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UMAニア  作者: 邪燕
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犬と兎の共同生活

 様々な種類の木々や草花が生い茂る森の深い場所にぽっかりと空いた広場。そこにその家は建っていた。外見は四階建てで洋風のかなり大きい家だが、周りの木々がうまく隠してくれているため、未だに人には見つかっていない。そう、人間には、見つかっていない。

 その建物の前に立って、青年はやっと安心感を感じた。なぜなら、ここまで来るのに五時間も森の中を歩いてきたからだ。別に道に迷ってはいない。そもそも道がなかった。まっすぐに、最短距離でたどり着いた。それでも五時間かかった。

「せめて、バスでもあればな…そしてちゃんとした道があればな…」

 そう呟きながら、青年は家に近付いた。青年は黒髪で中肉中背に見えるが少しだけ背が高い。よくある学ランと黒いズボン。黒いリュックサックを背負っている。

「えっと、鍵は…」

 旅行用のリュックサックから、預かっていたこの建物の鍵を取り出した。それを鍵穴に入れて回すと、玄関は簡単に開いた。

「よかった。古いから鍵穴が壊れてたらどうしようかと思った」

 とりあえず中に入る。洋風だからか玄関の靴を脱ぐ場所がない。いくつかの部屋を見て回る。長年ほったらかしだったからか、どの部屋も至る所に蜘蛛の巣が張っていた。床や天井、机の上などにはほこりが溜り、このままではとても住居としては使えそうにない。

「せめて玄関と自分の寝室は掃除しとかないと」

 深い森を歩いて疲れた身体に鞭を打って、青年は最低限の掃除をすることにした。玄関の近くにある部屋で掃除用具を見つけた。ロッカーに入っていたからかそこまで汚れてはいない。とりあえず二階にある一つの部屋を自分の部屋と決めて、床と机の上、ベッドの埃を取り除く。天井の蜘蛛の巣を取ったら、あっという間に外は真っ暗になった。

「玄関は……明日でいっか。どうせ誰も来ないだろうし」

 なんとかきれいになった自室のベッドに潜り込み、青年はすぐに眠ってしまった。布団の埃の臭いも気にならなかった。


 翌日。

 毎日決まって七時に起きていたからか、疲れていたにもかかわらずいつも通りの時間に起きることに成功した。

「今日も掃除か……」

 水道や電気はなぜか止められていなかったため、持って来たタオルを水道で濡らし、昨日も使った箒などの掃除用具を準備する。

「まずは玄関からだな」

 初めに昨日できなかった玄関から掃除を始める。玄関は特に汚れていて、蜘蛛の巣を取り除くだけで一時間近くかかった。次に、箒で玄関の埃やごみを掃いていく。玄関の扉を開けて外に出していたら、ごみの山ができた。あとでこのごみの山も片付けないと思うと、気が重くなる。人が住んでいた頃に読んでいたらしい新聞紙が殆どだ。

「一人だとやっぱり大変だな……」

 玄関の外に出て、すっかり暗くなって星が見える外を見る。

「早く、誰か来ないかな……」

 二日目は、玄関をとりあえず片付けたところで終わった。一日中掃除をしていたから、身体中が痛く感じ、掃除道具を片付けて自室の布団の上に寝転がる。

「明日は、誰か来るかな……」

 そう思いながら、すぐに深い眠りに落ちた。


「やっと着いた……」

 深い森をさまようこと約十時間。やっと目的の建物の目の前に辿り着いた少女は安心感を感じていた。なぜ十時間かかったかというと舗装された道路や案内板がなかったため、道に迷ってしまったからだ。少女は身長が低く、色素の薄いショートカットだった。水色と白色のセーラー服を着ている。

「結構古そう……」

 これから住むことになる家を見た第一印象はそれだった。正直、本当に住めるのか不安になった。

「大丈夫なのかな?」

 この建物の持ち主が亡くなって十数年経って、その人の孫が来ているらしいことは聞いていた。その孫との二人で、これからここに住むことになる。

「どんな人かな……」

 孫がどんな人なのか、実は詳しくは聞いてなかった。歳は同じくらいらしいが性別はわからない。

「会ってみればわかるか」

 とりあえず建物に入ることにした。玄関を押すと、開かない。手前に引くタイプらしい。思ったよりも簡単に開いた。力はあまり必要ないらしい。

「こんにちはー!」

 玄関に誰もいなかったため、大声で呼んでみると、すぐに人の気配がして、洋風の玄関の二階から青年が降りてきた。年齢は同じくらい。彼が話に聞いていた孫だと少女は確信した。

「ようこそ。……えっと、君がここで住む予定の?」

 少女は青年の問いに答える。

「あ、はい。今日からここで暮らすことになった、東海二兎あずま にとです。今年で十七です」

「いや、敬語じゃなくていいよ。俺は安賀多御犬あがた おいぬ。歳は君より一つ上だよ」

「いやいや、年上ですし……」

「俺、敬語とか苦手なんだよな……そんなに偉いわけじゃないし、優秀なわけでもないし」

「そう言われても……私だって、年上には敬語でしか話しませんし……」

 しばらくの沈黙。沈黙を破ったのは御犬だった。

「……仕方がないか。俺のはただの我侭だし。いいよ。話し方も呼び方も好きにして」

「はい。ありがとうございます」

 二兎が笑顔で答えた。

「とりあえず中に入って。…まだあまり掃除は進んでないけど」

御犬は自分の部屋と玄関の他に食堂の掃除を既に終えていた。とりあえず二兎を食堂に案内する。

「ここに来たの、最近なんですか?」

「うん。今日で四日目だな」

 食堂に着いた。食堂は玄関と同じく洋風。中央に大きな長机があり、部屋の中には大きな暖炉。机には白いテーブルクロスが掛けられている。

「うわ、凄く広いですね。十人いても余裕で寛げそうです。掃除、大変だったんじゃ」

「うん。まあ大変だったけど、誰がいつ来るかわからなかったし、できる限り掃除しておこうと思って。男ならともかく、女性だったら汚いのは嫌だろうし」

「そうですね……でも、そんなに気を使わないでくださいね?私もここの住人になるんですし、掃除もやりますから」

「でも君、ここに来たばかりだし、急に働かせたら悪いし……」

「ここはもう、私の家でもあるんです。だから私が掃除するのは当然です」

「…そっか」

 御犬は少し安堵した。もし気の強い子がきたらどうしようかと思っていたから、優しい子で安心した。

「あ、それと、私のことは二兎って呼んでください。君とか、ちょっと他人行事すぎです」

「そうか、わかった。次からそうする。じゃあ俺のことは…」

「御犬さんなので、ケンさんと呼びます」

「御犬さんじゃ駄目なのか?」

「それも、他人行事っぽいので」

 御犬と二兎は、その後すぐに掃除に取り掛かった。


「結構大変ですね」

 夜。御犬は自分と二兎の部屋以外の部屋を一通り掃除し、二兎は自分の部屋と大浴場を掃除した。今は御犬が三日かけて少しずつ買ってきた食材で二兎が晩御飯を作っている。

「ごめんな。風呂場全部やらせちゃって」

「いえ。家事は得意なので」

 御犬はもともと一人暮らしだったため家事は一通りできる。しかし二兎のレベルは御犬よりも遥かに上だった。

「さ、できました。早く食べましょう」

 あっという間に二人分の晩御飯ができた。二人で長机に運ぶ。

「なんか、寂しいですね。この長机に二人だけって」

「そのうちもっと増えるよ、きっと」

二兎の作った食事はとても美味で、御犬はすぐに食べ終わってしまった。食後にお茶を飲みながら、二人は改めて、自己紹介をすることにした。

「…そうですね。そろそろちゃんと話しておかないといけませんね」

「まずは俺から話す」

 二人はさっきまでとは違い、真剣な表情になった。まず話したのは安賀多御犬。髪は黒く、身長は180㎝くらい。太っても痩せてもいなく、イケメンでもブサイクでもない。よくいる男子学生という第一印象を覚える。

「名前は安賀多御犬、歳は十八歳。そして――」

 少し言いにくそうにする御犬。

「そして、“地獄の番犬”ケルベロスの能力を持っていて、黒炎を操ることと、あらゆるを無効化することができる。勿論、ケルベロスの姿にもなれる」

 御犬が右の掌を前に出す。すると掌から黒い炎が出現した。

「物を燃やす力は意図的に付けることができるし、人に纏わせる体力を奪うことが出来る。毒はフグ毒やトリカブトですら無効化する」

「凄い能力ですね…猛毒が効かないなんて」

 御犬が黒炎を消した。

「次は私ですね」

次に話しだしたのは東海二兎。若干茶色いショートカットで身長は160㎝くらい。今はセーラー服を着ているが、その上からでもわかるくらい胸がない。怒られそうなので御犬はそれの話に触れないようにしている。

「私は東海二兎で十七歳。能力は“宝石の守護者”カーバンクル。鉱物を自在に操ることができます。私もカーバンクルになれますが、見た目は殆どただの兎です」

 二兎は食事で使ったスプーンを手に持った。するとスプーンがフォークに変形した。若干形は不自然だが。

「そっか。そのスプーンはステンレス製、ステンレスは鉄も含んでたな」

「はい。外にある石や岩の他、金属製品や宝石も自在に操れます。宝石に限っては、どこでも空気中から生成できます。当然偽物ですが」

 二兎が両手を前に出す。手の上に赤い宝石が現れた。

「硬度は宝石と同じかそれより硬いです。攻撃にも防御にも使えますが、硬すぎて攻撃には向きません。相手が死んでしまいます」

 二兎は赤い宝石を消した。

「ケルベロスとカーバンクルか……いきなり珍獣だな」

「そういえばケンさん。この家の名前は考えたんですか?」

「そういえばまだ考えてなかったな……」

「じゃあ、私が付けてもいいですか?」

「何か、案があるの?」

「はい」

 二兎は紙に何かを書いて、御犬に見せた。

「ゆーまにあ?」

「UMAニア、です。未確認生命体のUMAと、特定の分野に対して没頭するマニアをかけてみました」

「UMAニアか……いいと思う」

 御犬も気に入ったらしい。この建物にはぴったりの名前だった。

「この国の嫌われ者達の秘密の隠れ家、UMAニア。明日、看板も作らないとな」

「手伝いますよ。室内の掃除は殆ど終わってますし」

「あぁ。よろしくな、二兎」

「はい。こちらこそ」

 この国の嫌われ者、詳しく言うと、動物からかけ離れた動物。いわゆる未確認生命体や妖怪、怪獣、怪物。そういった者達が集まる場所。人間には、決して見つからない場所。それがここ、UMAニア。


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