黄衣の王
「…すいませんが、それは受けられません」
UMAニアの食堂。買い物をした翌日。御犬と二兎、猫耳幼女姿の根子は、並んで座っている。机を挟んで反対側には人間の姿をした見た目では十代の女性が一人、座っている。髪は金髪のストレートで今時の、一般的な服装だった。
「UMAの悩みを聞いてくれるんじゃなかったんですか?」
女性はここに依頼に来た。しかし、依頼内容を聞いて、御犬達は即、その依頼を拒否した。
「いや、だからといって、暗殺はできませんよ。いくら反UMA団体だとしても」
今回の依頼は、反UMA団体(反未確認生命体団体)の暗殺の手伝いだった。
「そうですよ。確かに反UMA団体は、私達を全滅させようとしています。でも、暗殺はやりすぎです」
「人殺し、良くない」
御犬も二兎も根子も、暗殺には反対していた。
「…まあ、そういった反応をされる可能性はあると思っていましたが……ところで、今更ですがその子にこんな話聞かせて大丈夫なんですか?」
女性は根子を見てそう言った。
「大丈夫です。歳は幼くても、この子の知識は俺よりもありますし、世の中のことはよく理解しています」
根子は、ゴートマンから様々なことを教わっていた。買い物に行ったとき、御犬と二兎はゴートマンについて色々と聞いた。その時に根子は、様々な知識を教えられていることがわかった。十歳にして人間界の戦争等の歴史やほぼ全てのUMAの情報を頭の中に持っている。
「それにこの子は感が鋭くて、相手の正体だってすぐに見破れるんです」
「野生の勘、というものですか?だったら、私が何者なのかもわかりますか?」
「タッツェルブルム」
女性は、絶対にわからないと思っていたのだろう。しかし根子は、一瞬で正体を見破った。
「…まさか、本当に見破るなんて……」
女性、タッツェルブルムは驚いていた。
「タッツェル…何?」
「タッツェルブルムだ」
二兎は聞いたことがないようだった。
「二兎、お前はもう少しUMAについて勉強しろ。タッツェルブルムはアルプス山脈に住むといわれている、鉤爪を持った蛇のようなUMAだ。猛毒を持っているともいわれているが、特に人間を襲ったとかは聞いてないな」
「そうよ。私達は人を襲うことはないわ」
根子の能力に驚いていたタッツェルブルムが言った。興奮しているのか、口調が丁寧でなくなってきている。
「私達は人間を襲わない。それは貴方達カーバンクルや猫又だって同じでしょ?ケルベロスだって少し変わってはいるけど好き好んで襲うことはない」
「まぁ、確かに」
「なのに人間は、私達UMAを全滅させようとしている。この間だって、野良猫と野良犬の駆除とか言って、人間界で暮らすUMAを探し出して殺そうとしていたわ」
「野良犬の駆除?それって、お菊さんが言っていた野良猫・野良犬撲滅運動の……」
「表向きはね。だから私は、やられる前にやろうと思ったの。それでここに来たのに、貴方達は断った。ほっといたら貴方達も殺されるかもしれないのよ?」
「だからって俺達が殺したら、やってることは連中と同じになる。それだと解決しない」
どうするか、と御犬が考えていると、二兎が何かを思いついたように口を開いた。
「あの、ケンさん。確かお菊さん、その撲滅運動の人に目をつけられていましたよね?もしかして。お菊さんの正体を見破っているんじゃ……」
二兎に言われて、御犬も気付いた。
「すぐにお菊さんのところに行くぞ。タッツェルブルム、あんたも来てくれ」
「わかったわ。そのお菊さんってUMAでしょ?あと、私のことはブルムでいいわ。タッツェルブルムって言いにくいだろうし」
御犬と二兎、根子、そしてブルムは“森精霊の鏡”でお菊さんの家に向かった。
四人は気がつくとお菊さんの家の庭にいた。丁度お菊さんが庭で猫に餌をあげている。
「あらあら、いらっしゃい。久しぶりね」
お菊さんは元気だった。家にいた猫も少し減っている。
「こんにちは、お菊さん」
「おばあちゃん、久しぶり」
「二兎ちゃんも根子ちゃんも久しぶり……あら、初めての人もいるわね。そしてやっぱりUMAなのね。御犬君ほどではないけど強い力を感じるわ」
「勘が鋭い人ね。私はタッツェルブルム。ブルムって呼んで」
「ブルムちゃんね。さ、家に入って」
お菊さんは家に入っていった。そのあとに続いて御犬と二兎、久しぶりに来て嬉しがっている根子、ちゃん付けで呼ばれて少し恥ずかしがっているブルムが入る。
御犬達を座らせてからお菊さんはお茶と和菓子を持ってきた。それをちゃぶ台の上に置いてから自分も座る。
「それで、今日はどんな用事?」
「はい。実は野良猫・野良犬撲滅運動について、話したいことがあって」
「私が話すわ。御犬達よりも詳しいし」
反UMA団体の話は、ブルムが伝えることになった。
「ここら辺で活動している野良猫・野良犬撲滅運動は、人間界で猫や犬として暮らしているUMAを探し出して殺すのが本当の目的。捕まえた猫と犬はUMAのついでに殺しているそうよ」
「ちょっと待て。UMAは今も殺されているのか?」
「そこまではわからないわ。何匹の猫と犬を殺したのか、今までUMAを見つけたのか、見つけたとしたらどうやって殺すのか……詳しいことは何も」
「そうか……」
「嫌な話ね。UMAを殺すのは許せないけど、そのついでで普通の猫や犬まで殺すなんて」
「それで私は御犬に暗殺を依頼したけど、当然断られた。でも御犬はお菊さんが心配だからってここに来たってわけ」
「…そう。そうゆうことだったの。実はね、近所の野良猫も、最近見かけなくなった子がいてね。もしかしたら捕まったのかもしれないわ」
「どうにかする方法とかありませんか?」
「そうねぇ…残念だけど、バンシーには森精霊のような、特別な道具を作ったり、作戦を思いつく能力はないわ。人間と共に歩む種族だから」
「…直接話を聞くのは?」
お菊さんに策がないとわかると、今度は根子が発案した。
「相手がどんな奴かわからないから、それは危険じゃないか?」
「大丈夫じゃないかしら。相手はただの人間なんだし」
「ブルム。人間だって馬鹿じゃないんだ。UMAに対抗する策だってきっと準備してると思う」
「でも御犬君、沢山の人が見ているときは何もできないはずよ。それに相手が私達の正体を知っているとは限らない。話くらいはできるんじゃないかしら?」
「確かに、そうですけど……」
「じゃあ、今から行ってみますか?今日ならあの公園にいるんじゃない?」
こうして二兎の提案で、御犬達は公園に行くことになった。
「何か御用ですか?」
公園に着いた御犬達はすぐに撲滅運動のメンバーが数人、チラシを配っているのを見つけ、その中の一人の女性に話を聞くことにした。御犬が代表として話をする。
「ちょっと、貴方達のことで悪い噂を聞いて、一応のために確認しておこうかと……」
「噂、ですか。確かにこういった活動をしているので、悪い噂はよく流れますね」
「ここでは話しづらいので、他のところに行きたいのですが……」
「わかりました。丁度会長も近くの本部にいるので、そちらにご案内します」
女性はそう言って持っていたチラシを近くにいた別のメンバーに渡し、本部に向かう。御犬達も女性について行った。
女性が言う本部は、公園を出て数分のところにある変わった建物だった。外から見る限り四階建て、窓は不規則に付いている。中の部屋の大きさはバラバラのようだ。
「ここが本部です。どうぞ」
女性は中に入っていった。御犬達も中に入る。
「会長には既に面会のことを話してあります。貴方達が聞かれた噂のことは、会長に直接話してください」
「直接、ですか。随分簡単に会えるんですね」
「やっている運動があんなものなので、当然苦情も来ます。それにすぐ対応できるようになっています」
「なるほど。会長がすぐに出ていければその分早く解決できますね」
「はい。……あ、ここです」
本部の四階。廊下の一番奥にある部屋。そこが会長の部屋らしい。
「ここからは私などの新人はできる限り入らないようにと言われているので、申し訳ありませんがここからは貴方達だけでお願いします」
女性はそう言うと、ドアをノックしてから階段を下りていった。部屋の中からは「入ってください」と声が聞こえる。
「失礼します」
御犬達は部屋に入った。部屋は広く、壁際には様々な書物や何かのトロフィーが大量に置かれている。部屋のドアの正面に机とソファーがあり、さらにその向こう側には大きな机。そこに男性が一人、座っていた。
「ようこそ。私がここの会長を任されている者だ。呼び方は会長でいい」
「俺は安賀多御犬。後ろにいるのは俺の友人達で、東海二兎、お菊さん、三毛根子、それとブルムといいます」
「年齢や性別がバラバラだな。何か同じ趣味で集まったサークル仲間かな?」
「はい。実は俺達、野良猫や野良犬を保護して減らす活動をしているんです。そこで、同じような活動をしている貴方達の悪い噂を聞いて、どうしても確かめたくなったんです」
「なるほど。同業者、というわけか」
「まぁ、そういえますね」
「おっと、ずっと立たせたままだったな。そこのソファーに座るといい」
会長は御犬達をソファーに座らせ、自分はさっきまで座っていた机に一番近いソファーに座った。御犬達は机の周りにある一人用ソファーにそれぞれ座った。
「さて、早速君の聞いた噂を聞きたいんだが……その子は大丈夫なのか?」
会長は根子を見てそう言った。
「大丈夫です。この子は頭がいいので」
二兎がそう言った。
「いや、頭がいいとかは関係ないと思うが……」
会長は困っているようだった。
「…まぁ、保護者の君達がそう言うならいいか……では、御犬君。君が聞いた噂を聞かせてくれ」
「はい。少し言いにくいですが、貴方達が特別な動物を探して虐待をしている、という噂を聞きました」
「特別な動物?雄の三毛猫とかかね?それともツチノコやネッシーといった未確認生命体か?」
「噂を聞いただけなので、そこまでは……」
会長は少し考えてから、口を開いた。
「なるほど。わかった。そうゆう話は度々されているから、本当はあまり気にならないが……」
会長は言葉を続ける。
「それを聞きに来たのが君達なのは、とても気になるな」
「……俺達に、何か?」
会長は、笑った。
「何故、特別な動物である君達がわざわざここまで来たのか。本当のことを話したらどうだ?」
「お、俺達が、特別な動物?」
「あんた、どうゆうつもりで言ってるんだい?」
ずっと口を開いていなかったお菊さんがそう言った。
「そのままの意味だ。君達は気付いていないのか?」
その時、根子が一瞬でソファーから飛び降りた。
「みんな。この人、危険」
御犬と二兎、お菊さん、ブルムもソファーから離れて、出入り口まで下がる。部屋の扉と窓は閉まっているのに、部屋の中では風が吹いていた。
「俺はさっき言ったはずだ。保護者の君達が、と。君達は自分ではサークル仲間、としか言っていない。なのに俺は保護者だと見抜いた。不思議には思わないのか?」
「……言われてみれば、確かに。付き添いの可能性はあっても、保護者だと断言はなかなかできないはず……」
「…全員、強い力を持っているな。もっと頭のいい種族を仲間にしたらどうだ?」
「別にこのメンバーは集めたくて集めたわけじゃないので」
「だろうな。メンバーを見る限り何かを考えて集めたとは言いにくい…そうそう、君達は噂の真実を聞きたいんだったな」
会長はさっきまで座っていた奥の机の引き出しから何かの資料を持ってきた。
「流石に子どもに見せることはできないな…御犬君、君の判断に任せよう。見せていいと思えば見せればいい」
御犬は警戒しながら会長から一枚の紙を受け取った。しかしその紙を一目見た瞬間、御犬はその紙を床に落とし、素早く一歩下がった。
「お前…どうゆうつもりだ?」
「見たままの意味だ。俺達はUMAを探し出し、いずれ全滅させる。そのために活動している。その紙は活動の資料だ。コピーだがな」
二兎が気になってその紙を拾い上げようとする。しかし御犬は紙に手をかざして黒炎をだし、その紙を燃やしてしまった。
「おいおい。酷いじゃないか。君が聞いてきたんだろ」
「こんなの見せられるか!」
「犬兄、何が書いてあったの?」
根子が御犬を見上げて言った。御犬は根子の問いには答えず、会長を真っ直ぐ見て言った。
「…今日は、もう帰ります……俺はいつか絶対に、お前達を止める!たとえお前を殺してでも」
「今すぐはやらないのか?」
「今の俺だと、お前には絶対に勝てない。それにみんなも巻き込んでしまう」
「なるほど。いい判断だ」
会長は携帯電話でどこかに電話をした。
「君はなかなか見所のある青年だ。ここは俺が引いてやる。もうこのあたりでUMAと普通の動物の大量虐殺は止める……他のところでは、俺の仲間が活動しているがな」
部屋の出入り口から、運動団員が大勢部屋に入ってくる。だが近くにいた御犬達には手を出さない。
「そいつらはただの人間じゃない。俺の配下にある種族だ。種族名はナイトゴーント」
部屋の中に強風が巻き起こり、御犬達は目を瞑った。すぐに目を開けるがその時には既に会長と団員達の姿はなかった。会長の声だけが聞こえる。
「俺の人間界での名前は覇洲太一。種族はハスター。かつてこの星を支配していた者達の末裔だ。覚えておけ」
一息入れて、覇洲太一が話を続ける。
「……実のところ、俺もこうゆう活動は嫌いなんだ。捕まえた犬と猫は公園に放す。約束しよう」
覇洲太一の声は、聞こえなくなった。
「ハスター……確か、クトゥルフ神話に登場する、風を司る邪神ですね。“黄衣の王”とも言われます」
覇洲太一がいた建物からは、何もなくなっていた。建物自体も不動産屋が売りに出していることになっていた。恐らく覇洲太一の仲間に強力な催眠攻撃を使う者がいたようだ。
「クトゥルフ神話?よくそんなの知ってるな。UMAは知らないのに」
「読書が好きなので。ちなみにナイトゴーントはハスターのような旧支配者の配下の夜鬼です」
根子と二兎がお腹がすいたと言うので、御犬達はファストフード店に来ていた。お菊さんを除く全員はハンバーガーやフライドポテトを食べ、お菊さんはフライドポテトだけを少しずつ食べている。
「目的は…まあ地球侵略だろうな。今は地球外生命体だけど、元々は地球を支配していた生物なんだし」
「厄介な敵ね。こっちは所詮動物。向こうは邪神、神様なんだから」
「勝ち目はなさそうだね」
「流石に、な」
「もぐもぐ」
御犬達は既に負けた気分になっている。
「やっぱり、動物は神には勝てないですよね……」
二兎も負けた気分になった。
「もぐもぐ…そうでもないと、思う」
しかし、根子だけは違っていた。
「あの人も言ってた。頭のいい種族を仲間にしろ、と」
根子はポテトを食べる手を止めた。
「UMAだって馬鹿じゃない。あんなのに、簡単には捕まらないし、捕まっても逃げることはできる。あの人達は今は侵略準備の途中だろうから、動き出すまでに私達が仲間を集めれば、勝てる、と思う」
「そうは言うが根子、UMAがどこにいるのかなんてわからないぞ?」
「UMAニアにいれば、自然と集まってくる。私とか、ブルムみたいに」
「集まる前にあいつらが動き出すかもしれないぞ?」
「そんな簡単にはいかない、と思う」
「そうね。あいつらは人間から気付かれないように催眠をかけたりしてるようだし、時間はかかると思うわ」
お菊さんがそう言った。
「私には、UMAの知り合いが数人いるわ。その人達をUMAニアに呼びましょう。世界中にいるし、正確な位置はわからないから時間がかかるけど」
「クトゥルフに対抗する、と?」
「ええ、勿論。やすやすとこの星は渡せないわ。私はともかく、皆には未来があるんだもの。その未来を潰したくはないわ」
「でも、時間がかかるんですよね?その人達が来るまでは、UMAニアで待ってるしかないですね」
「近くに、知識が豊富な人がいればいいんだが……」
私にはそんな知り合いいない、とブルム。御犬と二兎にも、そんな知り合いはいない。
「おじさんは?」
根子がそう言った。
「おじさんは、私にいろいろ教えてくれた。知識は私よりもある、と思う」
「確かに…だけど、どこにいるかわからないぞ?」
「あの森の中にいるはず」
根子は断言した。
「おじさんは私みたいに完全に人間の姿にはなれない。だから、森からは出ることができない」
「お前も完全に人間になれてないけどな」
「どこが?どこからどう見ても人間の子ども」
「人間の子どもに猫耳はないぞ」
「…これは猫耳カチューシャという設定。都内なら普通」
「普通ではないと思うけど…まぁ付けてる子もいるし、そこまでは目立たないか」
呆れながらブルムが言った。
「まぁ、結局はどうもできないってことだな。森は広いから一人を探し出すのは無理だし」
「そうですね。それにあの森は危険です。私は死にかけましたし」
「死にかけた?なんか猛獣でもいるの?」
「ただの猛獣にやられるか。あの森には巨大な食人植物がいてな。二兎がドジして飲み込まれたんだ。もう少し助けるのが遅かったらドロドロに溶けてただろうな」
「何それ怖い」
「溶けることはなかったけど、ケンさんの黒炎で燃えかけました。もっとまともな助け方してください」
「元はといえばお前が飲み込まれたからだろ」
クトゥルフの居場所はわからず、わかっても倒し方がわからない。頼りになりそうなUMAは近くにゴートマンしかいないが、その居場所もわからない。どうもできない状態だった。
「だからって、UMAニアにずっといるわけにもいかないし、一度森に行ってみたら?ケルベロス、カーバンクル、バンシー、猫又、タッツェルブルム。このメンバーなら離れなければある程度の敵なら倒せるだろうし、御犬は“森精霊の聖石”もってんでしょ?だったらすぐに脱出もできる。ちょっと様子を見るくらいならいいんじゃない?」
ブルムの言葉を聞いて、御犬は少し考えた。
「そうだな……お菊さんとブルムは大丈夫だろうし、根子と二兎を三人で守ればいいか……」
「なんで私は守られる側なんですか?」
「お前は方向音痴だからな。今度はぐれたら助かるかどうかわからないぞ」
「……少し解せない部分がありますが、様子を見るくらいなら大丈夫だと思います。ケンさんやブルムもいるし、お菊さんもいます」
「そうね。ある程度の怪我なら治せるわ」
「私も、頑張る」
「仕方がないわね。でも私の戦闘力は期待しないでよ?」
「そういえば、タッェルブルムの能力って何?」
「ん~っと…猫と蛇を合わせた感じかな」
「タッツェルブルムは猫の顔を持つ蛇だろ?猫のような鋭い爪と牙、それと蛇毒が武器のはずだ」
「毒は持ってないわ。毒への耐性ならある程度はあるけど。でも鋭い爪で植物の蔓くらいなら簡単に切れるわ。あとは簡単な音波攻撃かしら」
「……それだけ?」
根子ががっかりした様子で言った。
「それだけって何よ。十分すごいでしょ?御犬とか二兎が特殊すぎるのよ」
「犬兄は、確かにすごい。でも二兎姉は、よくわからない」
「私だってやるときはやります。前は少し油断しただけです」
「そう言っておきながら根子に助けられそう」
「俺も同意」
「大丈夫。二兎姉を、私が守る」
「…私ってそんなに戦力外ですか……?」
お菊さんが「大丈夫よ」と二兎を励ましていた。
「そういえば御犬、ハスターの紙には何が書いてあったの?」
「……言わないと駄目か?」
森に向かう途中、ブルムが御犬に聞いた。二兎や根子も気になっていたようだ。
「あんなふうに燃やしたんだから、まともなことではないだろうね。しかも御犬君が怒るほどとは。奴らは何を見せたの?」
御犬達は都内の端っこを歩いていた。人間が入り込む程度の深さなら危険は少ないと思ったからだ。
「…あの紙には、写真がプリントされてました……何かのUMAが虐殺されていました。血塗れで、動物の耳のようなものがかろうじてわかるくらいでした」
「UMAの虐殺写真……確かに、根子ちゃんには見せられないわね」
しかも動物の耳のようなものがあった。もしかしたら根子と同じ猫型UMA、または猫又だったのかもしれない。根子のトラウマになる可能性もあった。それ以前に年齢的にも見せることはできなかった。
「酷い連中ね。そんな物を持ってるなんて」
「でも、まずケンさんに見せていましたし、極悪という訳ではなさそうですね。やってることは最低ですが」
「しっかりと理性はあるんだろ。頭はかなりいいらしい」
目の前には森が見えてきた。
「ハスターのことは一旦置いといて、今はゴートマンのことを考えたら?森がどうなっているのかもわからないし」
「そうだな。危険じゃない森でも、油断したら大怪我をすることになるしな」
森の入口に到着する。入口には「危険!森深し」という言葉と、「神秘の森」という言葉が書かれた古い看板が置いてあり、入口はコンクリートなどでは固められておらず、獣道が一本あるだけだった。
「これ、人間でも危険なんじゃないですか?人が近付きそうにないし、手入れもされてなさそうですし」
「そうだな……入口付近を少し見てみてからその後どうするか考えるか?」
「そうね。まずは様子を見てみないと」
御犬達は獣道に入った。入口は草木が生い茂っているが道はちゃんとあり、歩くことはできるようになっていた。
「これなら、根子も歩けるな」
「私は獣道の方が歩きやすい。猫だから」
「そうか。でも子猫だから深いと危険だな。勝手にどっかに行くなよ」
「わかった」
根子は二兎と手を繋いで歩いていた。御犬を先頭に、ブルム、二兎と根子、お菊さんの順に歩いている。今のところ、そこまで危険なものはない。
「やっぱり、入口付近は何もないですね」
「人間達の生活圏に近いからな。昔からUMAは人間から離れて暮らす種族が多いし、UMAニアも隠されてるし」
「食人植物はもっと奥にいそうね。それでもいないとは限らないから、十分気を付けないと」
ブルムは入口から離れたのを確認すると、爪を出した。ブルムは猫蛇で、猫のように長く鋭い爪を隠すことができる。それは猫又である根子もできることだった。
さらに奥に進むと、とうとうちゃんとした道はなくなり、石や草だらけの道になった。
「根子、大丈夫か?」
「大丈夫。まだ行ける。二兎姉もちゃんといるよ」
「そうか。ならもう少し奥に行ってみるか。二兎とちゃんと手を繋いでろよ」
「うん!」
根子は元気に返事をした。それに対して二兎は少し複雑な表情をしている。「根子ちゃんを守ってるのは私なのに……」とぶつぶつ言っている。
「それにしても、少し奥に進んだだけでこんなに森が深くなるなんてな。人間が近付かないのも納得だな」
「ただの人間なら、最悪死にそうですね。この森」
「仮にも強力な力を持った二兎が死にそうになるくらいだし、普通のUMAでも危険かもしれないわね」
「…確かに。仮にも強力な力を持った二兎姉が死にそうになるなら、私なら死んでたかもしれない」
「助かったのは御犬君がいたからだし、私のように戦う力を持っていないUMAだとひとたまりもないわ。すぐにあの世行きね」
話しながら歩いていると、森のかなり深いところまで御犬達は来ていた。
「見たことがない植物が増えてきたわね。蔦を持っているのも多いみたい」
「いつ襲われるかわからないな。全員俺から離れるな。危険だと思ったらすぐにUMAニアに移動する」
「わかりました。根子ちゃんと離れないようにします」
「私も、みんなと離れない」
少しずつ森を進む御犬達。すると、少し開けた広場に到着した。足元は相変わらず草だらけだが背が低く、根子の膝よりも少し低い程度しかない。広場の中央は周りの森からは十数メートルは離れているため比較的安全に思えた。
「ここは危険じゃなさそうだな」
「そうね。何かが森から来てもわかりやすい。少し休憩したら?根子は子どもなんだし」
「そうだな。少し休憩するか」
御犬達は広場の中央に座った。二兎が持ってきた飴玉を全員に配り、糖分の補給をする。
「ゴートマンはこの辺りにはいないようね。やっぱりもっと奥にいるのかしら?」
「ゴートマンの力があれば、一人でももっと奥に行けるだろうし、お菊さんの言う通りかもしれません。暴走しているならできる限り奥に行くでしょうし」
「そうね…今日はできる限り奥に行きましょう。ゴートマンを見つけたら、遠くからなら話せるだろうし、御犬君の“森精霊の聖石”があれば危険になってもすぐに帰れるし」
「野生の勘で、私も犬兄も二兎姉も異変には敏感。きっと、大丈夫、だと思う」
二個目の飴を舐めながら根子がそう言った。
「そうだな。思ったほど危険ではなさそうだし、もっと奥に行ってみるか」
休憩を終えて、御犬達はさらに奥に進んだ。
「いないな…ゴートマン」
御犬達は森のかなり奥まで進んでいた。二兎を追い込んだ食人植物をはじめ、数々の巨大植物と遭遇したが、今回は十分に警戒していたため難なく撃退することができている。それでも周りには草が生い茂り、太陽の光も木々で殆ど遮られている。
「また来たぞ!」
巨大な食人植物がまた襲いかかってきた。今回は二兎と根子を狙ったようだが、二兎の岩石によって防がれ、御犬にあっという間に燃やされた。
「意外とやるのね、二兎」
「油断しなければね」
転んだりして怪我をすることはあったが、かすり傷程度で済んでいた。お菊さんによって怪我は治されている。食人植物によるダメージは今のところない。
「結局、一番役立たずなのは私か…御犬と二兎は能力が高いし、お菊さんは治療できるし。しかも根子よりも戦闘能力が低いって…一応私も猫なのに……」
「蛇も入ってるから純粋な猫じゃないし、蛇毒も使えないんだろ?それでここまでの腕を持ってるのはすごいと思うぞ?」
ブルムを励ましながら御犬は森を進んだ。
「結構奥まで来たけど、何もいませんね」
「そうね…奥とはいっても、この森は広いし、最深部まで行くとUMAでも危険な場所だもの。元々、UMA一体を探すのは無謀だったかしら」
「御犬も流石に疲れてるでしょ?今日は一度帰ったら?」
「犬兄、お腹すいた」
「全員、限界が近いな。ブルムの言う通り、一度UMAニアに帰るか」
御犬が鞄から“森精霊の聖石”を取り出した。御犬はそれを使おうとする。
「犬兄、ちょっと待って」
根子が御犬を止めた。
「ん?どうした?」
「うん。どうせ帰るなら、もう少し…あっちに見える広そうなところまでなら行けるんじゃないか、と思う。すぐに帰れるなら、行ける時に行ったほうがいい、と思う」
根子は離れた場所に見える、木々の隙間から太陽の光が漏れている場所を指差している。
「…そうだな。あそこの方が“森精霊の聖石”を使いやすそうだし、行ってみるか。見たところ数十mくらいだし、根子は俺が抱えて、お菊さんには二兎とブルムがついてれば大丈夫か」
「あまり私を年寄り扱いしないように」
お菊さんは少し不満だったようだ。
「あ、いや、別に年寄り扱いしたわけでは……」
「ええ、わかってるわ。心配してくれたのね」
お菊さんはそう言って広場に向かって叢に入っていった。二兎とブルムがそのあとを追う。
「よし。根子、こっちに来い」
そう言われて近付いてきた根子を、御犬は左手で抱えるようにして抱っこした。
「根子、ゆっくり行くから木の枝に気を付けろよ」
「なんか私、子ども扱いされてる、気がする」
「子どもだろお前」
不満を言いながらもどこか嬉しそうにしている根子を左肩に乗せるようにして叢の中を進んでいく。
「…おじさん、大丈夫かな……」
叢を進む中、根子が心配そうにそう言った。
「大丈夫だろ。ゴートマンは種族的にかなり強いUMAだ。このくらいの森なんて簡単に突破できるだろ」
「もし、おじさんがいなくなったら、わたしはどうすればいいのかな……?」
「その時は、UMAニアにいればいい。あそこは元々は俺と二兎の家だけど、今は根子の家でもあるし、ブルムやお菊さんだって住みたいと言えば住めるようにはしてある。あそこはUMA全員の家だからな」
「じゃあ、おじさんが帰ってきたら、おじさんも一緒に住める?」
「ああ、勿論」
確信はなかったが、御犬はそう答えておいた。
(でも、もしかしたらゴートマンはもう死んでるかもしれない。生きてても、理性がないかもしれない。もし、今ゴートマンに理性がなくて、根子と一緒の時にに出会ったら……)
その時は、根子の目の前でゴートマンを止めないといけない。そして理性を失ったゴートマンを止めるには、殺すしかない。話し合いは試すだけ無駄だろう。
(そんなの、根子には見せられないな。今日はもう会うことはないだろうけど、これからも探すことにはなるだろうし……)
そう考えていると広場に着いた。二兎達は先に着いて安全を確認していた。
「ここは安全みたい。食人植物も危険生物もいないわ」
ブルムがそう言った。
「確かに、殺気とかは何も感じないな」
肩に乗っている根子も「うん」と頷いている。
「ところで御犬、“森精霊の聖石”はどこでも使えるんじゃないの?」
「ああ、どこでも使える。だけど使うには魔力がいるんだ。移動する人数が多かったり、周りに障害物が多かったり、長距離の移動だったり、集中してなかったりすると使う魔力は大量に必要になるんだ」
「つまり、さっきみたいな草や木が沢山ある場所では魔力が無駄に必要になるんですね」
「ああ。ここなら周りに障害物が少ないし、集中もしやすい。まぁ、元々使う魔力は少ないんだが、できる限り節約したいしな。魔力は攻撃や防御でも使うし」
「どうして?あるなら使えばいい、と思うけど?」
「根子はまだ幼いからな。そこまで深くは考えてないだろ」
「魔力はUMAにとっては命そのもの。使い切ったら死んじゃうの。だからできる限り節約しないといけない」
御犬とブルムが説明した。
「まぁ、食べたり寝たりすれば回復するし、種族によっては周りの物体や自然エネルギーからも補充できるらしいけど。だから普通に生活してれば使い切ることはないけどね」
「そうゆうものなの?おじさんはそんなこと言ってなかった」
「根子にはまだ難しいと思ったんだろ」
「私、子ども扱いされるのは嫌い」
「お前はまだ子どもだ」
御犬は鞄から今度こそ“森精霊の聖石”を取り出し、使おうとした。
「おい。ちょっと待て」
その時、どこからか声がした。
「え?また使用キャンセル?」
御犬がそう言った瞬間、広場の周りで突風が起こった。突風が広場を囲むようにして起こる中、広場には小さな旋風が起こった。
「な、なにこれ?」
二兎やブルムが目を瞑って腕で顔を庇う。
旋風がなくなり、その場にはハスターが立っていた。
「うわ!お前!」
御犬達はハスターから離れた。広場は狭いため、ハスターとの間は数mしか離れていない。
「ん?なんだ、この前来ていた御犬君達か」
ハスターは当然のようにそう言うと、広場の周りの突風を消した。
「おいハスター、お前何しに来た?」
「まあまあ、そんなに身構えないでくれよ。こいつも驚いちゃうだろ」
「こいつ?」
二兎が疑問を言った。よく見るとハスターの陰に隠れるように、小さな子どもがいた。
「なにその子?お前の子どもか?」
「いや、違う」
「じゃあ誘拐?」
「君は俺をなんだと思ってるんだ?」
「悪者だろ?お前」
ハスターは御犬の言葉を不快に思いながら子どもを自分の前に移動させた。子どもは女の子だった。学校の制服のような、ワンピースタイプの紺色の服を着ている。ワンピースなのに腰の部分にはベルトを付けていて、ベルトには左右に一つずつ小さい小物入れが付いている。そして、ベルトの背中のあたりからは猫のような尻尾、頭には黒い猫耳カチューシャを付けている。
「こいつは俺達のグループの、四天王の一人だ。俺と同じようにな」
「し、四天王?」
二兎が少し引いていた。
「言いたいことはわかる。俺も正直、四天王はどうかと思っている」
「ニャルは、ルルイエの四天王、土をつかちゃどる“ニャルラトテップ”。今年でじゅっちゃい」
「ところどころ噛んでるな」
ハスターとニャルラトテップからは敵意が感じられず、御犬は次第に警戒心を解いていった。それでも完全には解くことができない。以前会った時、ハスターの実力を垣間見た。本気で戦えば無事で乗り切ることはできない。
「お前は、なんでここに来たんだ?俺達を倒しに来たってわけじゃなさそうだな」
「ああ、ちょっとな」
「この森にUMAニアがあるのはわかってるだろ。そんな曖昧な答えだと安心できないな」
「心配するな。俺は元々、卑怯なことと嘘が大嫌いなんだ。本部でもしっかりと約束は守っただろ。UMAニアは襲わないし、君達のことも出来る限りは襲わないように仲間に呼びかけている」
「さっき言ってた、ルルイエってのか?」
「ああ、ルルイエは俺達のグループ名だ。気が荒い奴が多くてな。地球侵略を目指しているがすぐに戦争しようと言いやがる。邪神だからって何の準備もせずに戦争なんてできるかって言ってもなかなか理解しなくて説得が難しくて……話がそれたな。さっき言ったように、俺とニャル…ああ、こいつのことな。俺達はその四天王に数えられてる」
「クトゥルフの四天王……ハスターとニャルラトテップが入るなら、残りはクトゥグアとクトゥルフですか?」
恐る恐る、二兎がハスターに聞いた。
「君は詳しいね。二兎ちゃんだったか。でも名前が少し違うな。クトゥグアとクトゥルーだ」
「クトゥルー、ですか。呼び方はいろいろありますから、違うかもしれないとは思ってました」
「元々、人間には発音できない名前だからな。それでここに来た理由だが、あるUMAを探していてな。捕まえるように言われてきたんだ」
「あるUMA?俺達ではないようだな」
「ああ。もし君達だったらとっくに捕まえてる。俺が探してるのはゴートマンだ。この森にいるゴートマンの内の一体を探すことになっている」
「ゴートマン?それなら俺達も探してるんだ。こいつの育ての親でな」
御犬は肩に乗ったままの根子を見てそう言った。
「…見たところニャルと同じくらいだな」
「十歳って言ってたな。それなら同い年だ」
「育てられたのはいつまでだ?」
「なんでそんなこと聞くんだ?育てられたのはつい最近までだ。この前UMAニアに預けて、自分はこの森の中に姿を消した」
「そうか……」
ハスターはすこし安心したようだった。
「どうやら、俺と君が探しているのは別個体のようだな。俺が探しているのは三年前からルルイエに監禁されていた個体だ。この前逃げ出してな」
「監禁?」
根子が耳をピクピクさせて反応した。
「ああ、そいつはゴートマンの中でも特に獰猛でな。俺達の仲間とUMAを会わせて数十人は殺している。ルルイエとUMA、両方の敵だ。もし、君達の探している個体と同じだったとしても、最悪殺さないといけないからな。違って良かった」
「こっちのゴートマンは三年前も根子ちゃんと一緒に暮らしていた。確かに別個体のようね。そして、そんなに獰猛な個体なら、UMAニアとしてもほっておけないわ」
お菊さんが一歩前に出て、ハスターに言った。
「ハスター、だったかしら。一旦協力した方がいいと思うわ。ゴートマンは戦闘種族だし、いくら邪神でも簡単には捕まえることもできないはずよ」
「確かにそうだが、御犬君達はどう思ってるんだ?協力してくれるなら、俺達もそっちのゴートマン探しを手伝うが?」
「…悪い話ではないよな。ハスターはかなりの実力者だし、獰猛なゴートマンのことも気になる。それにできれば殺すのは阻止したい。一応UMAだし」
「でも、ルルイエは地球を狙ってる敵ですよ?」
「そうよ。手を貸すことはないわ」
二兎とブルムは反対のようだった。
「だったら、一緒に行動してそれを阻止すればいい。UMAは未確認生命体のこと、人間からみれば俺達もハスターも未確認生命体だ」
「成程。君はそうゆう考えか。なら俺達も君達を納得させるように行動しよう。あくまでも平和的にね」
「二兎、ブルム。ハスターは一応信頼できるし、少なくともこいつは今は敵意を持っていない。協力するのもメリットがあってデメリットは殆どない」
「そうね。この人達が協力してくれれば、ゴートマンを探しやすくなるわ」
「…わかりました。でも警戒はします」
「そうね。まだしっかりとした信頼は持てないわ」
「それが普通の対応だな。俺とニャルは、今日はもう帰ろうと思っている。それで、これからは常に一緒に行動するわけじゃないから連絡先を教えてくれないか?」
「あぁ、俺の携帯の番号を教える。ハスターも携帯は持ってるよな?」
「勿論持っている」
御犬とハスターは電話番号を交換した。
「交換は俺達だけでいいか……俺達も今、UMAニアに帰ろうとしてたんだ」
「そうか……御犬君。俺は君達とは争いたくない。そう思っているのは事実だ。それだけはわかっていて欲しい」
ハスターはニャルの頭を撫でた。
「俺はルルイエを変えようと思っている。いつか、根子ちゃんとニャルがお互いの家に遊びに行けるくらいになるといいな」
そう言うとハスターとニャルの周りに突風が吹き、二人は消えた。
「ルルイエに帰ったみたいだな」
「ケンさん。電話番号交換して良かったんですか?」
「あぁ、あいつは信頼できる」
御犬は言い切った。
「私も、信頼できる、と思う」
根子も御犬と同じく、ハスターを信頼していた。
「ニャルにまた会えるかな?」
肩の上から根子は言った。
「会えると思うわ。きっと二人は仲良くなれる」
「そろそろ俺達も帰るか。お菊さんは一旦UMAニアに来てから、“森精霊の鏡”で帰ってください」
「それが一番簡単な方法ね。わかったわ」
御犬は今度こそ、“森精霊の聖石”を使った。