれピクシーが一人ずついる。
「ピクシーがいますね」
「この街の特別な場所には常駐するピクシーがいるんですよ。湖にも数人います」
なるほど。それだけ特別な場所なんだ。
あら?草地の端に何だか見慣れた植物がある。
ヨモギとスイカズラ、あれはドクダミかな?
近寄って匂いを確かめる為少し千切ろうとしたが弾かれた。
「ああ、私有地の植物や石などは所有者で無いと取れません。まだ契約されてないので」
そうなんだ。私有地では入れないし取れないのね。
でもこの土地を自分のものにしたら摘んでも良いんだね。
これが思った通りの植物なら、昔、田舎の祖母が作っていた野草茶が作れそうだ。
あ、確か鑑定のスキル取ってたな。試してみよう。どうすれば良いかな。
取り敢えず(鑑定!)
●ヨモギ
食用。薬用。
□□□□□……
出来た。読めない部分があるのはまだランクが低いからかしら。
それではあの大木は何でしょう。(鑑定!)
●□□□□□
食用。薬用。□□□□□……
利用部位□□□□□……
四季!ごとに□□□□□……
アメジスティアに三本□□□□□□□……
こちらは名前も出ないね。でも使い道がありそうだ。
「あの木は何て言う種類の木ですか?」
「えーっと、ファイルには記載がありませんね。私もあまり植物には詳しくないので……すみません」
ファイルを拡げながら申し訳なさそうに言われる。
軽く手を振って謝辞を表す。
「家を建てるならこの草地でしょうか。表の道沿いの木もあまり切りたくないので」
「建築屋が移植してくれますよ。この森の所有者には環境保全の義務があるので伐採には市の許可が必要ですが移植する事は問題ありません。新しい木に植え替える事も可能です」
所有者でも好き勝手に開発出来ないようにでしょうね。
同意です。
木がまばらなところもあったのでそちらに移せば良いだろう。
「結構大きな木がありましたが移植の費用が高いんじゃないですか?」
「大きなマジックバッグかインベントリと土魔法があれば簡単ですよ。植え替えたい木を収納して新しい場所に土魔法で穴を掘って植えるだけですから」
ホォォォ、魔法便利ーーー!
「あ、それとこの土地には小さいですがログハウスが付いていまして」
「ログハウス?どこにですか?」
「これです」
そう言うとファイルから5センチ角ほどのキューブを取り出した。なんとも不思議ファイル!
キューブの各面には八方向から見た可愛いお家の絵が描かれている。
「このキューブを希望の個所に床面を下に置いて起動すると」
草地にキューブを置いてトントンと二回ノック。目の前に小さいながらちゃんとしたログハウスが現れた。またまた不思議仕様!
「二回ノックしてキューブ拡げると唱えるか念じれば大きくなります。中はロフト付きのワンルームで何も設置されていませんので家具など備える必要がありますが」
と言ってドアを開けてくれる。
中は良くあるワンルームの学生マンションよりは広い。窓もロフトも付いているので一人で暮らすには十分だ。少人数なら泊められそう。
「家を建てるまでこちらに住むことも出来ます。空間拡張のオーブを使って部屋を増設することも可能です」
空間拡張。またまたまた便利な不思議機能。
「ログハウスを仕舞う時には外側から壁を二回叩いてキューブ閉じると念じればキューブに戻ります。家具など設置されていてもそのままで閉じられます」
「これがあれば野宿する時にもテントが要りませんね」
「魔獣よけの結界は付いていませんので街の外で利用する場合は結界のオーブの追加にテントを買うより高くつきます。テントはすでに結界付きですから少人数ならずっと安いんですよ」
成る程。
外に出てキューブを閉じてみる。
トントン。(キューブ閉じる)
足元にコロンとキューブが転がった。
ああ、でもあの大木。ツリーハウスとか作れないかしら。
子供の頃に読んだ童話に大きな木そのものが家になってるのがあってそれにも憧れたなぁ。
そう言うふうなことを声にだすと担当者が答えてくれた。
「可能ですよ。オリジナルな設計になるので時間は少しかかりますが、拡張オーブのアレンジで木に扉をつけて部屋をつなげたり窓を設けたり出来ます。木そのものには傷も付かず影響もありませんからこの木を使われても大丈夫ですよ」
「決めます!この土地にします。拡張オーブの設計と設置はどちらにお願いすれば良いですか?」
「後ほど市役所に戻って地図と紹介状をお渡ししますね。森の環境保全の為にも安心して任せられる業者を紹介します」
「あ、それと周りの土地は買い足すことは出来ますか?」
「湖の南側以外は可能ですね。ただ防壁の内側5メートルは公用地になるので除外です」
「ここだけでもかなり広いですが湖の北側をもっと欲しいですね。それと土地や建物を人に貸すことは出来ますか?」
兄達が来たら独立した家を欲しがるかもしれない。
「所有者なら貸せます。追加の広さや価格は市役所に戻って相談しましょう」
市役所に戻り、今度はカウンターの奥のソファーのあるスペースに案内された。
湖の周囲の詳しい地図が目の前に広げられる。
湖北の森には他にも湧き水の流れる小川や木の生えてない草地がまだいくつもあるようだ。
数区画に分かれていたが湖北側の区画全部でも金銭的にはまだまだ余裕があった。
何しろ99,999,999Zだからね。あ、今は少し減ってるか。
でも家も建てないといけないし。
「家の予算を確認してから契約でも良いですか?最初の大木の土地はこのまま契約したいですが」
「結構ですよ。一応念の為六日ほどは売約有りにしておきます。まぁ当分買い手は現れないとは思いますが。では手のひらをホーム券ごとページに押し当ててください」
言われた通り手のひらとホーム券をファイルのページに押し付けると吸い込まれて消え、契約済みの文字が浮き上がった。と同時に《市民Levelが5に上がりました。SP8ポイント追加されました》と通知が来た。
一挙に四つも上がってしまった。ホームを手に入れたからみたい。1レベルごとに2ポイント手に入るのか。もう少し落ち着いたらスキル屋を覗いてみよう。
「これで個人登録も済みました。では土地に入る鍵と先程のキューブ、それと建築家への紹介状と地図もお渡しします。この鍵は最初に所有地に入る時にお使いください。二度目からは必要ありませんがどなたかに入る許可を出したり区域を制限する時に必要ですので大事に保管してください。再交付は出来ますが高くつきますから」
そう言われて一本の銀色の古めかしい鍵とキューブ、それに封筒と一枚の地図を渡された。
一つずつポーチに仕舞って最後に地図を手に取ると体に吸い込まれて消えてしまった。
驚いていると担当者が教えてくれた。
「マップと念じると浮かびますよ。マップは基本的にご自分が移動された部分しか表示されませんが地図を手に入れると地図の内容は表示されます。書店などで地図を買われても有効ですが詳しい地図は高いですし他国の地図はアメジスティアでは手に入りません」
そうなんだ。では試してみよう。(マップ!)
目の前に現れたウィンドウに地図が表示された。
中央の大噴水から今まで通った道のりがくっきりとそして街全体の内主な通りが少し薄く表示され東外通りの中程にマークが点滅して《アメジスティア建築設計事務所》と表示されていた。
そこそこ距離があるからタクシーを使おう。
「ありがとうございました。六日以内にできるだけ早くまたお伺いします」
「はい。お待ちしております。気をつけて行ってきてください」
2018/4/14.市民レベル・SP追加しました。