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人もすなるVRMMORPGといふものを、我もしてみむとてすなり-1 ゆりあは街の中で遭難する


 足元の魔法陣が光を発し眩しさに思わず目を閉じた瞬間、ふわっと体が浮き上がったように感じた。

 その直後、また重力が戻ったのに気が付き目を開けてみれば目の前に巨大な紫水晶の群晶(クラスター)を中央に置いた噴水が見えた。

 幾本もの紫水晶の間から水がきらめきながら流れ落ちていた。

 そのまま目を空に向けると一際高い一本の結晶が青い空高くそびえていた。


「アメジスト。ああ、アメジスティアだ!着いたんだ」


 思わず声もなく呟く。


 水音の間から聞こえる街のざわめきに周りを見回すとそこは大きな広場の真ん中だった。

 おそらく街の中心部でもあるだろう周囲には数階建ての石造りの建物が建ち並んでいたが中央のアメジストの塔はそれよりもなお高いように見えた。


 ヨーロッパの古い都市のような整った街並みのその上空に何やらチカチカキラキラとトンボのようなものが幾つも飛んでいる。

 その中の一体が目の前に降りて来た。

 あ、ピクシーかぁ。

 そういえばHPにも載っていたね。

 トンボのような羽とミツバチのような目を持った妖精さん。

 可愛いなぁ。

 これでも街のパトロールの一翼を担ってるんだってね。

 思わず人差し指を差し出した。


「今来たばかりなの。よろしくね。ピクシーさん」


 その子は二、三度左右に首を傾げた後両手で私の指先を掴んで握手をしてくれた後すぐにまたついっと飛び去って行った。




「えっと、まず市役所かギルドで登録するんだっけ。いや龍君に連絡するのが先かな?」


 周囲を見回し座る場所を探す。

 ベンチが幾つか置かれているが大抵誰かが座っている。

 みんな中空を眺めたり目の前で指を動かしているのはウィンドウを見てるんだろうな。

 あの人達は多分プレイヤーだね。

 少し視線に力を入れるとその人達の頭の上に何やら青い丸が見える。

 プレイヤーの印かな。


 あ、あそこのベンチが空いている。急いで移動して席を確保。


 (ウィンドウ・オープン!)


 現れたウィンドウをスライドさせていくとフレンドの項目があった。


(フレンド 選択)


 すると【 リュージュ 】【 ゆーら・むーん 】【 蓮華・ルーン 】と文字が表示された。

 これがあの子達のこちらでの名前なんだろうね。

 リュージュが龍樹だね、きっと。


(リュージュ 選択)(メール 選択)


[龍樹へ


 おばさんは今アメジスティアに無事着きました。

 まだ着いたばかりだけど良さそうな街です。

 これから登録カードの申し込みをしに行こうと思います。

 ではまた後でね。


 ゆりあ こと ルーリ・リーラ・ローレ      ]


(送信)


 さて市役所とかはどこかな?地図はないのかしら。

 辺りを見回していると男性が二人声をかけて来た。


「ねえ、君。今着いたとこ? 僕達とパーティー組まない?」

「俺達βプレイヤーだから教えてあげるよ」


 えーーーっと、こういうテンプレイヤーって実際にいるんだねえ。中身がおばさんでも良いのかねぇ。もしかするとおばあさんかもしれないじゃない。それともそんな事も思いつけないのかな。

 あ、フードが脱げてたや。かぶり直そう。


「ありがとう。でもご遠慮します。この後βプレイヤーのフレンドと待ち合わせをする予定でパーティーはその人達と組むことに決まってるから」


 一応やんわりと対応してみる。


「えー、良いじゃない。行こうよ」


「フレンドと合流するまで街を出るつもりは無いの。他の人に当たってね。さよなら」


 立ち上がってとっととその場を離れよう。

 後ろから舌打ちの音が聞こえたけど無視無視。

 まあまだあっさりと引いてくれた方かも。

 β組の割には初心者ぽい服だったな。βの装備って持ち越せないのかしら。それともβ組ってのが嘘?

 まあどうでもいいけど。


 適当な方向に少し歩いていたら広場の端に小さい子供を連れた女性がいた。猫耳の獣人さんだ。チビちゃん可愛い!

 頭の上には緑の四角が見える。

 多分NPCの印ね。いやガイアーンと呼ぶべきか。

 もう一度フードを脱いで声をかけてみる。


「すみません。ちょっとお尋ねしますが市役所へはどう行けばよろしいでしょう?」


「市役所ですか?少し遠いですがこのまま北へまっすぐ行けばもう一つ噴水広場がありますから広場の左側に面した建物が市役所ですよ」


 遥か遠くに高い山々が見える方を指差して教えてくれた。


「あちらが北ですね。どうもありがとうございます」

「どういたしまして」


 頭を下げて挨拶を交わし合っていると子供が声をあげた。


「あのね、おばちゃん。水路にね、お魚がいるの」

「これ。お姉ちゃんでしょ」


 いえいえ、おばちゃんですよ。成人した甥っ子姪っ子がいるんですから。


「ウフフ。そう、お魚がいるの。それじゃあおばちゃんもお魚見ながら歩いていくわね」

「うん。バイバイ」

「ありがとう。バイバイね」


 もう一度お母さんにおじぎをして教えられた方角に向かう。


 北に向かう道は随分広く三本の通りが同じ方向に並んで伸びている。

 通りと通りの間に水路が流れていてその岸は並木が植えられた緑地帯になっていた。

 さっきチビちゃんが言っていたとおり魚の群れが泳いでいた。

 水路は広場の下に潜って消えている。

 三本の真ん中の通りの両脇には屋台や露店が並んでいてそれなりに賑わっているようだ。

 ぷんと美味しそうな匂いも漂っている。

 あー、しばらく何も食べてなかったからとっても誘惑されるわぁ。

 リアルでは栄養管理されているから必要ないんだけどそれと食い気は別みたい。

 それに空腹度があるからゲーム内でもちゃんと食べるように言われてたしね。


 香ばしい香りを漂わせている屋台を除いてみると何かの肉の串焼きだった。

 主人は……オーク?人の良さそうな顔をしてるけどオークだよね?この人。

 周りの人も平然としているからこのゲームではモンスターじゃないんだね。


「ご主人、一本ください。これはなんのお肉?」

「一角兎の肉だよ。嬢ちゃん、よせやい。俺はご主人って柄じゃねえぜ。一本15Zだよ。もうちょっとで新しいのが焼きあがるから待ってな」


 15Zか。150円ってとこね。それなりにボリュームがあるから妥当よね。

 それにしても嬢ちゃんか。こっちもよせやいだけど、このアバターなら仕方ないのかな。

 あ、それよりも細かいお金はあるのかな。


 ウェストポーチに手を入れて15Zと念じると銅貨が3枚手の中に現れた。

 5Zとちゃんと書いてある。


「ほい、焼きあがったよ」

「ありがとう。はい、15Z」


 その場でかじってみる。うーん、カリッと香ばしくて美味しい!


「すっごく美味しいよ!おじさん」

「お、良い顔して食ってくれるなぁ。ありがとよ。また買いに来てくれな」

「うん、また来るね」


 片手を振って串焼きをかじりながら歩き出す。


 他にも魚の焼いたのとかケバブ風の何かの肉を野菜と一緒にクレープぽいもので包んだのとか飲み物とかの屋台が並んでいる。

 なんの魚かな。海に面してるらしいから海の魚かな。

 釣りってした事ないからそのうちやってみたいな。

 釣りにもスキルが要るのかしら。自分で釣った魚の塩焼きなんてすごく食べてみたい。


 道に直接敷物を引いて何やら並べてある露店もある。

 みんなガイアーンなのかな。

 今日で四日目だからそろそろ露店を出してるプレイヤーもいるのかしら。


 途中から朝市かな。新鮮な食材の露店ばかりが並んでる場所を過ぎる。

 野菜、果物、魚、肉、乳製品、卵、それに焼きたてパン等々。

 食べ物の種類も豊富みたいだし街並みは綺麗で適度に活気があるし、やっぱりこの街で当たりかな。


 この街のガイアーンは見たところヒューマンが一番多い感じ。後は同じくらいにエルフ、次いでドワーフかな。

 獣人系もそれなりに。いろんな姿の人がいる。同じ種族でも獣度の程度も様々で二足歩行で服を着ているだけで完全に動物の姿の人もいるのね。

 ウロコのあるあの人は爬虫類系か魚系かなぁ。

 髪の代わりに羽毛が生えてて背中に翼のある人は鳥人だね。あまり大きな翼じゃないけどあれで飛べるのかな。

 飛べたら良いね。飛んでみたいなぁ、飛行術みたいなスキルはあるのかしら。

 後は少数ながらさっきのおじさんのようなオークや緑がかった肌の小柄なゴブリンの人も普通に生活している。

 良かった、敵キャラじゃなくて。人型を倒すのって抵抗あると思うの。ましてや食料にとか、ね。

 はっ!もしかしてレアでオークとかになったプレイヤーもいたりして……


{後日聞いた話ではオークやゴブリンは招待オーブのランダムでのみ出現したそうで、極少数ながらそれを選んだプレイヤーもいたそうです。他のプレイヤーにモンスターと間違われて攻撃されそうになった人もいたけど幸いPK不可が設定されていて無事だったそうです}



 それにしても遠い……


 テクテクと歩き続けているがまだ次の噴水も見えてこない。

 串焼きはとっくに食べ終えてしまった。

 


 なんだかだんだん体がだるくなって来た。

 疲れた。足が重い。体力無かったからなぁ。

 そこでハッと気がついた。街の中でもHPが下がるんじゃないかしら。

 慌ててステータスウィンドウを呼び出してみると。

 ビンゴ!

 HPが5まで下がっている!

 それに気がつかなかったなんてマヌケにもほどがある。


 どうしよう。

 とりあえず倒れるまでにどこか休めるところへ行かないと。

 なんとか人のいない水路の方に移動する。

 水路の岸が石の階段になっていたので少し降りて座り込む。

 じっとしてたら自然回復するかなぁ。


 フードを目深く被り膝の上に額を乗せ丸くなった体をマントで包む。


 しばらくそうしていたら突然声をかけられた。


「おい!大丈夫か?」


 顔を上げると衛兵らしき制服を着た男とピクシーがそばに寄って来た。


「ちょっと疲れて休んでいたんです。街の中でもHPが減るとは思ってなくて」

「そりゃあ何かすれば減るのは当たり前だが。外から帰って来たにしてはここは門から遠いぞ」

「外じゃなくてさっきアメジストの噴水広場に降りて来たばかりなんです」

「ああ、あんたテランかい。でも広場からここまででそんなに疲れないだろう。歩いてる程度ならHPは減らないぞ、普通」

「私、体力も筋力もが極端に低いらしいんです」

「そいつは難儀なことだなぁ。あんた、ポーションは持ってないのかい」

「初心者ポーションなら持ってますけど」

「飲んでみたのかい?」

「え? あ!そうか!」

「おいおいおい。HPが減ったらポーションだろうよ」

「街の中で飲むものと思ってなかったみたいです……」


 ああ、間抜けだ馬鹿だぁ……恥ずかしい。

 急いでウェストポーチに手を入れる。ポーション出てこい!

 出て来たポーションは濁った緑色であまり美味しそうじゃないけど一息に飲み干した。

 うぇっ、まずい。青汁を少し薄めたみたいな味。

 思わず顔をしかめてしまうが確かに楽になった。

 ステータスを見てみると満タンになってる。


「助かりました。おかげで満タンに戻りました」

「当分の間、街の中でも何本かポーションを持ち歩いたほうがいいぜ。街ん中でへばってる間は初心者ポーションで間に合うから買っときな。体も鍛えるんだな」

「はい。少しずつトレーニングもします」

「ああ、そうしな。ところでどこに行くつもりだったんだい」

「市役所に行きたいんですがまだ遠いですか」

「ここで半分ってとこだなぁ」

「まだ半分ですかぁ……」

「あんた、金は持ってるかい?持ってるならタクシーに乗ってけば良いじゃないか。来たばかりなら転移ポイントはさっきの広場だけしか登録されてないだろう?」

「タクシーあるんですか?って転移ポイントってなんですか?」

「それも知らないのかい。転移ポイントは一度行って登録すれば後は魔力か魔石を使って転移できる場所のこった。街中なら西の草原のスライムの一番ちっちぇえ魔石で飛べるぜ。遠くに飛ぶほど必要な魔力は大きくなるけどな。ここまでの途中にも一つ有ったんだけどな、気がつかなかったんだろ?この中通り沿いには北の噴水広場とあんたが着いた大噴水広場の間に二ヶ所ポイントがあるんだぜ。とりあえずこの街ん中のポイントを一回りしてみな」

「そうします。魔石は持ってないですけど魔力はHPが少ない分沢山あるみたいですから」

「そうしな。で、タクシーに乗るかい?」

「はい。いくら位かかるんでしょう。それにどこから乗れますか?」

「ここからなら60Zってとこかな。三本通りの外側の通りで拾えるぜ。ピクシーに頼めば呼んでくれるぞ」


 ピクシーさんはタクシーの手配もするんですね!


「んじゃ、ついて来な。あ、俺はザンカだ。この街の衛兵をしている」

「私はルーリ・リーラ・ローレと言います。ルーでもルーリでもお好きに呼んでください」


 名乗られてザンカさんの頭の上の緑の四角いマークの横に名前が追加された。フム、そういうシステムね。


 ザンカさんについて外側通りに向かう。


「この三本通りは西から西外通り、中通り、東外通りってんだ。中通りは車の類は入れねえ。山が見えるほうが北だから判りやすいだろ?南は海で西に草原、東は河とその向こうに森がある」

「良さそうな街ですね。私は落ち着いてのんびり住める場所を探しているんです。」

「おお、地元贔屓じゃないが良い街だと思ってるぜ。食い物も美味いし適当に風通しも良い。かなり便利だしな。他の国じゃあ首都でだって転移ポイントがいくつもあるわけじゃ無いそうだぜ。タクシーも発祥地のシトロネラくらいしか無いらしいしな。強えモンスターも滅多に出ねえし。のんびり暮らすにゃお薦めするぞ」


 西外通りに出てきた。こちらには屋台も露店も無いのね。

 大きな建物の店が並んでいる。


「ピクシーよ、タクシー呼んでくれたかい。ご苦労さん」

「ピクシーさん、ありがとう。あなたのお名前は?」

「ピクシーに名前はないぞ。一人がみんなでみんなが一人、一人に通じればみんなに通じるそんな生き物なのさ」


 そばにいるピクシーにお願いすればタクシーのそばにいる別のピクシーに通じるんだそうな。

 不思議だねぇ。


 そこに一人のピクシーに先導されて人力車がやって来た。

 熊耳の大柄な人が引いている。

 これがタクシーらしい。


「この子を市役所まで送ってやってくれ。気をつけて行ってきな。何か困ったことがあったら俺たち衛兵やピクシーに頼んでくれ。それじゃあルー、またな」

「ザンカさん、ありがとうございました。ピクシーさん達もありがとう。熊の人、お願いします」

「あいよっ」


 人力車に乗り込みザンカさん達に手を振ると三人も手を振り返してくれた。





 

 

ようやくゲームを始められました(^^;


良い人に会えて良かったね、ゆりあさん。

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