人もすなるVRMMORPGといふものを、我もしてみむとてすなり-2 ゆりあは市民になる
走り出した熊人タクシーは結構なスピードで北に向かう。
そう言えばリアルの熊ってパワーもスピードもあるんだっけ。
獣人も元になる動物によって能力が違うのかも。
さっき屋台で鳥人らしい髪が羽毛になってる人がいたけど鳥人って飛べるのかな。
上空を見ても人が飛んでる姿は見えない。飛んでるのはピクシーだけ。
なんて呑気に考える間もなく市役所に着いた。熊人さん、早い!
「着きましたぜ。62Zになりやす」
「ありがとうございました。はい、62Z」
「まいどありっす。また頼んます」
「こちらこそお願いします。では」
人力タクシーから降りて周りを見回す。
確か左の建物が市役所だったね。その前の広場の噴水も転移ポイントだっけ。
市役所に入る前にポイントに登録しておこう。
どうすれば良いのかな。
こちらの噴水の中央には銅像が建っていた。
左手に本を、右手に曲がりくねった長い杖を持って先の折れたつばの広い三角帽をかぶり長いローブをまとったいかにも大魔法使いって風情の長い髭のおじいさんが南を向いて立っている。
噴水に近寄り縁に手を置いてみると目の前にウィンドウが現れた。
〈転移ポイントに登録しますか Yes No〉
(Yes ポチッ)
システムウィンドウを呼び出し確認してみる。
転移欄は……あった。
転移-ポイント-アメジスティア
|-中央大噴水広場-ログインポイント
|-北噴水広場
うん、ちゃんと登録できた。
ではいよいよ市役所に入りましょう。
入ってすぐに総合受付のようなカウンターがあった。
「すみません。この街に来たばかりなのでカードの登録をお願いしたいのですが」
「テランの方ですね。ようこそアメジスティアへ。登録受付は突き当りのカウンターの左端から三つの窓口で受け付けております」
「ありがとうございます。それからホームの購入や近くでポーションが買えるところを教えてもらえますか?」
「ホームはここでなら左の階段で二階に上がっていただいて二つ目のカウンターでご相談ください。商業ギルドでも同じ情報で購入することができます。ポーションも街中の薬屋や雑貨屋でも買えますが、ここの地下の購買部でも扱っております。仕事が忙しくなった職員の需要の為ですからあまり高級な物は置いていませんが」
「こちらで全部の用事が済むのはありがたいです。欲しいのは初心者用ですので間に合いますね。ありがとうございました」
「いえ、ぜひアメジスティアで楽しい生活を送ってくださいね」
軽く会釈を交わして登録窓口へ向かう。
「すみません。登録をお願いしたいのですが」
「カードの登録は初めてですか?テランの方ですね。市役所で登録されるテランの方は珍しいですね。みなさん大抵ギルドでされているようですので。ではこちらの用紙にお名前などをご記入ください。最低お名前だけでも構いません」
渡された用紙をじっと眺めると現地語らしき文字で書かれた項目の上に日本語が浮いてきた。
言葉も文字も自動翻訳されるって設定なんだね。
じゃあ言語スキルってなんだろう。
わざわざスキルがあるって事は自動翻訳されない言語もあるってことだな。
項目は氏名・年齢・種族・職業・出身地などだ。
年齢と種族は内緒で職業もまだ決めていない。日本語で氏名と出身地だけ記入すると書いた文字が現地語に変化してまたその上に日本語が浮かぶ。
もう一度用紙をまじまじと眺めた後係員に渡した。
「ルーリ・リーラ・ローレさん、テランの日本のご出身ですね。ではこちらの石板に片手のひらをおいてください」
半透明の石で出来たプレートを示される。
手のひらを当ててみるとポゥッと発光しだした。
「はい、結構です。カードをお作りしますのでしばらくお掛けになってお待ちください」
指し示されたベンチに座って待っていると名前が呼ばれた。
「こちらがルーリ・リーラ・ローレさんのカードになります。個人登録されていますので他の方には使えません。また、各ギルドと共通で使えますのでギルドに登録される時は窓口に出してください。裏面はステータスなどが表記されます。こちらも本人のみで他人は通常見ることが出来ません。各窓口では了承を得て確認する場合があります。もし紛失された場合、再発行に1000Z必要になりますのでお気をつけください」
1000Zか、高いみたいだけど高機能だから仕方がないかな。
「また各国の商業ギルドにて口座を開設しお金を預けて出し入れするのにも使えます。またカードから直接精算する事も出来ますので多額の支払い時には便利ですよ」
おお、銀行カードにキャッシュカードの機能もあるのか。ますます高性能だ。
受け取ってお礼を言う。
近いうちに商業ギルドにも行って口座を開いておこう。
受け取ったカードをさっきのベンチに座って眺めてみる。
表面は白地に紫色で縦長のクロスと斜めのクロスが重なっている。
イギリスの国旗を90度回転させたみたいだ。
アメジスティアのマークかな。
裏面には名前と偽装済みの種族と各ステータスが表示されている。
アメジスティア市民Level1と新たな表示もあった。
市民にもレベルがあるんだね。貢献度とかで上がるのかな。
偽装もちゃんと効いていて安心する。
無くさないようにポーチに仕舞っておこう。
さて、次は購買部に行ってこよう。ポーションは沢山持ってないと不安だ。
左端の階段を降りるとすぐに購買部があった。結構色々な品物がある。
えーっとポーションは、と。有った!
三種類ほどのポーションが並んでいる。
初心者ポーションは50Z。他の二つはそれぞれ五級ポーション100Zと四級ポーション150Zだった。
リアルで言うドリンク剤だな。傷も治すけど。
小さなアンプルもあって1/10初心者ポーション5Zとある。小さな切り傷擦り傷にかけて使うみたい。これなら子供のいる家庭の常備薬に出来そうだ。
ポーションの空き瓶は十本1Zで引き取ってくれるらしい。砕くと消えてしまうからリサイクルに協力をってポスターが貼ってある。エコ!
さっき串焼きに15Z、タクシーに62Z払ったからポーチには923Z残ってる。
とりあえず10本をカゴに入れる。
残り423Zか。
他に何かあるかな。
文房具にパンや飲み物の軽食、ちょっとした雑貨。高校の購買部程度の品揃えかな。
これは何かな。クロレラの錠剤によく似た小指の爪ほどの緑色の塊が小さな籠に入っている。
一つ5Z。
「すみませーん。これって何ですか?」
店員さんに訊いてみる。
「それ?スライムの魔石ですよ。テランの人ですか?珍しいですね。あまりここまで来る人いないのに。初めてのテランのお客さんですよ」
「スライムの魔石って転送に使う?」
「そうそう。一つで一回、この街の中ならどこにでも飛べますよ。12個買ってくれたら巾着に入れますがどうですか?」
「12個で60Zね。買ってみようかな。後は初心者ポーション10本とこのノートと鉛筆一つずつでおいくらになりますか?」
「魔石が60、ポーションが500、ノートが30で鉛筆が10。鉛筆を削るのに小さいシャープナーは要りませんか?25Zです」
「あ、お願いします」
「では全部で625Zになります」
ポーチから出したお金と交換に品物を受け取ってポーチにしまう。
「ありがとうございましたぁ」
と見送られて購買部を出る。
残りは298Z、インベントリから少し足しておいたほうがよさそう。
階段の陰に隠れて3000Z取り出してポーチに入れておく。
現在ポーチの中には3298Zと初心者ポーションが14本、ノート、鉛筆、シャープナー、それとナイフとホーム券が入っている。
さて二階まで階段を上がりましょう。
う、疲れて来た。一階上がるだけでも結構疲れる。
ゆっくり二階まで上ってポーションを一本飲んでおく。
ふぅ、まずーい。もっと上級のポーションだと飲みやすくなるのかな。もっと不味くなったりして……
二階の二つ目のカウンターに声をかける。
「すみません。ホームを購入したいのですが」
「はい。どういった物件をご希望ですか?」
「ホーム券を持っているのでこれに会う物件を教えてもらえますか」
ホーム券を差し出す。
「おお、S級ですね。この街でS級ですとあまり数は多くありませんが……ちょっとお待ちください」
そう言って後ろの棚からファイルを二冊持ってきた。
「建物はこちら。土地のみはこちらのファイルになります」
「拝見してもいいですか?」
ことわってファイルを開く。
所在地、土地と建物の広さ、間取り、詳細ページの番号などが物件ごとに記入されている。
大体は中心外通りの更に裏側の店付きの家屋、外通りに面した三階のフロア、ペントハウスもある。そして少し中心から離れたお屋敷。
ページをめくって詳細を見ると街のどの辺りにあるのかわかる地図や建物や内部の画像も載っている。
画像に指を置くと目の前に拡大して表示される。
「どこか静かなところでのんびり過ごしたいのですよ」
「でしたら土地を購入されて家を建てられるのも良いかもしれませんね」
土地のファイルを手渡されたので開いてみる。
土地だけだと更に広い物件が増えるね。
円形の街の西の端と東の端に農地が広がっている。畑仕事がしたいなら農地だろうけどガーデニング程度でいいからねえ。
市役所の北西の森にも物件があるね。詳細ページを見てみよう。
詳細ページの地図を見ると街の北の部分が森になっていて市役所の東向かいに図書館。広場の北東に魔法大学院。同じく広場の北西に植物園があった。
市役所の北の通りを西に行くと森になっている。
森を更に少し西に行くと小さな湖がありその周遊路の北に面したところに物件があった。
ここなら市役所も図書館も大学院も近いし中心街に行くにも北噴水の転移ポイントも近い。
静かで尚且つ便利そうだ。
宝箱にお金も沢山あるから家も建てられるだろうし。
「この北西の森の物件を見て見たいんですが」
「わかりました。この後すぐに行かれますか?」
どうしよう。あ、お腹も空いてるみたい。EPが50%切っている。
「少しお腹が減っているので食事をしてからでもよろしいですか?」
「はい。食後にもう一度こちらにいらしてください。ご案内します」
「あの、近くに食べられる場所はありませんか?」
「外通り沿いにも何件かありますが、一番近くならここの三階の食堂を利用出来ますよ。簡単なものしかありませんが」
「近いほうが良いので食堂を利用させて貰いますね。では後ほど」
体力ないからちょっとでも近い方が良い。
階段を上がって見回すと南側に面して食堂があった。
席に座ってメニューを開く。確かに数が少ないね。
サンドウィッチとフルーツジュースのセットを頼む。50Z。ポーションと一緒だね。
すぐに運ばれて来た。お味は不味くはないけど屋台のおじさんの串焼きの方がずっと美味しい。
ジュースの方はと言えば何のジュースか判らないけれどオレンジとイチゴにヨーグルトを混ぜたような味でこちらはかなりの美味しさだった。
完食。EPもDPも100%になりました。
HPも、おや26になってる。一つ増えた。疲れてポーションを二回繰り返したからかな。レベルが低いから上がりやすいのかも。毎日少しずつ散歩しよう。そのうちジョギングが出来るほどになるかもしれない。
ちょっと良い気分だ。
急にポポーンと音が聞こえた。視界の隅で何かのマークが点滅している。
見てみるとリュージュからフレンドコールだった。
「はーい、もしもし?」
「ルーリ姉さん?リュージュです。連絡遅くなってごめん。今、大丈夫?あ、こっちではアバターネームでみんな呼んでね」
「今食事したとこ。大丈夫だよ」
「アメジスティアに居るんだよね。どうする?ゆーらと蓮華、優樹と深春のことね。二人が隣のシトロネアに居るんだけど迎えに行かせようか。俺達誰もアメジスティアにならなかったんだ」
「アメジスティアが気に入ったからここに住むことにする。招待オーブでホーム券も貰ったし」
「ホーム券当たったの?良いなぁ。それにもう気に入ったの?早いね」
「この街綺麗で便利そうだし食べ物も豊富で美味しいし魔法大学院があるからね」
「魔法かぁ。楽しみにしてたよね、魔法。ホームが持てるんなら一度みんなでアメジスティアに行くよ。一度行ったら転移ポイントで移動できるし。取り敢えずゆーらと蓮華に向かわせるね」
「えーっと、リュージュだっけ、あんたはどこに居るの?」
「俺が一番遠いかも。パーリッシュにいるんだけど間の山脈が越えられないから遠回りになる。他のみんなを拾いながら行くよ。シトロネラの二人からも連絡させる」
「これからホームの物件を見に行くから夜にして貰ってくれる?」
「了解。じゃあまたね」
「うん。またね」
そっかぁ。甥っ子姪っ子六人ともまだ誰もアメジスティアに居ないのね。
上の姪っ子二人が来るのにどれくらいかかるのかしら。後で聞いてみよう。
そう言えば三人以外のアバター名もどこにいるかも聞いてないわ。それも尋ねなきゃね。
ではさてっと。さっきの窓口に戻りますか。
2018/4/14.市民レベルを追加しました。