邪神とUMA
「これで大丈夫ね」
お菊さんが御犬達の手当をしている。クトゥルーからのお願いで、しっかり監視しているという条件でクトゥグアの手当もした。
「まさか、本当にクトゥグアの手当もしてくれるとは思わなかった」
「邪神もUMAも同じ未確認生命体。それがUMAニアの考え方らしい」
驚くクトゥルーに、手当が終わったハスターが言った。
「いままでいろんなUMAに会ったが、こんな考えを持つUMAは初めてだ。今まではみんな、ルルイエの目的を知ったら襲い掛かってきたからな」
「今回は、目的が同じだったからな」
御犬と二兎が会話に入る。
「お互いに別個体とはいえゴートマンを探してた。そして協力して探そうと決めた。約束を守っただけだよ」
御犬は右手に黒炎を出した。
「でも、お前らルルイエが本気でUMAと戦うなら、俺は手加減しない」
「ケンさん。まだ魔力を使っちゃ駄目ですよ。お菊さんに怒られます」
そう言われて御犬はお菊さんのいる方を見た。ちょうど後ろを向いて、ブルムと根子、ニャルの手当をしている。この三人は軽い脱水症状だったらしく、手当に時間はかからないようだ。お菊さんに見られてないと確認して、御犬は黒炎を消した。
「御犬君、だったか。俺とハスター、ニャルは、UMAとの戦いは望んでいない平和主義者だ。クトゥグアも、平和主義者ではないが戦いが大好きというわけじゃない」
最後の手当を終え、全員が集まった。
「俺は、ルルイエを変えようと思っている。そのためにハスターとニャルにも協力してもらっていたんだが…よければ、君達にも協力してほしい」
「協力?何するの?ルルイエに乗り込むとか?」
「そんなことしたら、あっという間に囲まれて集団リンチになる。俺はUMAと邪神が解り合えると証明したいんだ」
「友達になるってこと?」
「根子とニャルはもうちょもだち」
根子とニャルが元気に言った。ニャルは相変わらず難しく噛んでいる。
「友達では弱い。俺は君達と、親友になりたい。お互いを理解し合う仲のUMAが欲しい」
「どうする?御犬君?」
「私は賛成だわ。老い先短いし、早く平和にするにはいい話だわ」
「うーん…急に親友って言われてもな…根子やニャルはともかく、一度共闘しただけでそこまでは信頼できないな」
「尤もな意見だな。協力したとしても、完全に安全とはいえない」
「あの、とりあえず初めは友達でいいんじゃないですか?最初から親友になる人なんていないと思います」
二兎が意見を出した。もうゴートマンやハスターを怖がっていない。
「そうだな。段階を踏んで、ちゃんと信頼できるかどうかを見極める必要がある。ハスター達だってそうだろ?俺達が裏切らないとは言い切れないはずだ」
「俺は、君達が裏切るとは思えないが…確かにルルイエの他のメンバーを説得するには確実な信頼が必要か…」
「いいじゃないかクトゥルー。ニャルと根子ちゃんはどうせもう親友なんだ。信頼を得るのにそんなに時間はかからないだろう」
「そうだな。早速ルルイエに報告しに行くか。ハスターとニャルも一緒に行くぞ」
「わかった」
ハスターはニャルを抱えた。ニャルは根子と手を振ってバイバイしている。
「おい、クトゥグア。そろそろちゃんとしろ」
「“星焼きの業火”の反動で動けない。クトゥルー、おんぶして」
「お前は熱いから嫌だ。俺が干上がるだろ」
クトゥルーは嫌がっていたが、ハスターに「その程度じゃ干上がらないだろ」
「クトゥグアもどちらかというと俺達の方だ」と言われ、しぶしぶおんぶした。
「あ、そうそう。兎と犬」
クトゥルーの背中で、クトゥグアが御犬と二兎を呼んだ。
「名前で呼べ。俺は御犬。こいつは二兎だ」
「そう。じゃあ犬と兎」
「全然聞いてませんね」
「頂上の、あんた達の戦略、正直苦戦した。あんた達は弄りがいがある。認めてやる」
「は?」
「どうゆう意味ですか?」
クトゥグアは寝たふりをした。もしかしたら本当に寝ているのかもしれない。
「クトゥグアが二人を認めたんだ」
クトゥグアの代わりに、ハスターが答えた。
「こいつがそんな風に言うのは珍しい。クトゥグアも、一応俺達と同じようにUMAとの共存を考えてるようだな」
「弄りがいがあるって言ってたぞ」
「気に入ったんだろ。クトゥグアは、気に入った相手には結構優しいぞ?」
クトゥグアが「そろそろ行こう」とハスターに言った。
「あ、最後にもう一ついいか?」
御犬が四人を止めた。
「ハスターとニャルは、クトゥグアに襲われてたよな?今は仲良さそうなのになんでだ?」
「ああ、それは、俺が失言をしたからだ。ババア、とな」
ハスターが溜め息交じりに言う。
「こいつは甚振るのが大好きなどSで、怒ると徹底的にやることがある。こいつに悪口、特に歳に関係することは言わない方がいい」
そう言ってハスターは手を振るニャルを抱えたまま、風と共に消えた。
「また会おう」
クトゥグアをおんぶしたクトゥルーから水が弾け、二人は消えた。
「…なんか、あっけないな」
「そうですね。さっきまで地球の危機だったとは思えません」
御犬達は山を下り始めた。お菊さんの治療によって、みんな自力で歩けるようになっている。
「御犬、あんた本当にルルイエと理解し合えると思ってるの?」
「なんだ、ブルムはそう思ってないのか?」
「…ハスターとクトゥルーはいい奴かなって思ったし、ニャルは子どもだからかもしれないけど邪心がなかったわ。でもクトゥグアはわからないわよ?また襲ってくるかもしれない」
「きっとクトゥルーとハスターが止めるさ」
「そんな簡単に考えていいのかしら…」
小さな声でぶつぶつ言いながらも、ブルムも少しは認めているようだった。
御犬達が山の中腹まで来ると、前方にゴートマンが三人いた。御犬達に気付いて近寄る。
「…さっき、頂上から巨大な炎が現れたが…」
「問題ない。心配するな」
御犬達と一緒にいたゴートマンが答えた。
「直ぐにこの山を下りる。頂上は…少し地形が変わったが、危険はない」
「…そうか。来るときはちゃんと連絡しろよ」
三人のゴートマンはそう言うと、御犬達の横を通って頂上に向かって行った。
「元々、悪い奴らではないんだ。人間にも、奇形児…突然変異の子どもを虐待する親が僅かにいる。動物も突然変異の仲間を見捨てる。それと似たようなものだ。自分達とどこか違う者に怯えているだけで、完全な悪意はない」
「確かに、そんな感じだったな。一応仲間意識はあるんだな」
ゴートマンが「行こう」と言い、また山を下り始めた。
UMAニアに着いたのは一時間後だった。二兎が途中で食人植物に襲われた。
「おじさん。おじさんは、私達と一緒に暮らすの?」
「そうだな…できれば、そうさせてくれると助かる」
「もちろんいいぞ。部屋はいくらでも余ってるしな」
「私は根子と同じ部屋でいい。正直、クトゥルーが来て根子をさらわないか心配になってきている」
「それはないだろ。さらうとしても了解を得ようとしそうだ」
「御犬君。私は帰るわ。猫の餌をあげないと」
今度はお菊さん。
「猫がいなくなったら、もしかしたらここで暮らすことになるかもしれないわ。その時はよろしくね」
「いつでも待ってますよ。お菊さん」
お菊さんは“森精霊の鏡”を使って自分の家に帰って行った。
「じゃあ、俺達は昼食にするか」
「私が作りますね。根子ちゃん、ブルム、手伝ってくれる?」
「私、手伝う!」
「仕方ないわね」
「あ、ケンさんとゴートマン…長いのでゴートさんにします。二人は森で果物取ってきてください。近くに果物が生っている木がありました。できる限り沢山持ってきてください」
「男は力仕事か。」
「いいじゃないか。あてにされなくなったら存在意味がなくなる」
「そうだな」
御犬とゴートマンは森に果物を取りに行った。二兎とブルム、根子は昼食を作る。
たった一時間前の地球の危機が嘘のようだった。
もしかしたら、遥か昔から、人間の知らないところで地球の危機は繰り返されていたのかもしれない。人間の知らないところで、地球の表舞台に出ないUMA達が宇宙の侵略者と戦って地球を守ってきたのかも知れない。
ここはUMAニア。人間の知らない、未確認生命体の家。